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相続が「争続」とならないためにも遺留分には気を付けましょう

相続が「争続」とならないためにも遺留分には気を付けましょう

「子どもたちがいつまでも仲良く幸せに」これは親の一番の願いではないでしょうか。

もしものことがあったときに備えて、相続対策をすることは大切です。その相続対策のひとつとして遺言書があります。

しかし、遺言書を書いたから大丈夫と思っていても、安心できないケースもあるのです。例えば、法定相続人の遺留分という権利がかかわってくる場合などが挙げられます。

ここでは、実際に受けた相談をご紹介しながら、遺留分に関する詳細な説明や、子どもたちが「争続」とならないための注意点などを詳しく解説していきます。


この記事の著者
  一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種) 

ある相続問題のケース

半年ほど前に、64歳になる男性Cさんが相続の相談に私の事務所にいらっしゃいました。相談内容は、「2ヶ月前に亡くなった父Aの遺産をめぐって兄弟げんかとなり、訴訟まで起こすと言われています。なるべく円満に解決したいのですがどうしたら良いでしょうか。」とのことでした。相談者Cは長男で、弟Dと妹Eがいる3人兄弟です。

Cには妻と子ども2人がいて、Cの両親とは別に暮らしていたのですが、Cは年老いて弱々しくなった両親が二人だけで暮らしているのが心配で、4年ほど前に両親と実家に同居し、二人を介護することにしました。

同居して間もなく、母Bが末期の胃がんであることが判明しました。医師からは高齢であり手術が不可能と告げられ、入院して治療に専念しましたが、1年ほどして87歳で他界しました。

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父は遺言書を書いていた

Cは母Bが亡くなった後も、実家で父Aを介護していました。母Bが亡くなって半年ほどたったある日、父Aは「公正証書遺言があるから見てごらん。」と言って遺言書を出してきました。内容を読むと、まだ母Bが元気でいた頃に書いたもので、次のようなものでした。

「私が死んだら、私の財産はすべて妻Bに相続させる。もし妻Bが先に亡くなっていたら、家と土地は長男Cに相続させるので、この土地を守ってほしい。銀行にある預貯金は仲良く兄弟3人で分けること。」

その当時、父Aはまだ比較的元気であったので、Cは遺言書の内容をあまり気にとめずにいました。


父Aが亡くなって遺産の話になった

母Bが他界してから3年ほどたって、父Aは老衰のため93歳で亡くなりました。

Cは喪主として告別式や初7日などの葬儀すべてを執り行い、年金や後期高齢者医療保険の停止手続きも無事に終了しました。そして49日の葬儀も過ぎた頃、兄弟3人は遺産の話になりました。もし父Aにたくさんの遺産があったら、相続税を払わなければなりません。

相続人である兄弟3人で調べた結果、自宅の相続税評価額が3500万円、3つの銀行にある預貯金が合計で900万円でした。合わせると4400万円で、相続税の基礎控除額4800万円(3000万円+600万円×法定相続人の数)に満たないことが分かりました。3人が相続税を払わなくて済むとほっと安心したときに、Cは父Aに遺言書があることを思い出し、取り出してきて弟Dと妹Eに見せました。

それを読んだ弟Dは激怒して次のように言ったのです。

「兄貴ばかりずるい。遺言書の通りに預貯金900万円を3人で分けたら、俺は300万円しかもらえないじゃないか。兄貴は、親の家のほかに現金300万円もとるのか。俺の遺留分を侵害しているから、遺留分侵害額請求権で訴えるぞ。」

妹Eも弟Dの意見に同調するようでした。Cは父Aの遺言通りに親の土地と建物を譲り受け、代々の土地を守っていきたいと考えていましたが、どうして良いか分からなくなってしまいました。


遺留分侵害額請求権とは

民法では、法定相続人が被相続人(亡くなった人)から遺産を相続する割合を、法定相続分として定めています。例えば、配偶者と子どもの法定相続分は2分の1ずつです。今回の例では、父Aの配偶者である母Bは既に亡くなっていて、子ども3人が法定相続人ですから、それぞれの子どもには3分の1ずつの法定相続分があります。

もし遺言書を書き残していて、遺言書に法定相続分と違った割合で相続分を指定していた場合には、遺言書で指定した相続割合が法定相続分より優先されます。

しかしながら、配偶者や子どもなどの法定相続人には、最低限保証されている相続割合があります。これを遺留分といって、今回のケースでは、次男Dと長女Eには法定相続分の2分の1である6分の1ずつ相続する権利があります。この遺留分は遺言でも侵すことはできません。遺留分侵害額請求権とは、2019年7月1日から施行されている法律で、過分に相続している相続人に対して、遺留分を侵害している割合を金銭で支払うように請求できる権利です。(※1)

親の土地と建物を不動産鑑定士に時価評価してもらったところ、評価額が3900万円と分かり、預貯金900万円を合わせると遺産総額は4800万円になりました。次男Dと長女Eの遺留分はその6分の1なので、それぞれ800万円になります。遺言通りに相続するとしたら、次男Dと長女Eは、長男Cに対して500万円(800万円-300万円)を請求できることになります。ただし、遺留分侵害額請求権を行使できるのは、相続を知ってから1年以内です。


遺産分割協議書は全てに優先する

Cは「何とか円満に解決したいが、弟や妹にそれぞれ500万円もの大金を払う余裕はありません。かといって、親の土地と建物を売却して現金化するのは父の遺言に反するし売却したくありません。」と悩んでいます。さらに「親の土地と建物を兄弟3人の共同名義にしたらどうだろうか、とも考えました。」と述べています。

私がCにアドバイスしたのは、次のようなものでした。

「親の土地と建物を兄弟3人の共同名義にするのは好ましくありません。すぐに売却するつもりなら良いのですが、長く土地を守っていこうとするなら、将来兄弟間で争いになるリスクがあります。例えば、誰かが現金が欲しいから売却しようと提案しても、3人が合意しなければできません。また、兄弟の誰かが亡くなったときには、その子どもが相続人となり土地や建物の権利を引き継ぎますから、だんだんと権利関係が複雑になっていきます。」

「分かりました。しかし私には不足する遺留分を請求されたらお金は持っていません。どうしたら良いのですか? 」と悩むCに、私はさらに次のようなアドバイスをしました。

「まず弟さんと妹さんの3人でよく話し合うことです。長男であるあなたは、最後まで両親の介護をして苦労をしました。お父さまも代々の土地を守ってほしいと遺言書を作成して、あなたに託したのです。お父さまの土地と建物はあなたが譲り受けるから、預貯金900万円を弟さんと妹さんで半々ずつ分けることで納得してもらえないか説得してみてください。もしそれでも納得してもらえず訴訟になるようなら、残りの不足分については裁判所に支払期限の猶予を申し出て、お金の準備ができ次第払うつもりだからと説明します。
弟さんと妹さんに納得してもらえたら、3人が合意した内容で遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書にはそれぞれが署名し、実印を押します。作成するのに不安があれば、弁護士や司法書士などに立ち会ってもらい作成しても良いでしょう。」

相続する割合が遺留分より少ないとしても、相続人全員が合意した遺産分割協議書の内容は遺留分より優先されます。


最後に

後日談として、Cは土地と建物を相続し、弟Dと妹Eが預貯金900万円の半々ずつ450万円を相続することで合意したそうです。そして「遺産分割協議書を司法書士の立ち会いの下で作成し、実家の相続登記も無事済ませたので安心した。」とおっしゃっていました。

自分が亡くなった後で相続人が争わないようにと遺言書を書くことが多くあります。しかし、遺留分に注意しないと逆に争いのもとになる場合もあるのです。特に銀行に預けた預貯金などは、遺言書を書いた後で増減します。今回の例も、父Aは遺言書を書いてから家をリフォームして、1000万円ほど預貯金を減らしていました。

遺言書を書く場合には、相続が「争族」とならないためにも遺留分には気を付けましょう。

出典

(※1)法務省 相続に関するルールが大きく変わります

    項目7:遺留分制度の見直し

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著者プロフィール

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村川 賢

一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。

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