大切な人が亡くなったら何をすべきか? 【相続法改正に対応】はじめての相続手続き
「相続」と聞くと、遺産がもらえるイメージが強いですが、実は故人の財産とともに、債務も引き継ぐことになります。
相続税が課せられたり、仮に遺産をもらえても管理が大変だったりと、相続人にとって、よいことばかりであるとは限りません。
相続の放棄は可能ですが、放棄には期限が設けられており、気が付いた際には、すでに多額の借金を相続してしまっているケースも考えられます。
また、遺言書の内容を実現するために、手続きを行う「遺言執行者」の役割を説明しつつ、いざという時に困らないよう、今回の記事を通して、相続の基礎知識を学んでおきましょう。
1 相続が発生したら何をすべきか
身近な人がお亡くなりになると、悲しみに包まれ、その後の諸手続きなどは手に付かない状態になることも多いことでしょう。しかし、人が亡くなれば、故人に関する手続きを必ず身近な者が行わなくてはなりません。また期限が決められている手続きもあります。
相続に関する法律は主に民法によるものですが、平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布)。昭和55年以来、約40年ぶりの大幅な見直しになります。このコラムでは、その改正部分を取り入れながら、相続が発生したら何をすべきかについてご説明いたします。
そもそも、相続の発生とはいつのことをいうのでしょうか。民法では「相続は、死亡によって開始する」(民法882条)とあり、亡くなられた日が相続の発生した日となります。
また、お亡くなりになられた方を「被相続人」と呼びます。
「相続」というと、被相続人の遺産を誰がいくら相続するのかを考えていかなければなりません。しかし実際はまず葬儀の手配をはじめ諸手続きが必要になります。
葬儀を執り行う時は、その費用を誰が負担するのか、お香典は誰が管理するのかなど、お金に関して、出来るだけ話し合っておくとよいでしょう。また、領収書等は必ず保管しておいてください。領収書が出ないようなお車代などを支出した時は、いつ、誰が、誰に、いくら渡したかなど、メモをしておくといいでしょう。葬儀に関する領収書は相続税の計算時に必要になりますし、また、遺産分割協議を後に行う場合にも役立ちます。
2 遺言書の存在の確認と遺言執行者
被相続人は遺言書を遺していたでしょうか。まず被相続人が遺言書を遺していたかどうか探してみましょう。遺言は自分が死亡した際に遺産を誰にどのように分けるかを記載した最終の意思表示であって、遺言者が死亡した時からその効力が生じます(民法985条)。
遺言書が遺されていた場合は、遺産分割協議は必要なく遺言書の内容に則り、相続財産を分配することになります。遺言書が複数ある場合は、日付が後の遺言が優先されます。
遺言書は「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類に分類されます。よく利用されるものは、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」なので、この2種類をご紹介いたします。[1]
(1)「公正証書遺言」の場合
公正証書遺言があった場合は、その遺言は被相続人が生前公証人関与の元に作成した遺言書であり、相続人間で開封してしまって構いません。相続人は、公正証書遺言があるかどうか全国の公証役場で検索することが出来ます。公正証書遺言があることがわかったら遺言書を作成した公証役場において謄本請求や原本を閲覧することも出来ます。また、平成31年(2019年)4月1日より、遠隔地の公証役場が保管する公正証書遺言の謄本等を郵送で取得することが出来るようになりました。
(2)「自筆証書遺言」の場合
自筆証書遺言が見つかったら、封をすぐ開けてはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります(民法1004条)。
「検認」とは、その遺言の形式に不備がなく、遺言書としての効力を持つものかどうか、家庭裁判所において確認をする手続きです。家庭裁判所に「検認の申立て」を行う場合は、添付する必要書類がありますので、裁判所に確認するようにしましょう。
(3)自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日に自筆証書遺言書保管制度が開始されました。遺言者は自筆証書遺言書を書いた後保管の申請をし、遺言書保管所(法務局)に預けることが出来ます。預けた遺言書は遺言者本人であれば閲覧出来ますし、返してもらうことも出来ます。自筆証書遺言書は家庭裁判所において「検認」手続きが必要なのですが、被相続人がこの制度を利用し、遺言保管所(法務局)に預けていた遺言書は、検認が不要となります。この制度を被相続人が利用していたかどうかは、相続人が最寄りの遺言書保管所(法務局)に確認をすることが出来ます。[2]
(4)遺言執行者とは
遺言執行者とは、その遺言の内容を実現するために手続きをする人です。遺言執行者が選任される状況は3つあります。遺言執行者になるための資格は特になく、未成年者と破産者は遺言執行者になれませんが、それ以外の制限はありません(民法1009条)。
① 遺言書で指定されている
遺言書であらかじめ「遺言執行者は〇〇さんとする」というように指定されている場合です。ただ、指定された人は断ることも出来ます。
② 遺言執行者を選任する人が遺言書に記載されている
遺言書に「〇〇さんが遺言執行者を選任する」というように記載してあれば、その〇〇さんが遺言執行者を選任することになります。
③ 家庭裁判所が選任する
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や、①の指定されている人に断られてしまった場合、また①の指定されている人や②の選任をする人が既に亡くなっている場合などで、どうしても遺言執行者が必要な時は、家庭裁判所に選任をしてもらうことが出来ます。この時に、申し立てをする側(相続人)が遺言執行者の候補者を指定して申し立てをすることも出来ます。
(5)遺言執行者の役割
今回の民法改正においては、遺言執行者の権限も明確化されています。改正前は、遺言執行者は「相続人の代理人」という位置付けでした。しかし、実際の業務はその遺言を執行するための業務でしたので、相続人に対して不利益な事柄もあり、「代理人」という立場と整合性が取れていませんでした。そこで今回の改正において、遺言執行者は、「遺言の内容を実現するもの」とされ、遺言執行者になることを承諾した人は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」ことになります(民法1012条)。
遺言執行者になることを承諾したら、直ちにその任務を行わなければなりません。まずは遺言執行者として就任した旨の通知と遺言の内容を相続人に通知することから始まりますので、相続人の確定を行わなければなりません(民法1007条)。また相続財産の目録も作成して相続人に交付し、遺言内容を執行していきます(民法1011条)。
(6)遺言執行者が指定されていない遺言書
遺言執行者が指定されていない遺言書の場合は相続人が協力して遺言内容を実現していきます。しかし遺言書の内容によっては、遺言執行者が必要になるものもあります。遺言書の内容に①認知(民法781条 戸籍法64条)②推定相続人の廃除・取消※(民法893条)があった場合は、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらわなければなりません。
※推定相続人の廃除・取消・・・「廃除(はいじょ)」とは、遺言者は、自らに対する虐待や重大な侮辱を受けたり、著しい非行行為があった時には、その行為をした推定相続人(遺言書を作成する時点で将来相続人になる予定者)を相続人から除外する手続です。また、遺言者が生前に行った廃除を遺言書で取り消すことが出来ます。
(7)遺言執行の妨害
遺言執行者は遺言を実現するために任務を行いますが、それに対して遺言内容に不満があり妨害をする相続人がいる場合があります。民法では、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」としており、相続人が遺言の内容に反する財産処分などを行った場合、その行為は無効となります(民法1013条)。しかし今回の改正において、遺言書の存否や内容を知らないで取引等を行った者(法律上では善意の第三者という)を保護する項目が新設されました(民法1013条2項)。
例えば遺言内容では、被相続人の土地をAさんに遺贈するとあるのに、勝手に相続人Bさんがその土地を自分の土地としてしまい、売却してしまったりするケースです。
この場合、Bさんから土地を売ってもらったCさんについては、Cさんが、遺言内容を知らなかった場合などは、その土地の売買取引は「無効」にならないという項目が新設されました。
- Cさんが遺言の内容を知っているのに土地を買った → 取引無効
- Cさんが遺言の内容を知らないで土地を買った → 取引自体は有効
遺言執行者としては、このようなトラブルは避けたいところですので、相続人をいち早く確定し迅速に行動する必要があるでしょう。
民法改正によって、遺言執行の妨害についてもうひとつ項目の新設があります。「相続人の債権者(相続債権者※を含む)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。」となっており、相続人の債権者や相続債権者は遺言書の内容を知っていたとしても、債権者としての権利を行使することが出来ます(民1013条3項)。
※相続債権者・・・被相続人に対して債権を持っていた人