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採用のミスマッチを防ごう 定着してもらうために

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

採用のミスマッチを防ごう 定着してもらうために

採用に関しての最終回。

30年間、経営者の悩みを聞き続けてきましたが、人の悩みは本当に尽きません。

いろいろな採用手法(教育・育成のお話も少々)の話をしてきましたが、改めて「定着してもらうために」というテーマで、さまざまな角度から話を進めていきたいと思います。


短くなる企業の存続寿命と長くなる個人の勤務寿命

企業の寿命が短くなってきています。2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年(前年23.7年)で、2年連続で前年を下回りました(東京商工リサーチ)。法律で決められた定年も60歳から近年中に65歳に、そして70歳になるのではないかという話も出ている昨今。高卒18歳、大卒22歳とすると定年65歳の場合には、47年間、43年間社会人として働くことになりますが、計算上は2社以上経験することになります。

そして、社会的な変化と共に、個人の思考(志向)の変化も著しいものがあります。新入社員として入社した企業で定年までずっと働きたいという人が少なくなる傾向にあります。2020年の新入社員の調査では「定年まで」という答えは17.9%。勤続予定年数は、「3年以内」という回答が28.0%、「10年以内」50.3%と半数を超えました。

また、大手を中心に「副業(複業)解禁」のニュースが流れ、個人としても興味関心を持つ人が増えてきていることからも、1社でずっと働くという意識が薄れてきています。企業側は自社の魅力を発信し、それを実感してもらえる環境を整えることに苦心しなければ、あっという間に離職率が高くなってしまう世の中にもなりました。


企業の魅力をどう作っていくか?

魅力を実感してもらうためにも企業が努力する必要のあることはたくさんありますが、一つは「いじめ・嫌がらせ」撲滅でしょう。労働相談の調査データによると、1位は「いじめ・嫌がらせ」です(2位以下は「自己都合退職」「解雇」「労働条件の引き下げ」「退職勧奨」・・・と続きます)。

これは大人の世界の話です。小中学生に「いじめはダメだよ!」という授業が行われていますが、大人の世界こそ、まず見本を示さなければと思います。大人だから自立・自律することは必要でしょう。ただ、いつもご機嫌に100%の力で仕事に臨める日ばかりではないことは周知の事実だと思います。まだ力の無い、もしくは弱い人に力を持ってもらえるようにまわりが支援する。心が弱くなっている時に助ける。弱さを自覚した人間ほど強いように、個人の弱さを補い合える会社は強いと思います。法律が制定されたからハラスメントを防止しなければという考え方は少々寂しいものですが、いい機会と捉えることも必要です。

2019年5月、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立しました。改正法は、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行されます。トップがハラスメント撲滅を発信する、研修を実施する、皆で「ハラスメント」をテーマに意見交換をやってみる等、まずは前に進む行動をおこすことから始めてみることをお勧めします。(大人であっても)思ったことを表現してみる。我がままで何かを発信することには承服しかねますが、意見(建設的なことはもちろん、困っていることを含めて)を言いやすい、そしてそれを皆で考える姿勢を持っている企業は定着率が高いものです。「ティール組織」「ホラクラシー」「自然経営」等々、自律分散型の組織が流行りのように取り上げられることがありますが、「オープンであること」「自己決定権(誰かに従っているのではない)」がより良い職場環境を作っていく礎になると思います。

法律に則して話を進めると、働き方改革関連法案(8本の労働法の改正を行うための通称)は気になるところです。2019年4月から順次施行されていますので、もう2年半が経ちました。社内の雰囲気に変化を感じられていますか。

まだまだ改善の余地がある、改善しなければと思われる企業であれば、コロナ禍を踏まえて、新たな人事理念、人事戦略を見出せる絶好のチャンスだと思います。「残業削減!」「生産性向上!」のみを声高に叫んでも、社内の雰囲気は良くなりません。これが求められている現状、そうなった社会的な背景、自社でどうすればそれが実現するか?等々、学びの後に意見を出し合うことから始めてみてはいかがでしょうか?未来を予測することは不可能です。1秒先たりともそれはなしえませんが、誰もが分かっていないからこそ、5年、10年先を想像(創造)する楽しみを感じることができるようにも思います。


具体的な手法

 

コロナ禍、相談が増えたのは、「テレワークを実施するための支援」と「教育訓練の仕組み作り」です。

テレワークを今まさに実施するためにどうしたらいいかという相談になりがちですが、突き詰めていくと、どうしても将来構想を踏まえて考える必要性が出てきます。今すぐに取り組めることを申し上げるならば、少なくとも業務分析は必要でしょう。誰が何をどのくらいの時間をかけて行っているかが分からなければ、本人も人事管理上もテレワークを実施しづらくなります。

テレワークの相談をいただいておきながら、それ以上に教育訓練の仕組み作りに力を入れることを決めた会社もあります。業務分析をしてみると、教育格差が分かり、格差が無い状態に持っていくためにどうしたらいいかということがテーマだった企業。テレワーク環境において、新入社員の入社時の教育が対面不可能となり、リモートでどうやっていくかを手始めに、社内の教育全体の見直しを検討し始めた企業。

後者の企業は、「離れているからこそ、近くにいることを感じられるようにするために」ということもテーマになり、「ドリームマネジャー・プロジェクト」というものが立ち上がりました。業務内でも業務外でも構いません。夢を考え、発表し、その人の夢の実現のために従業員みながその人の応援者となる。見聞きしたことをその人の夢の実現のために伝える、時には相談にのる。このプロジェクトは始まったばかりですが、その人となりが分かったことにより、明らかにコミュニケーションの質量があがり、本業に活かされていることが感じられます。

採用のその後がどなたにとっても「この組織で働けて良かった」と言えるものであるようにと願ってやみません。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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