就業規則の作り方 どうする?賞与と退職金
賞与も退職金も、法律上支給を義務付けられているものではありません。
しかし、これらを支給している会社は多く存在します。
賞与や退職金の制度を設ける場合、これらの事項は就業規則の相対的必要記載事項に該当するため、就業規則に定めを置かなければなりません。
今回は、賞与と退職金について解説します。
賞与の支給状況は?
多くの会社では、一般に夏と冬の年2回、労働者に賞与を支給します。厚生労働省「毎月勤労統計調査」から、令和3年の夏季賞与の支給状況をみてみると、賞与を支給した事業所数の割合は65.1%となっています。支給事業所における労働者一人あたりの平均賞与額は380,268円となりました。
令和3年 |
令和2年 |
|
---|---|---|
支給事業所数割合 |
65.1% |
65.3% |
労働者一人平均賞与額 |
380,268円 |
383,439円 |
きまって支給する 給与に対する支給割合 |
0.99カ月 |
1.01カ月 |
(参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和3年夏季賞与の支給状況」)
年末賞与に関しては、次のとおりです。
令和2年 |
令和元年 |
|
---|---|---|
支給事業所数割合 |
69.8% |
73.2% |
労働者一人平均賞与額 |
380,646円 |
390,733円 |
きまって支給する 給与に対する支給割合 |
1.03カ月 |
1.02カ月 |
(参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和2年年末賞与の支給状況」)
賞与の規定例
賞与に関しては、就業規則に定めを置きます。ただし、就業規則で夏と冬の年2回、定期的に必ず支給すると定めると支払い義務が発生してしまうので、会社の業績等に応じて支給するという旨の定めを置くことが一般的です。また、算定対象期間や支給対象者などについても定めておきます。
【就業規則の規定例】
第〇条(賞与)
- 1 賞与は、原則として、下記の支給日に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
支給日 |
夏季賞与: 月 日 |
冬季賞与: 月 日 |
2 賞与の算定対象期間は次のとおりとする。
算定対象期間 |
夏季賞与: 月 日から 月 日まで |
冬季賞与: 月 日から 月 日まで |
- 3 賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。
賞与の支給対象者を支給日に在籍した者とする規定を設けることで、期間の途中で退職等し、その日に在職しない者には支給しないという取り扱いができます。
退職金制度の有無は?
退職金に関しても、制度を設けるか設けないかは会社の判断となります。厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は 80.5%です。企業規模が大きくなるほど退職金制度がある割合が多く、「1,000 人以上」が 92.3%、「300~999 人」が 91.8%、「100~299 人」が 84.9%、「30~99 人」が 77.6%となっています。
企業規模 |
退職給付(一時金・年金)制度がある |
退職給付(一時金・年金)制度がない |
---|---|---|
1,000人以上 |
92.3% |
7.7% |
300~999人 |
91.8% |
8.2% |
100~299人 |
84.9% |
15.1% |
30~99人 |
77.6% |
22.4% |
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)
同調査によると、平均的な退職金額は次のとおりです。
【退職者1人平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)】
大学・大学院卒 (管理・事務・技術職) |
高校卒 (管理・事務・技術職) |
高校卒 (現業職) |
|
---|---|---|---|
定年 |
1,983万円 |
1,618万円 |
1,159万円 |
会社都合 |
2,156万円 |
1,969万円 |
1,118万円 |
自己都合 |
1,519万円 |
1,079万円 |
686万円 |
早期優遇 |
2,326万円 |
2,094万円 |
1,459万円 |
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)
退職金の規定例
退職金制度を設けたときは、適用される労働者の範囲、退職金の計算方法などを就業規則に記載しなければなりません。
【就業規則の規定例】
第〇条(退職金の支給)
- 1 勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続〇年未満の者には退職金を支給しない。また、第〇条により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
- 2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。
第〇条(退職金の額)
- 1 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。
勤続年数 |
支給率 |
5年未満 |
1.0 |
5年~10年 |
3.0 |
11年~15年 |
5.0 |
16年~20年 |
7.0 |
21年~25年 |
10.0 |
26年~30年 |
15.0 |
31年~35年 |
17.0 |
36年~40年 |
20.0 |
41年~ |
25.0 |
- 2 第〇条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない。
第〇条
- 退職金は、支給事由の生じた日から〇か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。
厚労省の規定例は、退職又は解雇の時の基本給と勤続年数に応じて算出するタイプとなっています。このように「退職時の基本給 × 勤続年数に応じた支給率」で計算すると定めている会社は多いと思いますが、退職金額は会社に対する功績や貢献度合い等も考慮して決めることができますから、ポイント制退職金制度の導入なども可能です。ポイント制退職金制度とは、勤続年数1年につき公平に付与される「勤続ポイント」、労働者の能力や貢献度などに応じて付与される「職能ポイント」などを累積し、その累積ポイントにポイント単価を乗じて支給額を決定するしくみをいいます。
【就業規則の規定例】
第〇条(退職金の計算)
- 1 退職金は退職時点における本人のポイントに、1点あたりの単価を乗じて算出する。
- 2 前項の1点あたりの単価は10,000円とする。ただし、社会情勢の変動に応じ、この単価を改定する場合がある。
その他、中小企業退職金共済(中退共)制度を利用する方法もあります。
【中退共制度】
会社が独立行政法人勤労者退職金共済機構と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付します。労働者が退職したときは、その労働者に中退共から退職金が直接支払われます。
令和3年10月末現在、中退共制度に加入している会社は376,947社、加入している従業員は3,617,986人となっています。
【就業規則の規定例】
第〇条(退職金の支給)
- 1 退職金の支給は、会社が各社員について独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部との間に、退職金共済契約を締結することによって行うものとする。
- 2 新たに雇い入れた社員については、試用期間を経過し、本採用となった月に機構と退職金共済契約を締結する。
- 3 退職金共済契約の掛金月額は、各人の役職に基づき別表のとおりとする。
- 4 就業規則に定める休職期間中については、会社は掛金の支払を行わない。
- 5 退職金の支給額は、その掛金月額と掛金納付月数に応じ、中小企業退職金共済法に定められた額とする。
- 6 退職金は、従業員(従業員が死亡したときは遺族)に交付する退職金共済手帳により、機構・中退共本部から支給を受けるものとする。
- 7 従業員が退職又は死亡したときは、やむを得ない理由がある場合を除き、本人又は遺族が遅滞なく退職金を請求できるよう、速やかに退職金共済手帳を本人又は遺族に交付する。
(別表)
役職 |
掛金金額 |
役職 |
掛金金額 |
役職 |
掛金金額 |
部長 |
〇円 |
次長 |
〇円 |
課長 |
〇円 |
係長 |
〇円 |
主任 |
〇円 |
一般 |
〇円 |
なお、退職金に関しては規定事項が多くなるので、就業規則の中ではなく、別に退職金規程として定めることもできます。
賞与と退職金については労働者の関心も高く、ルールがあいまいだとトラブルの発生も予想されます。制度を設けるのであれば就業規則にしっかり記載し、労働者に周知をしておきましょう。