就業規則の作り方 賃金規程の定め方
賃金は、労働の対価として労働者に支払われるものです。よって、賃金が労働者の手に確実に渡るよう、労働基準法では賃金支払いの5原則を定めています。また、賃金の計算や支払の方法などは就業規則への記載が必要です。もちろん、賃金に関する事項について、就業規則とは別に賃金規程として定めても構いません。今回は、賃金規程の定め方を解説します。
賃金の構成例
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間、職場内の規律などについて定めたルールブックです。就業規則には必ず記載しなければならない事項が決められており(絶対的必要記載事項)、「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は絶対的必要記載事項にあたります。賃金に対する労働者の関心は高いですから、トラブルを防止するためにも分かりやすくルールを定め、周知しておきましょう。
一般に、賃金は「基本給 + 諸手当」で構成されます。法律上、割増賃金は支払い義務がありますが、家族手当や住宅手当などを支給するかどうかは企業が判断できます。どのような手当を設けるか、また、設けた手当の金額をいくらにするかは各企業が決めることになりますから、手当の趣旨や目的を考えて定めてください。
【賃金の構成例】
第〇条(賃金の構成)
賃金の構成は、次のとおりとする。
基本給の定め
基本給は、さまざまな要素が考慮されて決定されます。厚生労働省では、「基本給は、職務内容や職務遂行能力等の職務に関する要素や勤続年数、年齢、資格、学歴等の属人的な要素等を考慮して、各事業場において公正に決めることが大切です」としています。基本給決定のルールは労働者の意欲にも影響しますから、労働者が納得感や公平感を持てる仕組みづくりが重要です。
【基本給の規定例】
第〇条(基本給)
基本給は、本人の職務内容、技能、経験、責任の程度、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。
諸手当の支給状況
どんな手当を支給するかは各企業で決定できます。しかし、労働者が職場を選ぶ際、諸手当について他社と比較することが考えられますから、その支給状況について確認しておきましょう。人事院「令和3年職種別民間給与実態調査の結果」から、家族手当の支給状況を見てみると、家族手当制度がある企業は74.1%となっています。また、人事院「令和2年職種別民間給与実態調査の結果」から、通勤手当の支給状況を見てみると、通勤手当を支給している企業は92.0%です。ちなみに、コロナ禍において関心を集めたテレワーク(在宅勤務)に関しては、在宅勤務を実施している企業が49.8%で、そのうち在宅勤務手当を支給する企業は23.1%となっています。なお、支給することに決めた手当については、賃金規程に定めを置く必要があります。いくつか例を見てみましょう。
家族手当の規定例
家族手当の支給対象者や金額は企業が自由に定めることができます。
【家族手当の規定例】
第〇条(家族手当)
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
- ① 18歳未満の子
1人につき~月額○○円(ただし、3人目以降は1人につき△△円とする) - ② 65歳以上の父母
1人につき~月額○○円
支給対象を「18歳未満の子」だけに限ることもできますし、配偶者を対象者に含めることもできます。ただし、配偶者に関しては、厚生労働省から「配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項」が出されるなど、見直しの機運が高まっています。
【配偶者手当の在り方】
配偶者手当は、税制・社会保障制度とともに、就業調整(働く時間の抑制)の要因となっています。今後人口が減少していく中で、働く意欲のあるすべての人がその能力を十分に発揮できるようにするため、パートタイム労働で働く配偶者の就業調整につながる収入要件がある配偶者手当については、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれます。
先の人事院調査によると、家族手当制度がある企業のうち配偶者を支給対象としている企業の割合は74.5%となっており、今後の動向が注目されます。
通勤手当の規定例
通常、通勤手当は電車やバスの定期代相当額となります。
第〇条(通勤手当)
通勤手当は、公共交通機関を利用して通勤する者に対して、1か月の通勤定期券代相当額を支給する。ただし、通勤の経路及び方法は会社が合理的と認めたものに限る事とし、支給限度額は月額〇〇円とする。
通勤手当には非課税限度額がありますから、一定額までは所得税がかかりません。公共交通機関を利用する場合、最高限度額は150,000円となります。公共交通機関の利用者のほか、マイカー通勤者にも通勤手当を支給する場合には、非課税限度額内で定めることが一般的です。
【1か月当たりの非課税限度額】
区分 |
課税されない金額 |
---|---|
交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当 |
1か月当たりの合理的な運賃等の額 (最高限度 150,000円) |
自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当 |
通勤距離に応じて金額が定められています。例えば、通勤距離が片道2キロメートル以上10キロメートル未満である場合は4,200円です。通勤距離が片道2キロメートル未満である場合は、全額課税されます。 |
【マイカー通勤手当の例】
第〇条(マイカー通勤手当)
マイカー通勤手当は、片道の通勤距離に応じ、次のとおりとする。
その他の手当例
住宅手当を支給している企業も見られます。人事院「平成30年職種別民間給与実態調査の結果」によると、住宅手当を支給している企業は50.6%で、家族手当や通勤手当よりも低い数字となっています。
【住宅手当の規定例】
第〇条(住宅手当)
住宅手当は、主としてその世帯の生計を維持している世帯主である者に対し、月額〇〇円を支給する。
その他、役職手当の規定例は次のとおりです。
【役職手当の規定例】
第〇条(役職手当)
役職手当は、以下の役職にある者に対し支給する。
部長 月額○○円
課長 月額○○円
係長 月額○○円
主任 月額〇〇円
賃金計算期間や支払日など
賃金の支払いに関しては、締め日と支給日、賃金の支払方法などについて定めましょう。
【賃金の支払いなどの規定例】
第〇条(賃金計算期間及び支払日)
賃金は、各月初日から起算し、末日を締め切りとした期間(以下、「賃金計算期間」という)について計算し、翌月〇日に支払う。ただし、当該支払日が休日である場合は、原則としてその前日に支払うものとする。
第〇条(賃金の支払方法)
- 賃金は、原則として、通貨で直接、その全額を支払う。
- 前項の規定にかかわらず、労働者の同意を得た場合は、本人が指定する金融機関の口座への振り込みにより賃金を支給する。
- 以下の各号に掲げるものについては、賃金を支払うときに控除する。
- 源泉所得税
- 住民税(市町村民税及び都道府県民税)
- 雇用保険料
- 健康保険料(介護保険料を含む)
- 厚生年金保険料
- その他、会社が必要と認めたもので、労使協定を締結したもの
第〇条(休職期間中の賃金)
就業規則に規定する休職期間中は賃金を支給しない。
賃金規程を別建てで作成した場合でも、それは就業規則の一部と理解されます。そのため就業規則と同様に、労働基準監督署への届出や労働者への周知が必要です。また、変更をした際も同様です。届出・周知を忘れずに行ってください。