法定労働時間とは? 所定労働時間との違いや1カ月の計算方法を紹介
法定労働時間とは、労働基準法(以下、労基法)第32条で定められた、「その時間を超えて労働させてはならない」とされる時間のことです。
1日8時間・1週40時間が法定労働時間として定められており、法定労働時間を超えて労働させる場合には、「36(サブロク)協定」の締結が必要です。企業の経営者は、法定労働時間について正しく理解し、ルールを守る義務があります。
本記事では、法定労働時間の概要や計算方法、所定労働時間との違いなどを詳しく解説します。
法定労働時間とは?
法定労働時間とは、労働基準法(以下、労基法)第32条で定められた、「その時間を超えて労働させてはならない」とされる時間のことです。1日8時間・1週40時間が法定労働時間として定められています。
法定労働時間を超えて労働させる場合には、後述する36協定の締結が必要です。また、法定労働時間を超えて労働した場合には、いわゆる「残業」となり、通常の賃金に25%以上割り増しした賃金の支払いが必要です。
残業時間は、1日単位で8時間、1週単位で40時間を超えていないかどうかが判断基準となります。
1カ月の法定労働時間の計算方法
法定労働時間は、1日1週について定められています。
1カ月の法定労働時間は、次の計算式で求めます。
40時間(特例措置対象事業場の場合は44時間)×暦日数/7日
- 31日の月は177.1時間
- 30日の月は171.4時間
- 29日の月は165.7時間
- 28日の月は160.0時間
法定労働時間と所定労働時間の違い
法定労働時間と似た言葉に所定労働時間がありますが、これは企業が就業規則などで定める労働時間のことです。
例えば、所定労働時間が1日6時間と定められており、1日8時間働いたとしても、2時間分は法律上、割増賃金の支払いが必要ない「法定内時間外労働」となります。
企業は、法定労働時間内で所定労働時間を定められます。特定の業務に従事する労働者については、法定労働時間を超える時間を所定労働時間とすることもできますが、労使協定の締結と、超える部分について割増賃金の支払いが必要です。
法定労働時間を超える場合は?
ここでは、法定労働時間を超える場合に必要な対応を見ていきましょう。
36協定は、企業が法定労働時間を超えて労働を命じる場合に必要
36(サブロク)協定とは、労基法第36条に定められた「時間外労働・休日労働に関する協定届」の通称です。
法定労働時間を超えて労働させる場合や、休日労働させる場合は、事前に締結が必要です。
ただし、36協定を結んでも、残業には「月45時間・年360時間」という上限が設けられています。36協定の特別条項として、臨時的な特別の事情が認められる場合でも、月100時間未満・複数月80時間以内・年720時間以内を超えることはできません。
36協定を未締結もしくは未提出の場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、36協定を締結・提出していた場合でも、上限を超えて労働させた場合、同様の懲役または罰金が科されることがあります。
実際には、事前に労働基準監督署の是正勧告がある場合がほとんどなので、もし未締結・未提出の場合は、すぐに対応しましょう。
法定労働時間を超えた場合に発生する割増賃金
法定労働時間を超える労働(以下、残業)が発生した場合には、割増賃金の支払いが必要です。割増率は普通残業が25%、深夜残業が50%です。
例えば、9時~24時(うち休憩1時間)の労働をした労働者については、8時間を超える6時間分、そのうち2時間は深夜時間にあたるため、4時間×25%割り増しと、2時間×50%割り増しの賃金支払いが必要です。
残業は1週の総労働時間でも判定するので、1日8時間労働を月~土曜日まで行った場合、1日単位で見れば残業はありませんが、週で見ると48時間労働となり、40時間を超えています。この場合は、8時間×25%割り増しの賃金支払いが必要です。
また、月60時間を超える残業分については、割増率が50%となります。これまで、中小企業は猶予されていましたが、2023年4月1日から適用されます。
労働基準法によって定められる、法定労働時間の例外一覧
法定労働時間には、労働基準法によって定められている例外があります。具体的な内容を解説します。
特例措置対象事業場
1週の法定労働時間は40時間と定められていますが、労基法第40条などで、特例として常時10人未満の労働者を使用する次の事業については、44時間労働させることができるとしています。
- 商業
- 映画・演劇業(映画製作の事業を除く)
- 保健衛生業
- 接客娯楽業
サービス業や小売業などが特例にあたりますが、1日の法定労働時間は8時間に変わりありません。例えば、1日10時間労働を月~木曜日まで行った時、1週の総労働時間は40時間ですが、各日2時間分の割増賃金の支払いが必要です。
変形労働時間制
変形労働時間制とは、単位期間の労働時間を平均して、1週あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日・週に法定労働時間を超えることが可能になる制度です。
単位期間は、1カ月以内の一定期間か、1カ月を越えて1年以内の一定期間にできます。単位期間の暦日数に応じた法定労働時間の総枠を越えた部分については、残業として割増賃金の支払が必要となります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、一定期間について、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で労働者が自ら始業・終業時刻、労働時間を決められる制度です。この一定期間は「清算期間」と呼ばれ、最長3カ月までを定めることができます。
変形労働時間制と同様に、1日8時間を越えて労働したからといって、ただちに残業となるわけではありません。清算期間の暦日数に応じて法定労働時間の総枠が設定され、これを越えた部分が残業となります。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
裁量労働制
【1. 企画業務型裁量労働制】
事業の運営に携わる本店などの事業場において、経営・企画・立案・調査および分析の業務に労働者を従事させた時、あらかじめ労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができる制度です。
制度導入には労使委員会を設置する必要があります。この設置手順や委員会運営が採用のハードルとなっているのか、令和3年就労条件総合調査では、採用企業割合は0.4%に留まっています。
【2. 専門業務型裁量労働制】
業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として定められた19の業務のうち、対象の業務について労使間であらかじめ所定労働時間を定めておき、その業務に従事した場合に、定めた所定労働時間労働したとみなす制度です。
労使協定の締結と届け出が必要で、令和3年就労条件総合調査では、この制度の採用企業割合は2.0%となっています。どちらの制度も、企業規模が大きいほど採用割合が高くなっています。
適用除外者
【1. 管理監督者】
「管理職(管理監督者)になると残業の割増賃金が支払われない」というのは、労基法第41条によって「労働時間規制の適用除外」に定められていることに基づきます。
管理監督者であるか否かは、名称によらず実態を見て判断されます。管理監督者とされて残業や休日労働の割増賃金を支払われなかった労働者について、実際の待遇や権限・責任が管理監督者と認められないとした裁判例(日本マクドナルド事件)もあります。
【2. 農業(林業を除く)または畜産、養蚕、水産の事業に従事する者】
業務時期が季節や天候などの自然条件に左右されるため、労働時間規制の適用除外とされています。
【3. 機密の事務を取り扱う者】
秘書などの、職務が経営者または監督、もしくは管理の地位にある者の活動と一体不可分である労働者については、厳格な労働時間管理になじまない者であるとされ、適用除外とされています。
【4. 労働基準監督署から許可を得た監視業務などの従事者】
労働密度が薄く、労働時間・休憩・休日の規定を適用しなくても、必ずしも労働者保護に欠けるところがない業務の従事者について、事業場管轄の労働基準監督署長が許可した場合に適用除外とされます。
具体的には、緊張度の少ない場所の警備員や、手待時間の多い寄宿舎の賄い人などがこれにあたります。
【5. その他(高度プロフェッショナル人材)】
高度プロフェッショナル制度は、対象業務に従事する労働者について、労使委員会で決議・労基署への届け出・労働者の同意を得ることにより、高度の専門的知識を持つ労働者が法定労働時間に縛られることなく働ける制度です。
高度プロフェッショナル人材は、1~4に挙げた適用除外の労働者と異なり、深夜割増賃金も発生しません(表を参照)。
〈表〉割増賃金の適用について
適用除外の労働者(1~4) |
高度プロフェッショナル人材 |
|
---|---|---|
普通残業割増 |
× |
× |
深夜割増 |
〇 |
× |
休日割増 |
× |
× |
ここまで解説してきた5つの適用除外者についても、企業には労働安全衛生法による健康保持促進義務や、労働契約法による安全配慮義務があります。労働時間を把握・管理しなくて良いということではありません。
勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設けることでプライベート時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図る「勤務間インターバル制度」の導入に取り組む事業主を支援する助成金もあるため、自社の労働時間管理について再度見直してみるのも良いでしょう。
法定労働時間についてのまとめ
法定労働時間の概要や計算方法、所定労働時間との違いなどを解説しました。
労働者を1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させることは、原則として禁止されています。規定の時間を超えて労働させる場合は、事前に36協定の締結が必要です。
また、法定労働時間には例外もあるため、わからないことがあれば専門家に相談することも大切です。
労働環境を整えるのは、使用者の大切な仕事です。大切な従業員を守り、持続可能な企業を作っていくためにも、日頃からルールを守る意識を高めましょう。
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