執行役員とその他役員との違いとは? 設置する必要性やメリット・デメリットを紹介
海外の経営システムを導入してまだ間もない日本において、言葉は聞いたことがあるけれど、仕事の内容までは把握できていない役職があります。執行役員はその1つではないでしょうか。ここでは、執行役員を設置することで、企業にどのようなメリットやデメリットがあるのかを解説します。
また、会社法での位置付け、企業内での位置付けを踏まえながら執行役員の必要性を見ていきますので、導入を考えている企業は参考にしてください。
執行役員とは?
まずは、執行役員について説明します。企業での位置付けの定義や必要性、他役員との違いなど、多角的に分析することは設置の判断材料となります。
執行役員の立場・企業での位置付け
執行役員とは取締役会により決められた、会社の経営方針に基づいた業務を実際に執行する位置付けの役員のことをいいます。
取締役は会社法に定められた役員のため、株式会社では必ず置かなければなりません。一方、執行役員は会社法上で規定されていませんので、設置するかどうかは企業が決定できます。
執行役員の必要性
かつて日本の企業では、取締役などの役員が事業計画の立案や経営方針を決定し監督することと、業務遂行の両立が長年の課題でした。
そのため、1990年代からはアメリカの経営を参考にして、業務遂行の役割は従業員の代表に託すことで、取締役などは企業の監督に専念することができたのです。このような従業員の代表などを執行役員として導入することが、各企業に広まっていきました。
執行役員とその他の役職との違いや関係性
ここからは、執行役員とその他の役職との違いについて解説していきます。
取締役
取締役とは会社法第326条に定められた役員で、株式会社では設置が義務付けられています※。また、取締役とは、代表取締役などの取締役会の構成員の総称です。企業の代表者であり、経営方針などの企業の意思決定の権限を持ちます。
一方、執行役員は、企業の従業員であることが多く、取締役が決定した企業方針などの意思決定に基づき、事業運営を遂行します。執行役員制度の導入は会社法に定められていないため、設置は企業の任意です。
※参考:e-Gov法令検索|会社法
役員
役員とは、一般的に会社法に定められた取締役、監査役、会計参与などのことをいいます。詳細に解説します。
- 【執行役員】
取締役が決定した経営方針などを実行していきます。 - 【取締役】
経営方針などの企業の意思決定の権限を持ちます。 - 【監査役】
役員が職務をきちんと遂行しているか、法に触れるような不当な行為が行われていないかを監視します。また、取締役などが不正をしていないかチェックをする立場であり、執行役員を使役する側になります。 - 【会計参与】
監査法人または税理士法人などが役職を担い、企業の財務関係の書類を作成、管理を行います。会計の専門家であり、執行役員とは役割が異なります。
また、会社法上では、指名委員会等設置会社においてのみ設置する執行役という役職もあります。執行役は、執行役員と名前が似ていますが異なる役職であり、取締役会で選任され、業務執行の決定と業務の執行を行います。
部長
執行役員は、従業員のなかから選ばれることがほとんどです。一般的には、従業員のなかの最高の役職でありますが、同じ従業員のため、特に違いはありません。
執行役員を設置するメリット・デメリット
執行役員を積極的に設置することをイメージできたでしょうか。ここでは、設置するメリットやデメリットについて見ていきます。
執行役員を設置するメリット
執行役員を設置するメリットは4つあります。どのようなものか、具体的に解説します。
取締役が担う業務負担の軽減
執行役員を設置することで、取締役が経営方針などの重要な意思決定に専念できるため、取締役の負担が軽減できます。そのことにより、取締役が執行役員の業務執行を監督することができ、取締役の監督機能が強化されます。
業務をスムーズに進められる
執行役員は経営陣と従業員の間に立つことができますので、経営陣の声が従業員に、従業員の声が経営陣に届きやすくなるでしょう。そのため、その声を実際の業務執行に生かせることができ、迅速な意思決定が実現します。
優秀な人材の確保・育成
執行役員のポストを作ることで、優秀な人材を確保することができます。また、従業員自らが「ポストに就く」という目標を立てることで、モチベーションを上げることに繋がります。ポストに就くことで優秀な人材が育つ効果もあります。
給与の経費計上が可能
従業員の給与は基本的に全額損金にできますが、取締役の報酬を損金扱いにするためには、毎月同額で支給しなければならない、また事前に税務署に届け出をしなければならないなどの規制があります。
しかし、執行役員は従業員に当てはまるため、全額損金扱いにでき、結果的に節税に繋がります。
執行役員を設置するデメリット
ここでは、デメリットを2つ挙げます。どの企業にも当てはまりますから、自社に置き換えてデメリットになるかの判断材料にしてください。
他の役職との線引きが不明確
執行役員は、役員という名称が付いているのにもかかわらず会社法上の役員ではないため、権限が不明瞭になってしまい、従業員がかえって混乱する場合があります。
また、部長職などと明確な役割の違いがない場合は、執行役員の権限が不明瞭になってしまいます。すると、現場に近い部長などの役職のほうが従業員も信頼しやすくなります。このことを避けるためにも、執行役員の権限を明確にする必要があるでしょう。
組織が複雑化し意思決定が遅くなる可能性がある
執行役員制度の導入により、取締役以外の役員のポストが生まれます。また、部長職などより上位ポストの役職も生まれます。
新しい執行役員のポストが増えることにより、意思決定までのプロセスが複雑化するため、迅速な意思決定ができなくなる恐れがあります。そのため、執行役員の業務の責務や範囲、権限などを明確にしておく必要があります。
執行役員を設置する流れ
では、執行役員を本格的に設置するにあたり、準備をどのように進めていけばいよいのかを紹介します。
事前準備
実際に、執行役員を置くことを決めたら、下記のように決定事項について話し合いましょう。最終的には、それらをまとめて規定を作成します。まずは、事前にするべきことを説明します。
契約形態の決定
雇用型とは、企業の従業員と同じ形態で、一般的には従業員のなかから選任されます。従業員と同様の雇用形態のため、企業の指示に従い、労働の対価として賃金が支払われます。
一方、委任型は、取締役と同様の企業との委任関係になります。そのため、独立性や専門性が求められて比較的に業務の裁量が広くなります。契約については企業と執行役員の双方で解約することもでき、報酬は業務の対価として支払われます。
任期の決定
任期は企業によって定めるケースと定めないケースがあり、契約形態や企業規模によってそれぞれ異なります。
雇用型の場合は、従業員と同様に就業規則に従う必要があり、定年制を採用していることが多いです。一方、委任型の場合の任期は、それぞれの企業で異なるケースが多いです。
勤怠管理
雇用型の場合は、他の従業員と同様に労働基準法が適用されますので、勤怠管理を行う必要があります。
一方、委任型の場合は、労働基準法が適用されないため、勤怠管理を行う必要はありません。ただし、勤務実態が従業員と変わらない場合は、労働基準法が適用されますので、勤務管理が必要となる可能性もあります。
給与の決定
雇用型の場合には、他の従業員と同様に賃金として支払われます。ただし、執行役員は従業員のなかの最高の役職のため、部長職よりも給与が高くなるのが一般的です。
一方、委任型は、取締役などと同様に役員報酬として支払われるのが一般的です。
執行役員規程の作成
執行役員は企業の従業員でありながらも特別な位置付けであるため、執行役員のための執行役員規程を作成します。
執行役員は基本的に従業員のため、執行役員規程を作成する場合には、労働基準法や企業の就業規則を基に作成する必要があります。
執行役員の選任
執行役員は、会社法に定められた役職ではないため、選任方法は必ずしも会社法の制約に縛られるわけではありません。
ただし、会社法においては、「取締役会は支配人その他の重要な使用人の選任、及び解任については、取締役に委任することができない」としています。そのため、執行役員の選任は、取締役会の決議が必要なことが多いです。
執行役員の辞令交付
委任型の執行役員の辞令を交付する場合には、取締役などと同様の選任辞令の交付を行うと同時に、「就任承諾書」を作成し、書面による同意を交わすことが一般的です。
一方、雇用型の辞令の場合は、一般的には役職変更と同様の辞令の交付が行われ、就任承諾書の作成の取り決めはありません。ただし、委任型と同様に就任承諾書を作成し、書面による同意を交わしておくのが得策です。
執行役員についてのまとめ
執行役員について詳しく解説しました。まとめると以下のとおりです。
- 執行役員は会社法では決まりがない
- 執行役員とは従業員の最高位の役職である
- 執行役員は従業員から選任される
- 執行役員の設置にはメリットとデメリットがある
準備の時間もかかるため、なかなか設置が難しい執行役員ですが、設置をすることは広い視野で見ると人材育成に繋がります。設置を悩んでいる企業は、これをきっかけに前向きに検討してみてください。
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