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勤務間インターバル制度とは? 制度の目的や導入の流れを解説

監修者:西岡社会保険労務士事務所 代表  西岡 秀泰

勤務間インターバル制度とは? 制度の目的や導入の流れを解説

近年、無理な長時間労働を減らし、仕事とプライベートのバランスを取ることを目的とする「ワーク・ライフ・バランス」という概念が広まりつつあります。

勤務間インターバル制度は、ワーク・ライフ・バランスを保つうえで有効とされ、働き方改革関連法により企業の努力義務となりました。

この記事では、勤務間インターバル制度の目的や導入の流れをわかりやすく解説します。経営者や、人事・総務の仕事に携わっている方は、ぜひご一読ください。


勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務が終了してから翌日の出社までに一定以上の休息時間を設ける制度のことです。インターバル時間は11時間以上がひとつの目安となります。

インターバル時間を最低11時間とした場合、所定労働時間が午前9時から午後6時で残業がなければ、終業から翌日の始業まで15時間あるので問題ありません。

しかし、夜の11時まで残業した場合は始業まで10時間となります。この場合は、翌日の始業時刻を10時に変更することによって、インターバル時間を11時間確保できます。

制度導入の目的

勤務間インターバル制度は、長時間勤務の連続によって従業員の健康が損なわれるのを防止し、ワーク・ライフ・バランスを確保することが主な目的です。

遅くまで残業した翌日、睡眠不足で疲れを残したまま働くことは、肉体的にも精神的にも大きな負担です。インターバル時間を確保することで、身体を休めたり、気分をリフレッシュしたりすることができます。

また、長時間勤務が続くと、家は帰って寝るだけの場所になってしまいます。家族や自分自身のための時間がない状態は、心身ともに悪影響です。勤務間インターバル制度によって、私生活のための時間が確保できるので、ワーク・ライフ・バランスの改善にも役立ちます。

働き方改革関連法により努力義務化に

働き方改革関連法で定められた2019年4月の「労働時間等設定改善法」の改正により、勤務間インターバル制度の導入が企業の努力義務となりました。

制度を導入しなくても企業に罰則が科されるわけではありませんが、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定され、勤務間インターバル制度の周知、導入に関する数値目標が設けられました。

数値目標は2021年7月31日の閣議決定で、次の通り改定されました。

  • 2025年(令和7年)までに制度を知らない企業割合を5%未満にする
  • 2025年(令和7年)までに制度を導入している企業割合を15%以上にする

出典:平成四年法律第九十号 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 第二条|e-Govポータル

出典:「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更について|厚生労働省

企業が導入する仕組みの例

勤務間インターバル制度を導入する場合、次の取り扱いを定めて就業規則に記載しなければなりません。

  • インターバル時間を何時間にするか
  • 制度を利用する場合に翌日の始業時刻を何時にするか
  • 制度を利用して始業時刻を繰り下げた場合、終業時刻を何時にするか

例えば、「インターバル時間を最低11時間と定め、通常の始業時刻ではインターバル時間を11時間が確保できない場合、始業時刻を『前日の終業時刻の11時間後』に繰り下げる」などの方法があります。

始業時刻を繰り下げた場合の終業時刻は、次の2通りが考えられます。

  • 所定の終業時刻は変えずに勤務時間を短縮する
  • 始業時刻を繰り下げた分、終業時刻も繰り下げる

【勤務間インターバル制度のイメージ図】


勤務間インターバル制度が導入・注目される背景

ここでは、勤務間インターバル制度が導入・注目されるようになった背景を見ていきましょう。

長時間労働の社会問題化

長時間労働による過労死や精神障害の発生が社会問題化したことを受け、国が推進する働き方改革では、長時間労働の削減を目標のひとつとしています。

長時間労働の削減に向けて、労働時間に関する法律の見直しが行われ、企業に対する「残業時間の上限規制」や「年次有給休暇の取得義務(1年5日以上)」などが設けられました。

また、連日の長時間労働から従業員の健康と安全を守るために、国は勤務間インターバル制度の導入を推進しています。

ワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランスの実現も、働き方改革の目標のひとつです。

従業員の健康と安全を守ることは当然ですが、企業には「従業員それぞれの事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現」が求められています。

そのためには、長時間労働をなくし、従業員が自由に年次有給休暇を取れる職場環境を整備しなければなりません。日常的な従業員の生活時間を確保するうえでも、勤務間インターバル制度は有効です。


企業が勤務間インターバル制度を導入するプロセス

①企業の労働に関する現状把握

最初に行うのは、従業員の労働時間の現状を把握することです。「各従業員が毎日何時から何時まで勤務しているか」「繁忙期の状況はどうか」などを確認します。

現状を把握することで、インターバル時間を設けた場合の業務への支障など、制度導入の課題が明確になります。

②インターバル時間数の確保・制度設計

現状と課題を把握したら、次は、業務に支障が出ないようにインターバル時間数を確保するにはどうすればいいかを検討して、労働時間に関する制度設計を行います。

実効性のある制度設計を行うには、業務内容の見直しや従業員不在時にほかの人がカバーできる体制づくりなどが必要になるケースもあります

③就業規則の作成・社内周知

勤務間インターバル制度の内容が確定したら、その内容を就業規則に記載します。従業員を代表する労働組合などの意見書を取り付け、就業規則とともに労働基準監督署に届け出ましょう

また、制度導入を従業員に周知するため、制度内容を掲示したり社内メールで連絡したりするなどの取り組みが必要です。就業規則の改定や社内通知は、労働基準法が定める企業の義務です。

④導入・改善

勤務間インターバル制度の内容が確定し、周知を行った後に制度を導入します。制度導入後は、実施状況を定期的に確認し、必要に応じて改善しましょう。

勤務間インターバル制度に限らない話ですが、勤務間インターバル制度を実効性のあるものにするには、制度をつくることよりも、制度をいかに浸透させるか、問題点をどう改善していくかが重要です。


勤務間インターバル制度を導入するときのポイント

勤務間インターバル制度の導入においては、国が推奨する内容をよく確認し、なるべく早期に導入を検討するのがポイントになります。

なるべく早期の導入を検討する

現状、勤務間インターバル制度の導入は、企業の「努力義務」に留まっています。制度を導入しなくても罰則はありませんが、大切な従業員の心身を守るという意味では、積極的に導入すべきといえるでしょう。

また、社会情勢の変化などによって、制度が「努力義務」から「義務」になることも考えられます。仮に制度が義務化されたとしても、早い段階で勤務間インターバル制度を導入していれば、スムーズな対応が可能です。

国は9〜11時間の休息時間を推奨している

休憩時間(インターバル時間)を何時間にするのかは、法律では規定がありません。

往復の通勤時間や睡眠時間を考慮すると、11時間以上のインターバル時間を設けるのが理想です。

ただし、勤務間インターバル制度を導入した企業に対する助成金は、「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」のインターバル時間を設けた企業が対象です。つまり、国は最低9時間以上のインターバル時間を推奨しているといえます。


勤務間インターバル制度の導入による企業側のメリット

勤務間インターバル制度を導入すると、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。順に見ていきましょう。

1. 従業員の健康づくり

勤務間インターバル制度が導入されれば、従業員は少なくとも定められたインターバル時間は仕事から開放されます。睡眠時間と生活時間が確保されることで、長時間労働から従業員の健康を守る一定の効果が期待できます。

2. 離職率低下・人材の確保

長時間労働で家族や自分の時間が持てないと、仕事への意欲が低下したり、勤務先の労働環境に対する不平・不満が高まったりするなどして、離職につながる可能性もあります。勤務間インターバル制度の導入によって、長時間労働による離職を防ぐ効果が期待できます。

また、社外から労働環境の整った企業だと認知されれば、人材確保に役立つ可能性もあります。ワーク・ライフ・バランスを重視する人へのアピールにもなるでしょう。

3. 企業の生産性向上

従業員が前日の残業のせいで疲れているような状況では、労働生産性は上がりません。勤務間インターバル制度の導入で、従業員が健康で気持ちよく働いてくれることで、企業の生産性の向上も期待できます。

労働時間に関する労働環境の改善を企業の負担と捉えるのではなく、従業員のやる気を引き出し、業務効率の改善を図る機会と考えてみてはいかがでしょうか。ひいては、それが企業の成長につながります。


勤務間インターバル制度によって生じるデメリット・リスク

勤務間インターバル制度はメリットが多いですが、これまでの労働環境を変えることで生じるデメリットやリスクもあります。

インターバル時間を確保するために、人員の配置や仕事のやり方を見直す必要が出てくるでしょう。管理職の負担が増える懸念もあります。

また、仕事の時間が制限されることで、従業員が自宅に仕事を持ち込む可能性も考えられます。休息時間を管理するために、勤怠管理システムの導入が必要になるかもしれません。

さらに、従業員の反対があると、制度の導入そのものが難しくなることも考えられるでしょう。

勤務間インターバル制度の導入を成功させるには、導入までに十分な時間を設け、現場の声をよく聞いたうえで内容を検討することが大切です。上層部からのプレッシャーによって制度を定着させようとすると失敗する可能性が高まるため、十分に注意しましょう。


制度導入による「働き方改革推進支援助成金」

勤務間インターバル制度を導入した企業には、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」と呼ばれる助成金が支給されます。助成金の受け取りには申請が必要です。

2022年度の助成金は、制度導入に向けた所定の「取り組み」を行い、「成果目標を達成」した企業が対象です。成果目標は次のいずれかです。

  • 新規導入
    新たに制度を導入する
  • 適用範囲の拡大
    すでに制度導入済の企業が、対象者を従業員の半数以上に拡大する
  • 時間延長
    9時間未満の制度導入済の企業が、2時間以上延長して休息時間数を9時間以上にする

新規導入企業には、インターバル時間数に応じて次の助成金が支給されます。

  • 9時間以上11時間未満:80万円(40万円)
  • 11時間以上:100万円(50万円)

※()内は、「適用範囲の拡大」または「時間延長」の場合

また、賃金額の引き上げを成果目標に加えた場合、実績に応じて助成金が加算されます。


勤務間インターバル 制度についてまとめ

勤務間インターバル制度の目的や導入の流れをわかりやすく解説しました。

従業員が心身ともに健康に働ける職場環境を提供することは、企業にとって重要な任務です。従業員のモチベーションが高まり、生産性が向上すれば、売上という観点でも大きなメリットになります。

また、人口減少や労働人口の海外流出などにより、将来的に優秀な人材の確保がさらに難しくなることが予想されています。勤務間インターバル制度をはじめとしたワーク・ライフ・バランスの改善につながる取り組みは、人材の確保にも役立つでしょう。

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監修者プロフィール

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西岡 秀泰

西岡社会保険労務士事務所 代表

生命保険会社に25年勤務し、FPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。
2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
得意分野は、人事・労務、金融全般、生命保険、公的年金など。

【保有資格】社会保険労務士/2級FP技能士

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