このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、対応ブラウザでご覧下さい。

労働者派遣法とは? 目的や押さえるべきポイントをわかりやすく解説

監修者: 行政書士、申請取次行政書士  井上 通夫

労働者派遣法とは? 目的や押さえるべきポイントをわかりやすく解説

労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)は、派遣労働者を守り、労働環境を支えるための法律です。

派遣会社や派遣先企業が守るべきルールが細かく定められており、違反があった場合は厳しいペナルティがあります。

この記事では、労働者派遣法の目的や押さえるべきポイント、改正の歴史などをわかりやすく解説します。

派遣労働者を受け入れる企業の人事を担当している方は、ぜひ参考にしてください。


労働者派遣法とは?

労働者派遣法は、労働者の派遣事業を適切に行い、労働者を守るための法律です。1986年に施行され、正式名称を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます。

派遣の期限や日雇派遣の原則禁止といったルール、同一労働同一賃金など、労働者派遣に関する規定が細かく定められています。

制定された背景

労働者派遣法が制定された1986年頃は、第三者が企業と労働者を仲介し、手数料を受け取ることが禁止されていました(労働基準法第6条)。

労働者派遣も仲介の一種とみなされていましたが、実際には労働者派遣業に近いサービスを提供している会社が存在したことから、適切に労働者の派遣事業が営まれるよう労働者派遣法が制定されました。

3つの派遣形態

労働者派遣には大きく分けて3つの形態があります。それぞれの違いを見ていきましょう。

1. 有期雇用派遣

派遣先企業への派遣期間があらかじめ決まっている雇用形態です。人材派遣の形としてよくある雇用形態で、契約期間が終了すると派遣先での勤務も終了となります。ただし場合によっては、契約延長を打診されることもあります。

2. 無期雇用派遣

無期雇用派遣は、派遣会社と労働者が契約を結び、派遣先企業で勤務する点においては有期雇用派遣と同じです。しかし、無期雇用派遣の場合は、派遣会社と労働者が無期限の雇用契約を結ぶのが大きな特徴といえます。

派遣先企業が決まらない待機期間がある場合は、派遣会社から労働者に対して給与が支払われます。また、派遣先企業で勤務を行い、派遣期間が終了した後も、派遣会社から労働者が雇用されるという形態は続きます。

3. 紹介予定派遣

派遣先企業が労働者を直接雇用することを前提として派遣を行います。最長6か月の派遣契約期間が終了した後、派遣先企業と労働者の双方が合意することで、派遣先企業の社員になることができます。

派遣先企業は、派遣期間中に労働者の能力や適性を見極め、派遣期間終了後に社員として採用するかどうかを判断できるのがメリットです。


労働者派遣法の改正の歴史

労働者派遣法は、これまでに何度も改正が行われてきました。ここでは、その歴史をわかりやすく一覧表にまとめました。

大きな改正が行われた年については、一覧表に続いて改正内容を詳しく解説しています。

労働者派遣法の改正の歴史

1986年施行

業務対象は16業務に限定

1996年改正

業務対象が追加され計26業務に

1999年改正

  • 業務対象が原則自由化
  • 1996年の法改正によって指定された26業務は3年間、新たに労働者派遣が可能になった業務は1年間の派遣期限を設定

2000年改正

紹介予定派遣の開始

2004年改正

  • 専門業務の派遣期間の無制限化
  • 専門業務以外の派遣期間上限延長

2006年改正

医療関係業務への派遣が条件つきで解禁

2007年改正

製造業務の派遣期間上限延長

2012年改正

  • 日雇派遣の原則禁止
  • グループ企業派遣の8割以下規制
  • 退職後一年以内の労働者の派遣禁止
  • 派遣会社のマージン率などの情報提供
  • 派遣労働者に対する待遇説明
  • 有期雇用の派遣労働者に対する無期雇用転換措置

2015年改正

  • 派遣事業体制の一本化
  • 3年ルールの実施
  • 派遣労働者の雇用安定支援措置の義務化
  • 労働契約の申込みみなし制度の制定

2020年改正

「同一労働同一賃金」実現の打ち出し

2021年1月改正

  • 派遣先企業に対して派遣労働者への待遇説明を義務化
  • 派遣契約書の電磁的記録を認める規制緩和
  • 派遣労働者から労働関係法に関する苦情があった場合は派遣先企業が窓口となって対応
  • 派遣会社が職を失った日雇い派遣労働者に対して就業機会の確保や失業手当の支払いを行うことを義務化

2021年4月改正

  • 雇用安定措置の一環として有期派遣労働者の希望聴取などを実施
  • 派遣会社のマージン率などの情報をインターネットで開示することを原則化

1996年の法改正

1996年の法改正では、労働者派遣が可能な業務が26業種に拡大されました。

1986年に労働者派遣法が施行された当初は、業務対象が16業務に限定されていました。しかし、1990年代のバブル崩壊による不景気の影響を受けて、労働者派遣の拡大を見込んだ国側が、規制緩和を行った経緯があります。

派遣可能な業務は、研究開発・広告デザイン・アナウンサーなど、専門的な知識や技術が必要とされるものに限定されています。

1999年の法改正

1999年の法改正では、労働者派遣業のさらなる広がりを目的として、それまで限定されていた業務対象が原則として自由化されたのが大きな特徴です。同時に、港湾運送・建設・警備など、派遣を禁止とする業務も指定(ネガティブリスト化)されました。

また、1996年の法改正によって指定された26業種については、「政令26業種」として3年間の派遣期限が、新たに労働者派遣が認められるようになった業務は、1年間の派遣期限が設定されました。

2012年の法改正

2012年度の法改正では、派遣労働者を守るための大きな改正が行われました。

リーマンショックを発端とする不景気の影響を受けて、「派遣切り」や雇い止めといった状況に苦しむ派遣労働者が増えました。また、偽装請求や二重派遣といった違法行為が社会問題化していた背景もあります。

具体的には、次のような改正が行われました。

  • 日雇派遣の原則禁止
  • グループ企業派遣の8割以下規制
  • 退職後一年以内の労働者の派遣禁止
  • 派遣会社のマージン率などの情報提供
  • 派遣労働者に対する待遇説明
  • 有期雇用の派遣労働者に対する無期雇用転換措置

2015年の法改正

2012年に大幅な法改正が行われましたが、依然として違法派遣が横行している実態が続き、さらに制度が複雑化したことで、現場に混乱が生じるなどの新たな課題が生まれました。

2015年の法改正では、それまで許可制(一般労働者派遣事業)と届出制(特定労働者派遣事業)に分かれていた労働者派遣事業が許可制に統合され、すべての派遣会社が法令を遵守することが求められました。

また、派遣期間の上限が3年に統一されるなど、健全な派遣事業の運営につなげるための仕組みが整えられたのが、2015年の法改正です。

その他、派遣労働者へのキャリアアップ措置や教育訓練などの雇用安定支援措置の義務化や、違法派遣を抑制するための「労働契約の申込みみなし制度」の制定なども同時に行われています。

2020年の法改正

2020年の法改正では、働き方改革の一環として派遣労働者に対する「同一労働同一賃金」の実現が打ち出されました。

同一労働同一賃金とは、同じ仕事をする人に対しては、雇用形態を問わず賃金も同じにしなければならないという考え方です。

派遣労働者の賃金は派遣会社によって異なるため、同一労働同一賃金を実現するため、新たに2つの制度が設けられました。

  • 派遣先均等・均衡方式

派遣労働者が派遣先企業の正社員と同じ業務を行っている場合、待遇も正社員と同等にします。この方式を選択した場合、派遣先企業は派遣労働者の待遇に関する情報を派遣会社に提供する義務があります。

  • 労使協定方式

派遣労働者と派遣会社の協議で賃金を決定します。 基準となるのは、派遣労働者と同じ内容の業務を行う派遣元社員の賃金です。


労働者派遣法で押さえるべき注意点

ここでは、労働者派遣法で押さえるべき注意点を紹介します。

契約以外の仕事をさせない

派遣社員の業務内容は、派遣会社と派遣先企業の契約によって決められています。従って、その契約に規定されていない業務をさせることは、違反になってしまいます。

無理な勤務時間の変更をしない

契約で定めていないのに、深夜や早朝などの時間帯に勤務時間を変更することはできません。もしそのような勤務の可能性がある場合には、あらかじめ契約書に記載し、派遣社員に周知しておく必要があります。

契約で定めていない部署への異動は行わない

契約書には、就業場所や所属部署を明記しなければなりません。勝手に派遣社員の配置転換を行うことは契約違反です。

たとえ販売職であっても、契約書に規定されていない店舗などで、一時的に販売業務を行わせることも違反になります。

日雇派遣の原則禁止に該当する派遣は行わない

労働者の雇用を安定させることを目的として、2012年の法改正で日雇派遣が原則禁止されました。派遣会社と派遣労働者は31日以上の雇用契約を結び、稼働時間も週に20時間以上にする必要があります。

ただし、次のような場合は日雇派遣の原則禁止の例外となります。

<日雇い派遣の例外業務>

  • ソフトウェア開発
  • 機械設計
  • 事務用機器操作
  • 通訳、翻訳、速記
  • 秘書
  • ファイリング
  • 調査
  • 財務処理
  • 取引文書作成
  • デモンストレーション
  • 添乗
  • 受付・案内
  • 研究開発
  • 事業の実施体制の企画、立案
  • 書籍等の制作・編集
  • 広告デザイン
  • OAインストラクション
  • セールスエンジニアの営業、金融商品の営業

<次のいずれかに当てはまる労働者>

  • 60歳以上の者
  • 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
  • 副業として従事する者(生業収入が500万円以上の者に限る。)
  • 主たる生計者以外の者(世帯収入が500万円以上の者に限る。)

出典:日雇派遣の原則禁止について|厚生労働省

派遣の期間制限を守る

派遣労働者の期間制限には、個人単位と事業所単位があります。

個人単位では、同じ派遣労働者を同じ組織で3年以上勤務させることはできません。ただし、部署や事業所の移動や、直接雇用への切り替えを行えば継続雇用が可能になります。

事業所単位では、同じ人材派遣会社から3年以上、派遣労働者を受け入れることはできません。延長したい場合は、過半数労働組合などへの意見聴取が必要です。

出典:「派遣の期間制限」抵触してませんか?|東京都産業労働局

派遣労働者の指定はできない

派遣先企業が特定の派遣労働者を指定することは認められておらず、違反した場合は行政指導の対象となります。

労働者派遣法第26条第6項には、次のように記されています。

“労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。”

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第二十六条6項|e-Govポータル

派遣先企業が労働者を指定すると、採用面接を経て直接雇用された従業員と変わりがなく、実質的に派遣先企業が労働者を雇用しているように見えてしまいます。

派遣先企業と派遣労働者の間に雇用関係が生じると、労働派遣法で禁止されている「二重派遣」に該当する恐れがあるため、派遣先企業は労働者を指定できないのが原則です。

退職後1年以内の労働者は自社に派遣できない

企業を退職して1年以内の労働者を派遣社員として再度雇用することは、派遣法第40条の9第1項によって禁止されています。

派遣会社も、派遣先企業を退職して1年以内の労働者であることがわかった場合は、労働者派遣を行ってはいけません。

厚生労働省は、この規定の意義について次のように提示しています。

“労働者派遣事業は、常用雇用の代替防止を前提として制度化されているものであり、ある企業を離職した労働者を当該企業において派遣労働者として受け入れ、当該企業の業務に従事させることは、法の趣旨に鑑みても適当ではない。”

引用:労働者派遣事業関係業務取扱要領|厚生労働省

本来、直接雇用すべき労働者を派遣労働者とすることで、労働条件の切り下げを防止することを目的として規定が定められました。

派遣先企業は労働者に待遇を説明する義務がある

派遣先企業は、労働者を受け入れる前に待遇を説明する義務があります。情報提供を行うことなく派遣契約を締結することは認められていません。

ファックスやメールなど、待遇情報を提供した書面の写しは、派遣終了日から3年間保存する必要があります。

出典:派遣社員を受け入れるときの主なポイント|内閣府


労働者派遣法に違反した場合のペナルティ

労働者派遣法に違反した場合はペナルティが課せられます。悪質な違反が認められた場合は、一般労働派遣事業の許可を取り消されることもあるので注意が必要です。

業務改善命令

業務改善命令とは、違反があった項目に対して関係機関が是正を指示することです。

一般的には、派遣会社に対して違反内容の調査や点検を行い、改善措置を講ずることが命じられます。さらに、関係機関の指示に従って、改善・措置計画書などを提出します。

改善命令に従わなかった場合は、さらに重い処分が下されることもあります。

また、労働派遣法だけでなく、職業安定法や労働基準法といった労働に関する法令の規定違反が確認できた場合も、業務改善命令の対象になります。

事業停止命令

事業停止命令とは、違反内容に対して改善が確認できるまでの間、事業の停止を命ずることです。再三の指導にも関わらず、改善が見られない企業に対して行われます。

一部の事業の停止が求められる場合と、すべての事業の停止が求められる場合があり、停止期間中は、運営方針を改め、違反項目を改善するための措置に努めなければなりません。

事業停止命令を下された企業には弁明の機会が与えられ、違反項目の改善を証明できれば事業を再開できます。

事業廃止命令

事業廃止命令とは、2015年まで存在した「特定派遣事業」において下されていた処分です。2015年に法改正が行われるまでは、労働者派遣業が許可制(一般労働者派遣事業)と届出制(特定労働者派遣事業)に分かれていました。

派遣事業が許可制に一本化されてからは、次に紹介する「許可の取り消し」が最も重い処分となっています。

参考:「(旧)特定労働者派遣事業」は行えなくなります!| 厚生労働省

許可の取り消し

「許可の取り消し」は、派遣会社が一般労働派遣事業を行えなくなることを意味し、行政処分の中で最も重い処罰です。

一般労働派遣事業を許可する条件に違反が見られた場合のほか、許可の欠格事由に該当している場合や、労働関連の政省令・処分に違反した場合に許可の取り消しが行われる可能性があります。

派遣会社が複数の事業所を運営している場合、すべての事業所が取り消され、派遣会社は事実上、廃業することになります。


労働者派遣法の違反事例

労働者派遣法の違反事例には、どのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

偽装請負

メーカーA社が、業務請負契約を締結している労働者に対して、工場での勤務内容を具体的に指示していたことが偽装請負にあたると裁判で認められる事例がありました。

偽装請負とは、契約上は業務委託になっているにも関わらず、実際には派遣労働契約や労働者供給に該当することをいいます。

業務委託契約では、依頼主が受託者に対して指揮命令することはできません。業務について強制的な指示が出されていた場合や、勤務時間や場所が指定されていた場合は偽装請負とみなされ、罰則の対象になる可能性があります。

偽装請負は派遣労働者の待遇悪化につながることがあり、依頼主の責任範囲も曖昧になることから、法律で厳しく制限されています。

二重派遣

Web制作の関連事業を行うB社は、出向と称して労働者を二重派遣したとして、処分を下されました。

二重派遣とは、派遣先企業から、さらに違う企業へ労働者を派遣することです。

通常、派遣労働者は、派遣契約を結んだ派遣先企業でしか勤務することができません。勤務先の企業が契約している企業と異なってしまうと、業務内容や雇用条件についてトラブルが起きる可能性があります。そのような状況になっても、派遣労働者は立場上、抗議がしづらいため、二重派遣は禁止されています。

偽装請負や二重派遣といった違反行為が認められた場合は、派遣法や職業安定法に違反することになり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金などの厳しい罰則があります。


労働者派遣法についてのまとめ

労働者派遣法は、時代の流れとともに何度も改正が行われています。今後も改正されることが予想されるため、企業の人事担当者は最新の情報を収集し、違反がないよう運用体制を整えましょう。

わからないことがあれば都道府県労働局の窓口に相談するなど、専門家のアドバイスを仰ぐことも重要です。


【書式のテンプレートをお探しなら】

この記事に関連する最新記事

おすすめ書式テンプレート

書式テンプレートをもっと見る

監修者プロフィール

author_item{name}

井上 通夫

行政書士、申請取次行政書士

行政書士(平成18年度行政書士試験合格)、申請取次行政書士(令和2年1月取得)。

福岡大学法学部法律学科卒。大学在学中は、憲法・行政法ゼミ(石村ゼミ18期生)に所属、新聞部編集長を務める。

卒業後、大手信販会社や大手学習塾等に勤務し、平成20年7月に福岡市内で行政書士事務所を開業、現在に至る。

現在の業務は相続・遺言、民事法務(内容証明・契約書・離婚協議書等)、会社設立、公益法人(社団・財団法人)関連業務、在留資格業務など。福岡県行政書士会所属。

この監修者の他の記事(全て見る

bizoceanジャーナルトップページ