感情労働とは? 当てはまる業種・注意点や企業ができるケア対策
「感情労働」という言葉には、さまざまな定義付けがされていますが、一般的には感情のコントロールを伴う労働に用いられます。
接客に代表される感情労働は、いつの時代も不可欠ですが、従業員がストレスを抱えやすいというデメリットがあります。
企業の担当者は、従業員に対して適切なケアを実施し、心身ともに健康を保てる労働環境を整えることが重要です。
この記事では、感情労働の概念や注意点、企業が行うべき対策について解説します。
感情労働とは?
感情労働とは、感情のコントロールを求められる労働全般のことです。社会学者のA・R・ホックシールド氏によって提唱され、金融・医療・サービス業といった第三次産業の発達に伴って広まっていったと考えられています。
感情労働では、一定の感情で顧客と接することが求められます。それが心理的にポジティブな働きかけとなり、対価として報酬を得ることにつながるというのが感情労働の考え方といえます。
肉体労働や頭脳労働との違い
感情労働は比較的新しい概念で、それ以前は「肉体労働」と「頭脳労働」という切り分け方が一般的でした。
肉体労働とは、身体を動かすことで報酬を得る働き方のことで、農業・土木・建築といった身体的な負荷が高い、いわゆる「ブルーカラー」の職業が代表的です。工場での単純作業なども疲労が伴うため、肉体労働に分類されることがあります。
頭脳労働とは、頭を動かすことで報酬を得る働き方のことで、「ホワイトカラー」と呼ばれます。知識や思考力をもとにアイデア出しや企画を行い、アウトプットの質が仕事の評価になります。頭脳労働は別名「精神労働」といわれており、感情労働も元々は頭脳労働の一部と考えられます。
感情労働が注目される理由
感情労働が注目される大きな理由のひとつに、競合他社との差異化があげられます。
モノや情報があふれる現代において、商品のスペックだけで新規顧客を獲得するのは難しくなっています。そこで注目されているのが「顧客体験」です。
同じ商品やサービスを販売する場合でも、売る側の態度一つで印象は大きく変わります。コミュニケーションを改善することで、顧客が商品を認知してから購入するまでの体験の質を向上させ、リピーターの育成につなげます。
感情労働によって顧客体験の向上を実現できれば、価格競争に巻き込まれるリスクが下がり、長期にわたって企業に利益をもたらしてくれるロイヤルカスタマーの育成も実現できます。
感情労働が必要な業界・職種とは
感情労働が必要な業界や職種には、どのようなものがあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
感情労働が必要な業種
感情労働が求められる業種の代表例が、接客を伴うサービス業です。
旅館やホテル、レストラン、喫茶店といった宿泊業や飲食サービス業のほか、医療・教育・福祉なども感情労働が求められる業種です。
金融業や保険業にもコミュニケーションが求められるため、感情労働の一種といえます。
感情労働が必要な職種
感情労働が必要な職種は、販売員・客室乗務員・飲食スタッフ・医師・看護師・教師など多岐にわたります。芸能や演劇など、人前で表現を見せる仕事も感情労働にあたります。
コールセンターのスタッフや、官公庁・企業の広報担当、マスメディアの「お客様対応部門」など、対面で顧客と関わる機会が少ない職種にも感情のコントロールが求められるため、感情労働に分類できるでしょう。
感情労働に従事するメリット
感情労働は、人とコミュニケーションを取る機会が多くなります。顧客に対して直接的に貢献している感覚を得やすいことから、やりがいを感じられるのがメリットです。
課題や悩みを抱えている顧客を助け、感謝の言葉を伝えられたときの喜びは、感情労働だからこそ感じられる働きがいといえるでしょう。自分の仕事が、顧客の現在の生活だけでなく、将来にも大きく関わり、貢献している実感が得られます。
そのように感じる従業員が増えれば労働生産性が高まり、企業の業績アップにもつながります。
感情労働によるデメリットや問題点
感情労働は、やりがいを感じやすい仕事である一方、心理的な負担がかかりやすいのがデメリットです。ここでは、感情労働によるデメリットや問題点を見ていきましょう。
ストレスなどによる心身の不調
ストレスなどによる心身の不調が出やすくなるのが、感情労働の最大の問題点です。
常に一定の感情で顧客に接する感情労働では、自分の感情を押し殺すことを求められるシーンも多いものです。実際の感情と仕事で求められる感情にギャップが生まれることで、従業員は強いストレスを感じます。
さらに、感情労働では顧客からのクレームや批判に接する機会も多く、精神的に消耗しやすい点にも注意が必要です。ストレス耐性が高い人であっても、ストレスが多い環境にさらされ続けることで、心身に不調をきたすこともあります。
仕事に対するモチベーションの低下
接客業をはじめとする感情労働では、常に笑顔を浮かべて顧客に接することが当たり前だと思われてしまうところがあります。
たとえプロであっても、一定の感情で顧客に接するのは簡単なことではありません。場合によっては、顧客から感謝されるよりも、ネガティブな言葉を投げかけられるケースのほうが多くなるかもしれません。
そのような状態が続くと何のために働いているのかわからなくなり、仕事に対するモチベーションの低下につながります。
バーンアウト(燃え尽き症候群)に発展
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、仕事に対してそれまで精力的に取り組んでいた従業員が、急にやる気を失ってしまうことをいいます。
仕事へのモチベーションが高く、責任感が強い人ほどバーンアウトしやすいので注意しなければなりません。
感情労働では、顧客満足を優先するために自分の感情を抑えることが多くなります。仕事に対して真面目に取り組むほどエネルギーを消耗し、ある日突然、糸が切れたような無気力状態に陥る可能性があります。バーンアウトは最悪の場合、うつ病などの精神的な問題を引き起こす症状です。
感情労働に対して企業ができるケアと対策
ここでは、ストレスがかかりやすい感情労働に従事している従業員に対して企業ができるケアや対策について、具体的に解説します。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に従業員が回答を入力し、それを分析することで従業員がどのようなストレス状態にあるのかを調べる検査です。従業員数50人以上の事業場では、ストレスチェックを行うことが義務付けられています。
感情労働によるストレスは、本人が気づきにくいという特徴があります。ストレスチェックのように、ストレス状態を客観的に観察する制度の導入は、従業員の状態を正しく把握するうえで役立ちます。
従業員自身も、ストレスチェックの結果を見ることで自分のストレス状況を把握でき、周りへ相談したり、自身でメンタルケアを行ったりといった対策が可能になります。
労働時間の見直し
感情労働に従事している間は、どうしてもストレスがかかりやすくなります。物理的な労働時間をコントロールし、従業員をストレスから解放することがメンタルケアにつながるといえるでしょう。
法律で定められた労働時間や休憩時間を遵守することはもちろん、従業員の状態に合わせて適切に休憩を取らせるなどの細やかな対応が欠かせません。
専門家や公的機関との連携
専門家や公的機関との連携も、従業員を心身の不調から守る方法として有効です。
厚生労働省は、働き方改革の一環として長時間の時間外・休日労働を行っている従業員に対する面接指導を義務付けています。
面接指導を担当するのは産業医などの医師で、対象者は次の通りです。
- 義務:月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者
- 努力義務:事業主が自主的に定めた基準に該当する者
※裁量労働制、管理監督者を含む
出典:長時間労働者への 医師による面接指導制度について|厚生労働省
面談後は医師の指示のもと、適切な対策を講じることが求められます。
社内コミュニケーションの活性化
感情労働に携わる従業員が、同僚や上司といった身近な人と十分にコミュニケーションを取ることも、精神的な疲労の軽減に役立ちます。
感情労働によって自分の感情をコントロールする状態が長くなると、自分の本当の感情がわからなくなってしまうことがあります。従業員が周囲の人に本音を話せるよう、企業側が積極的に社内コミュニケーションの活性化に取り組みましょう。
面談などの改まった形だけでなく、ちょっとした悩みやストレスを気軽に話せるような職場環境であることも重要です。
感情労働についてのまとめ
感情労働は、人から感謝されることで、やりがいを感じやすい仕事といえます。一方で、常に一定の感情で顧客に接することが求められるため、ストレスがかかりやすいという特徴があります。
従業員の上司にあたる人だけでなく、人事や労務など人材育成に携わる部署の担当者も感情労働の特性を正しく理解し、積極的なケアや環境づくりなどの対策を心がけましょう。
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