二重派遣とは? 該当するケースから禁止の理由・罰則・回避するポイントまで解説!
二重派遣とは、人材派遣のなかでも法律で禁止されている行為のひとつです。
業務形態の複雑化が進むなか、企業が気づかないうちに二重派遣してしまうケースがありますので、注意しなければなりません。
この記事では、二重派遣の概要や該当するケース、禁止理由を法務部の社員に向けて解説します。
また、この記事の後半部分では、二重派遣した際に企業が受ける罰則を解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
二重派遣とは
二重派遣とは、派遣社員を受け入れた企業が、その派遣社員を別の企業に派遣することです。二重派遣は雇用に関する責任が不明確になり、派遣社員の労働条件が守られにくくなるため、法律で禁止されています。
派遣会社から派遣社員を受け入れた企業は、自社の指示で働かせることが一般的です。
二重派遣に該当するケース
二重派遣に該当するケースを3つ紹介します。
- 取引先での従事
- 子会社・関連会社での従事
- 偽装請負
取引先での従事
取引先から社員を派遣依頼される状況下では、自社の人材を派遣するのではなく、派遣社員をその取引先へ派遣するケースがよくあるでしょう。自社の人材を温存するのが目的です。
しかし、これは二重派遣に該当し、法令違反になりますので注意が必要です。
子会社・関連会社での従事
子会社や関連会社へ、自社に派遣された社員を派遣させることも二重派遣に該当します。子会社や関連会社はあくまで独立した法人ですので、派遣会社と直接的な契約がないためです。
特に子会社へ派遣させることはよくある事例ですので、気をつけましょう。
偽装請負
偽装請負は請負契約を装い、実際には二重派遣することで、二重派遣の回避策として用いられることが多く問題視されています。
派遣労働者は通常、派遣先企業から業務指示を受けますが、偽装請負の状況下では、異なる展開が見られます。
ここでは、派遣労働者が派遣先の会社とは別で、業務請負契約を結んでいる会社の仕事を担当し、その会社から作業の指示を受けます。
二重派遣が禁止される3つの理由
二重派遣が禁止される理由を3つにまとめました。
- 責任の所在が不明確になるから
- 労働条件が守られない可能性があるから
- 派遣社員の減少に繋がるから
ぜひ参考にしてください。
責任の所在が不明確になるから
二重派遣の場合、派遣社員が本来勤務しない場所が勤務先になりますので、その派遣社員の雇用責任が曖昧になります。
万が一不測の事態が発生した場合、誰が責任を取るのかといったことが不明確になり、派遣社員を守れなくなりますので、二重派遣が禁止されています。
労働条件が守られない可能性があるから
二重派遣によって派遣社員の雇用責任が不明確になると、派遣社員の労働条件を担保することが難しくなります。
例えば、派遣社員の給料や労働時間、労働環境などが悪化する可能性が高くなるでしょう。
二重派遣が横行すると、派遣の制度そのものが形骸化するかもしれません。
派遣社員の減少に繋がるから
二重派遣によって、派遣社員に対する責任が不明確になり、派遣社員にとって給料の低下や長時間労働などの待遇の劣化につながります。
このように派遣社員の待遇が悪いと、派遣社員になって自分のスキルを活かして働きたいという人が減少するでしょう。
派遣社員を利用する企業にとっても大きなマイナスになります。
二重派遣をおこなった場合の罰則・リスク
二重派遣した際、企業が受ける罰則やリスクを解説します。
罰則:2つの法律に抵触する
二重派遣した企業は、職業安定法と労働基準法に抵触する行為であるとみなされます。詳しく見ていきましょう。
職業安定法
二重派遣は派遣先の企業と派遣社員の間には、雇用契約が存在しないため、職業安定法の違反行為になります。厚生労働大臣の許可なしで労働者供給行為を実施した場合、刑事罰が科される可能性があります。
具体的には1年以下の懲役または、100万円以下の罰金が課されます。
(出典:職業安定法 第44条)
(出典:職業安定法 第64条)
労働基準法
派遣先企業と派遣社員との間に雇用関係がないため、二重派遣は労働基準法第6条の中間搾取の排除に触れる可能性があります。
ただし、派遣会社と派遣社員の間には雇用契約があるため、中間搾取の排除の対象にはなりません。
派遣先が他の企業に派遣社員を送り報酬を得た場合、労働基準法に基づいて1年以下の懲役または、50万円以下の罰金(118条)が科されることがあります。
(出典:労働基準法 第6条)
(出典:労働基準法 第118条)
リスク:厚生労働大臣による行政処分
二重派遣の問題に対して、厚生労働大臣が行政的な手段として改善命令などを出すことが考えられます。厚生労働大臣からの改善命令などに従わない場合、企業名が公にされる可能性があるでしょう。
(出典:職業安定法 第48条 第1項)
(出典:職業安定法 第48条 3第1項)
罰則の対象となる企業
罰則を受ける対象企業は、派遣会社から人材を受け入れたうえで、別の企業に人材を派遣していた企業です。懲役刑や罰金刑が科されることが考えられます。
また、二重派遣の事実が業界内で広まると、派遣会社との新たな契約を結ぶのが難しくなるかもしれません。
企業の信頼を損なわないためにも、二重派遣にならないようにしましょう。
特に二重派遣が起こりやすい業種
二重派遣が起こりやすい業種とその理由をまとめました。
IT/エンジニア業界
IT業界の作業プロセスは非常に多岐にわたり、各ステージで必要な人員数や専門スキルが異なります。外部委託や再委託を多用する傾向にあり、その過程で、二重派遣が紛れ込む可能性が高いでしょう。
製造業(作業員)
製造業や軽作業、イベントの設営などの分野で働く作業従事者も、二重派遣が生じやすい職種です。人手不足が起こりやすく、関連企業やグループ会社間で人材の流動が活発になるためです。
二重派遣とは知らずに、グループ会社で派遣社員をさらに派遣するケースがよくありますので、注意しましょう。
二重派遣を防ぐために確認すべき5つのポイント
二重派遣を防ぐのに確認するポイントが5つあります。
- 雇用関係
- 契約内容
- 指揮命令系統
- 勤務実態
- 従業員へ聞き取り
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①雇用関係
派遣元の企業が取引先へ人材派遣する際、派遣社員が雇用契約を結ぶのは派遣元の企業です。
もし、派遣元の企業と派遣社員の間で雇用契約を締結していない場合、二重派遣が問題視されることが考えられます。
どことどこに雇用関係があるのか、十分に確認することが大切です。
②契約内容
請負契約や委任・準委任契約が結ばれている場合でも、実際の業務内容が派遣労働になっていないかチェックしましょう。委任契約や準委任契約は、特定の業務の遂行を果たすことで対価が発生します。
請負契約の場合、成果物が完成した際に報酬が支払われますので、契約の詳細を確認することで二重派遣を回避できます。
③指揮命令系統
派遣労働者の業務に対して、指揮命令を下す者が誰かを明確にしましょう。
契約書に記された指揮命令者と、実際に指示を出している者が、同一人物かどうかが肝心です。
契約書と現場の指揮命令者が違う人物の場合、二重派遣の疑いがあるとみなされ、調査されるケースがあります。
④勤務実態
二重派遣の状況では、派遣労働者の実際の勤務内容が、最初に結ばれた契約と大きく異なることがよくあります。
休憩時間や働く時間帯などが、契約内容と現場の状況で大差がないか、注意深くチェックしてください。
⑤従業員へ聞き取り
派遣先の会社においても、知らず識らずのうちに他の企業へ派遣労働者を回すケースがあります。そして、派遣労働者自身が、二重派遣されている自覚がないことがあるでしょう。
このような状況を早期に察知するために、派遣先の本社が労働者の匿名を保持しつつ、定期的なアンケート調査の実施が大切です。
二重派遣についてのまとめ
二重派遣は、人材を受け入れた派遣先が、別の企業に派遣スタッフを派遣させることです。
職業安定法や労働基準法などにより罰則が科される違法行為ですので、派遣社員を扱う企業は注意しなければなりません。
意図せず二重派遣になるケースもありますので、企業の担当者は予防策を考えておく必要があるでしょう。
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