グローバル人材とは? 定義や必要性、企業の育成方法と事例を紹介
ビジネスのグローバル化に伴い、海外進出する企業には「グローバル人材」の重要性が高まっています。
グローバル人材とは複数の国で活躍できる人材であり、語学力をはじめとした多くのスキルを身に付けている点が特徴です。
グローバル人材の定義や必要なスキル・能力、企業が育成する方法や注意点を詳しく解説します。
グローバル人材とは
グローバル人材は、複数の国で活躍できる人材であり、語学力や異文化理解、コミュニケーション能力に優れているといった特徴があります。
特に、国内のみならず海外市場を開拓する企業に需要が高まっている人材です。
その重要性は国も認めるところであり、現在も行政・企業・学校といったさまざまな組織が育成に取り組んでいます。
文部科学省の定義
グローバル人材の定義については、文部科学省が以下の3つの要素から構成されると定めています。
- 語学力・コミュニケーション能力
- 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
- 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
また、上記に加えて「幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等」も含まれるとしています。
そのうえで、グローバル人材の能力水準の目安も、以下の5段階で設定しています。
- 海外旅行会話レベル
- 日常生活会話レベル
- 業務上の文書・会話レベル
- 二者間折衝・交渉レベル
- 多数者間折衝・交渉レベル
そして、特に4.5.レベルの人材の育成・確保を重要視し、行政や高校・大学、企業などが同時に、さまざまな施策に取り組むべきとしているのです。
参考:文部科学省「グローバル人材育成推進会議中間まとめの概要」
必要とされる理由
グローバル人材が必要とされる理由には、以下のようにさまざまなものがあります。
なお、ここで挙げるグローバル人材が求められる背景は、日本だけに限ったことではなく、先進国全体に共通するものです。
今後さらに、進行するビジネスのグローバル化や企業間競争の激化を考えると、グローバル人材の育成は国内のみで事業を行っている中小企業にとっても必要になってくるでしょう。
少子高齢化による労働力不足
今後ますます進む少子高齢化による労働力不足対策として、グローバル人材の育成が求められるケースがあります。
少子高齢化の進行により、国内の労働市場だけに注目した人材活用では対応しきれなくなりつつあります。
そのフォローをするために、外国人の採用が必要になる場合もあるでしょう。
そうした事態に備えて、企業には多様な人材の受け入れ体制を整え、ダイバーシティに沿った人材戦略が必要になってきているのです。
国内需要の低下
低下していくと想定される国内需要の対策をし、安定した需要を生み出すためもあります。
現在の日本は、少子高齢化によって人口が減少しています。そのため今後は、自社の顧客も売り上げも減少していくことでしょう。
さらに割安な輸入品も増えることによって、国内での製造・営業・販売中心の事業展開だけでは会社の経営が立ち行かなくなる可能性が生じます。
そこで海外市場に目を向けることで、自社の生き残りをめざす企業が増加しているのです。この目標達成のためにも、グローバル人材の育成は不可欠です。
新興国の経済発展
新興国が急激に経済発展を遂げており、新たなマーケットが創出できる可能性がある点も、大きな理由の1つです。
近年、産業・経済のグローバル化によって資本や経営ノウハウが国境を越えて移動しています。それに伴い、海外に移動する海外直接投資の比重も高まっています。
よって、これまでは発展途上だった国々にも経済的に豊かな層や人口が増加し、海外での新たな需要が拡大しているのです。
そこに目を付け、現地法人を設けて海外市場の開拓にも着手する企業が増えてきています。現地で働ける人材を増やすために、グローバル人材の育成にも取り組んでいるのでしょう。
グローバル人材に必要なスキル・要件
「文部科学省による定義」の部分で、グローバル人材は3つの概念で構成されると解説しました。
具体的にどういったスキルが必要とされるか、さらに詳しく解説します。
語学力
語学力は、全ての要件の前提となる能力です。基本は話者の多い英語が求められますが、シーンによってはほかの言語が求められることもあります。
ただし、ただ「外国語が分かる」だけでは足りず、後述のように「複数人で交渉ができる」レベルが必要です。そのため、どの言語であるにせよ、実務レベルの語学力があると良いでしょう。
コミュニケーション能力
他言語を使って、周囲と十分なコミュニケーションができることも重要な要素です。
ただしここで言う「コミュニケーション能力」とは、いわゆる「多くの人と会話ができる力」「場を盛り上げる力」とは異なり、他者を理解し、双方の主張や希望を踏まえて、落としどころを見つける力です。
特に海外でビジネスをする場合、欠かせない力だと言えるでしょう。
主体性・積極性、チャレンジ精神
グローバル人材は、いわゆる「指示待ち人間」であってはなりません。自ら考え、行動する姿勢も求められます。
海外での仕事に必要な情報を積極的に収集する、相手国の社会情勢や文化・国民性、法律といった特徴を理解するといったことも求められるでしょう。
加えて、未知のことも恐れず挑戦できる精神が必要です。国際競争を勝ち抜くためには、ビジネスの独創性と、スピード感が物を言います。
ときにはリスクを取らなければならなかったり、失敗したりすることもあるでしょう。しかしそうした場合も落ち込まず挑戦し続けられる人材が、新たな市場を切り開けるのです。
協調性・柔軟性
独創性やスピード感は重要ですが、だからといって個人プレーのみができれば良いわけではありません。
社員一人一人に協調性があることはもちろん、ともに働く仲間のことも深く理解し、チームとしてまとめあげ、行動できる必要があります。
また、海外でのビジネスは、国内のビジネスでは起こりえない事態が発生することもあります。そうしたシーンでも柔軟に判断し、行動できることも不可欠です。
責任感・使命感
指示された仕事を最後まで遂行する責任感・使命感は不可欠です。
そして、その仕事や自分自身が、業務のなかでどういった立ち位置になるのかを理解できていると、これらのスキルはより一層高められるでしょう。
もともと責任感や使命感が強い人材であれば、幅広い業務を任せることで、さらに視野が広がって優れたグローバル人材に成長するかもしれません。
異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
海外の国々の文化を理解し、尊重することも重要です。
加えて、グローバル化が進む世界では「日本人であること」というアイデンティティーも、多様性の1つとして尊重されるものです。
社員には自国の歴史や文化をはじめ、さまざまなことを学ばせましょう。自国のことを質問されるシーンは、意外と多く存在します。
他国への理解をしつつ、自国のこともきちんと語れれば、相互理解が深まるでしょう。
グローバル人材を企業に迎える手段
グローバル人材を自社に迎え入れる方法は、大きく2つ存在します。
- 即戦力の人材を採用する
- 社内の従業員を育成する
それぞれ解説します。
即戦力の人材を採用する
手っ取り早い方法は、即戦力となるグローバル人材を採用することです。即戦力の人材を採用できれば、教育コストの削減にもつながります。
ただし、こうした人材は多数存在するわけではないため、募集をかけても思うように集まらない場合があります。
また、求人サイトや人材紹介会社を利用する場合、相応のコストも発生するでしょう。結果として、多額の採用コストがかかる可能性は否めません。
社内の従業員を育成する
自社の従業員にさまざまな教育を施し、グローバル人材として育てる方法もあります。
こちらは教育コストはかかるものの、採用コストは押さえられるため、自社で人材育成の余地があるなら試してみたいものです。
即戦力としての活躍は見込めないかもしれませんが、自社の企業理念や経営方針などを深く理解していることから、自社に合う人材が育成しやすい点はメリットです。
具体的な育成方法は、次の見出しで解説します。
グローバル人材を育成するための手順
既存社員をグローバル人材に育て上げたい場合、以下の手順に沿って育成計画を進めましょう。
1.求める人材像を固めて育成候補の人材をリストアップする
まずは自社がどういったグローバル人材を求めるのか、明確に言語化しましょう。
そのうえで、自社内のどの社員を育成対象とするかを決定します。できれば1人だけではなく、複数人を選抜することをおすすめします。
社員を選ぶ基準はいくつも考えられますが、先に紹介した「グローバル人材に必要なスキル・要件」と社員それぞれの能力を照らし合わせ、成長が見込めそうな人材を選ぶと良いでしょう。
ただし、必ずしも全てのスキルを持ち合わせている必要はありません。また、持っているスキルそのものも、突出していなくても構いません。
現在の状況を踏まえて、少しでも伸びしろがありそうなら、候補として選定してみてください。
2.育成計画を策定する
続いて、グローバル人材に育て上げるためにどういった計画で進めるかを決めていきます。
ただし、まず取りかかるべきは、候補となる人材に不足しているスキルを洗い出すことです。
解決すべき課題を見つけ、それを踏まえて育成計画を考えましょう。
計画の内容に迷う場合は、外部の専門家に相談するのも手です。
3.育成計画を実行・改善する
定めた育成計画を実際に行い、教育を進めます。
このとき重要なことは、育成計画そのものも随時見直しをすることです。
もし上手くいかなかったもの、改善したほうが良いと感じることがあれば、なぜそう感じたのか原因を探りましょう。
そして、その結果は担当部署全体で共有してください。こうしてPDCAサイクルを回していくことで、より洗練された育成計画が出来上がるはずです。
4.育成した人材を社内に配置する
育成計画が終わったら、グローバル人材が求められる社内の部署やプロジェクトに配置しましょう。
ただし、育成が終わったからといって、いきなり即戦力として活躍できるとは限りません。
周囲がフォローする、個別面談の機会を設けるなどをすると良いでしょう。
グローバル人材を育成する具体的な方法
グローバル人材の育成計画に取り入れられる方法としては、以下のようなものがあります。
- 研修を実施する
- OJTを実施する
研修を実施する
比較的取り入れやすい方法としては、グローバル人材に求められるスキルを向上させる研修を実施することです。
語学力やコミュニケーション能力を伸ばすものだけではなく、リーダーシップ研修も良いでしょう。
また、社外の集団研修に参加させる、通信講座の受講や短期留学をさせるといった方法もあります。自社の目的に応じた研修を選び、適切なタイミングで受講させることが重要です。
OJTを実施する
先輩社員に付いて、仕事の方法やスキルを学ぶOJT(On the Job Training)の実施も効果的です。
特に、協調性や責任感、使命感、チャレンジ精神といったスキルは、研修よりも実務経験から学ぶほうが身に付きやすいものです。
さまざまな仕事を担当させ、多くの先輩社員と接する機会を設けましょう。
ただしOJTでは、先輩社員のスキルや能力に依存しやすい点に注意が必要です。
グローバル人材の育成に成功した企業事例
最後に、グローバル人材の育成に取り組み、成果を出している企業の例を紹介します。
なお、人材育成はある程度期間をかけて行うものですが、その成果は目に見えて分かりやすいものばかりではありません。
これらの取り組みも参考に、自社で長期的に取り組めそうなものを検討してみてはいかがでしょうか。
日立製作所|世界6拠点を結んで人材育成や
日立製作所は「社会イノベーション事業のグローバルリーダーになる」ことを目標として、世界規模での人材育成に取り組んでいます。
同社は2010年より、「社会イノベーション事業」を推進し、その一環としてグローバル人材の育成に注力しています。
もともと同社は国内を中心に製品事業を展開していましたが、世界的なグローバル化の進行を受けて方針を変更。国内外の6拠点が一丸となって事業を行う必要があるとし、新たな人材育成プランに着手したのです。
求める人物像を明確にしたうえでの人材育成に加えて、全世界共通の人財マネジメント統合プラットフォーム「Workday」の導入や業務内容・人材配置の見直しといった、複数の施策を実施しました。
その結果、性別や国籍などが異なる多様な人材が、業績アップのために協力できる体制ができています。
千代田化工建設
千代田化工建設は、ガスや石油のプラント建設をはじめ、国内外でさまざまなプロジェクトを手がける総合エンジニアリング企業です。
同社は自社のみならず、関係国の人材育成にも注力しています。こうした取り組みをする理由は、「産業と技術革新の基盤作り」のためだと言います。
人材育成プログラムでは、プラントの運用に必要なエンジニアリングの知識や、AI・ビッグデータといった最先端の技術の伝達、プロジェクト管理やリーダーシップスキルの養成まで、幅広い内容を実施。
各国で産業基盤が確立できるよう、惜しみなく知識と技術を共有しているのです。
自社の利益に直結する取り組みではないかもしれませんが、世界的で持続可能な産業基盤の整備に大いに貢献している例です。
グローバル人材についてのまとめ
グローバル人材は、語学力やコミュニケーション能力が高く、主体的に新しいことに挑戦できる国際感覚豊かな人材のことです。
企業が海外市場へ展開するために重要な存在で、外部から採用することと、社内で育成する方法の2つがあります。
年齢・性別・国籍・文化・価値観の異なる多様な人材が企業に集まることで、新たなアイデアの創出につながります。多様化する顧客のニーズに応じた、新商品の開発もできるでしょう。
まずは自社で求めるグローバル人材の定義を明確にするところから始め、優秀なグローバル人材の育成に努めてください。