どこからが副業? 副業の定義と社内ルールの整備の仕方を解説
昨今、働き方改革で副業のニーズが高まり、副業を認める企業も出てきました。
一方で、副業を禁止している企業も多く、正確な知識が備わっている人は少ないのが現状です。
そこで本記事では、副業の定義やメリットについて詳しく紹介します。副業のルールを策定したいと考えている人などは、ぜひ参考にしてください。
副業の定義とは? 複業・兼業との違いは?
副業とは「本業以外から収入を得る仕事」であるため、本業以外の仕事は全て副業と呼べます。
副業と似た言葉として「複業」および「兼業」がありますが、それぞれに法的な違いはなく、主とする職業と副となる職業のバランスを表すニュアンスで使い分けがされています。
3つの違いは以下の通りです。
- 副業
軸足を置く本業の片手間に働いて収入を得ること。 - 複業
本業を複数持つようなイメージで使われることが多い。 - 兼業
副業ほど仕事間で力の入れ具合に差がないようなイメージで使われやすい。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においては「副業・兼業」と併記されている。
厚生労働省が公表した「モデル就業規則」では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」という文言も記載されており、近年では副業を解禁する企業が増加傾向にあります。
(引用元:モデル就業規則)
しかしながら、副業を禁止している企業も少なからず存在しています。
もし解禁されていたとしても企業側への申請が必要な場合もあるので、自社の就業規則を確認してください。
さらに、実際の運用上どこからが副業か、という点についても就業規則によって決まるため、トラブルを起こさないためにも、よく確認することをおすすめします。
現状多くの企業は副業の解禁を躊躇している
働き方改革の意識が広がっているにもかかわらず、現状では、いまだに多くの企業が副業を解禁するまでにいたっていません。2020年に経団連が実施した調査によると、副業を認めている企業は全体の22%に過ぎず、決して多いとは言えません。
副業を許可できない理由としては、長時間労働といった過重労働への懸念が最も多く、社員の健康確保が課題となっています。
そのため、副業解禁および推進のためには業務時間の短縮や総労働時間を把握するための仕組みづくりといったことが重要になるでしょう。
(参照元:副業・兼業の促進)
近年の国としての副業に対する姿勢
多くの企業が副業に対して否定的ですが、国としては副業に対してどのような姿勢をとっているのでしょうか。副業に関するモデル就業規則の遷移を確認していきましょう。
2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が策定され、モデル就業規則から「副業禁止規定」が削除されました。
さらに、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中では「副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。」としています。
このように政府は、副業・兼業に対して積極的に促進する姿勢をみせています。
(引用元:副業・兼業の促進に関するガイドライン)
企業が副業を制限できる条件
基本的には、労働時間外の活動は労働者の自由であるとされているため、副業を企業側が制限することはできません。
しかし、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によると、これまでの判例から以下4つの条件に当てはまった場合のみ、企業側が副業を制限できるとしています。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
(引用元:副業・兼業の促進に関するガイドライン)
副業のメリット・デメリット
副業を解禁しようという動きは活発になっていますが、企業側が副業を推奨するメリット・デメリットはあまり知られていません。
両方をしっかりと理解することで、企業側・従業員側のどちらもが納得のいく就業規則を確立できるでしょう。
企業が副業を認めるメリット
企業側が副業を認めることで得られるメリットは、「社員のスキルアップにつながる」「人材の流出を抑制できる」「企業のイメージが良くなる」の3つに大きく分けられます。
社員のスキルアップにつながる
最初のメリットは「スキルアップにつながること」です。本業とは異なる業務に取り組むことで、社内では得られない経験ができ、社員のスキル向上につながります。
また、社外の人と関わることで、人脈や視野が広がり、本業の仕事で役立つ新たな気付きを得られるでしょう。ひいてはイノベーションにつながる、といった効果も期待できます。
人材の流出を抑制できる
続いてのメリットは「人材流出の抑制」です。副業がしたいと考える人の多くは、「挑戦したいこと」を胸に秘めています。そのため、副業ができないとなると副業への意欲が増し、転職してしまう可能性があります。
また、副業を解禁し、優秀な人材が挑戦しやすい環境を用意できれば、優秀な人材の獲得につながります。他社から多様な人材が集まり、企業側に利益をもたらすでしょう。
企業イメージが良くなる
最後に挙げられるメリットは「企業イメージの向上」です。副業を認めるということは、従業員のことを管理対象ではなく一個人として尊重しているという意思表明になります。
また、自由で多様な働き方を認める社風であると示すことにもなり、従業員および求職者から好印象を得られるでしょう。結果として、人材確保やエンゲージメント向上に寄与します。
企業が副業を認めるデメリット
ここまではメリットについて紹介してきましたが、反面デメリットも存在します。企業が副業を認めるデメリットとしては、「労働時間の管理が複雑化する」「情報漏洩のリスクが高まる」の2つが挙げられます。
労働時間の管理が複雑化する
まずは労働時間の管理についてです。副業を認めた上で雇用関係を結ぶ場合、労働時間は通算して計算されるため、副業を含めた労働時間の把握が必要となります。
つまり、従業員が過労で健康を害してしまった場合、その責任が本業と副業どちらの会社にあるか曖昧になってしまう可能性があるのです。このようなトラブルを未然に防ぐためにも、労働時間の管理を見直さなければならず、複雑な時間管理をする必要が出てきてしまいます。
情報漏洩のリスクが高まる
情報漏洩のリスクが高まることもデメリットです。従業員が副業として他企業と関わることになるので、情報漏洩の可能性は確実に高まります。
そのため、情報漏洩を防止するための制度設計や、従業員に守秘義務の確認を行うこと、さらに情報を漏洩してしまった際の対処法についても考えておく必要があります。
副業を認める際に検討すべきポイント
実際に企業が副業を認めるという段階になった際、どのようなポイントを検討すべきでしょうか。副業解禁に際して企業側のリスクを低減するためにも、ぜひ参考にしてください。
どのような形態の副業・兼業を認めるか
企業側がまず検討すべきポイントは、どのような副業または兼業を認めるかという点です。
副業は本業に悪影響がないよう配慮する必要があるため、業種や雇用形態、就業日、労働時間、就業期間など、どんな副業なら認めるかを定めなければいけません。
自社への不利益が出ず、従業員も納得できるよう慎重に検討してください。特に、従業員の健康面に関しては要注意です。オーバーワークにならないよう、副業解禁の際には時間管理を徹底しておきましょう。
副業の承認をどのようなルールで行うか
どのようなルール下で副業を承認するか検討することも必要です。
労働時間の管理や競合他社での就業を防ぐといった観点から、副業の内容を正確に把握しておくことが求められます。
副業の内容を把握する仕組みの構築は必須です。加えて、事前の許可を必要とするか、あるいは届け出のみでよいのか、申請は人事にするのかなど、明確に運用ルールを定める必要があります。
従業員の健康を守る仕組みづくりをどうするか
従業員の健康を守る仕組みづくりも大切です。副業・兼業により健康を害したり、本業に支障が出たりしていないか、適切に管理していく必要があります。
たとえば、定期的な1on1ミーティングを通してコミュニケーションをとったり、産業医との面談を活用して健康面をフォローしたりといった仕組みづくりが不可欠です。
また、副業による過重労働防止の取り組みも重要です。必要に応じて副業の停止あるいは中止を求めるといった企業もあります。
労働時間をどう管理するか
先ほども述べた通り、労働時間の管理は大切です。
しかし、以前は本業および副業先の労働時間の申告や通算が必要とされ、非常に手間がかかっていました。
そこで厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、労働時間の管理を簡便化する「管理モデル」を発表しました。この管理モデルを採用することにより、一定の条件を超えなければ、本業先と副業先の労働時間をお互いが把握せずとも問題ないため、企業側の負担を減らすことが可能です。
(参照元:副業・兼業の促進に関するガイドライン)
また、労働時間を記録するクラウドサービスの導入も有効な手段です。副業制度の構築などをクラウド上で行えるため、管理が非常に簡単で、企業側だけでなく労働者をコンプライアンス違反から守れます。
副業を認める企業が制定しているルールの例
副業が認められている企業で制定されている条件やルールには、どのようなものがあるのでしょうか。いくつかの実例を紹介するので、自社に合った体制づくりの参考にしてください。
食品系企業の例
ある食品系企業では、本業先における年間の総実労働時間が一定時間以内かつ、月平均の時間外労働が15時間以下である場合のみ副業を認めています。
残業時間が少なく、生産性の高い労働者のみが副業・兼業できる制度を整えているのが特徴です。
こうすることで労働者の過重労働リスクを低減でき、モチベーションの向上をもたらす効果も期待できます。
ヘルスケア商品を扱う企業の例
ヘルスケア商品を扱うある企業では、22時以降の就業制限と、翌日の勤務開始まで10時間以上のインターバルを確保することを条件に入れています。
そしてこの企業は、「自社への副業」としての勤務も受け入れている点が特徴的です。
これによって、多様な人材の確保や新規ビジネスの創出につながっています
旅行代理店の例
ある旅行代理店では、本業・副業の通算労働時間を月80時間以内かつ副業を40時間以内にすることを義務付けています。
また、従業員の知見・人脈の拡大を目的として副業解禁を進めているため、観光に関する副業も条件付きで認めています。
たとえば、個人的に依頼を受けセミナーや大学といった場で講演を行うことなどは、事前に人事へ相談し承認を得られれば可能としています。
まとめ
柔軟な働き方を実現するため、副業に挑戦する労働者は増加しており、副業を認める企業も徐々に増えてきています。
副業を企業と労働者それぞれにとって有益なものとするためには、管理体制の強化が必須となります。
しかし、副業にはデメリットも存在するため、企業は安易に全面解禁するのではなく、制限を設けながら従業員を守っていくことが大切です。