アサーションとは? 基礎からスキル取得のためのトレーニング方法まで解説
ビジネスシーンでは他者の意見や価値観を尊重しつつも、自分の主張をはっきり表明しなければならない場面が必ずあります。そのようなシーンで重要となるコミュニケーションスキルが自他尊重に基づく「アサーション」です。
本記事ではアサーションの基礎知識について解説するとともに、具体的な効果やトレーニング法をご紹介します。
アサーションとは
「アサーション」とは、相互の関係性を大切にする自他尊重のコミュニケーション方法を指す概念です。
英語の「assertion」は「主張」や「断言」と和訳されますが、自分の意見や価値観を一方的に押し通すといった意味合いではありません。人は誰もが平等に自己を表現する権利があるという立場に基づき、相手の意思を尊重しつつも、自分の意見や要求はしっかりと伝えるというのがアサーションの基本的な考え方です。
アサーションという概念は1950年代に米国の心理療法の中で誕生し、1960年代の公民権運動や1970年代の女性解放運動などを通して世に浸透していったとされています。
その後、米国で心理療法を学んだ臨床心理士の平木典子氏が日本に紹介し、企業における人材育成や交渉といったビジネスの場だけでなく、医療や教育などの幅広い分野でアサーションという概念が浸透していきました。
アサーションがもたらす効果
聖徳太子が十七条憲法の冒頭に掲げた「和を以て貴しとなす」という言葉があるように、諸外国と比べ「日本人は自己主張が苦手」としばしば言われることがあります。しかし、ビジネスでもプライベートでも、自らの意見をはっきり主張しなければならない場面は、決して少なくありません。
アサーションは相手に不快感を与えずに自分の意見を主張する自他尊重をベースとするため、建設的なコミュニケーションが可能となり、社内外を問わず安心や信頼を土台とする人間関係の構築に寄与します。
まずはアサーションにおける3つの自己主張タイプを確認
アサーションの研究では自己主張のタイプを3つに分類しています。ここでは、それぞれのタイプがもつ特徴について解説します。
1.アグレッシブタイプ(攻撃型)
相手の気持ちや意見よりも自分自身の意思を最優先に考えるタイプです。
他者よりも優位に立ちたがる支配的な性格で、自分の主張を通すためなら相手を傷つけることもいとわないという特徴を持ちます。
相手の意見を無視して自分の価値観を押し付けがちであり、勝ち負けへの執着が強く、己の欲求に正直なため敵が多い点もアグレッシブタイプの特徴です。
その反面、人を惹きつけるカリスマ性や強力なリーダーシップをもつ人物が多い傾向にあります。
2.ノン・アサーティブタイプ(非主張型)
他者の意見や価値観を優先し、自分の主張を通すのが苦手なタイプです。
優しく穏やかな性格で、誰に対しても平等に接する傾向にあり、自己主張が控えめで争いごとを好まないという特徴を持ちます。
組織の和を保つ上で欠かせないタイプですが、他者を尊重する優しさは自己評価の低さの裏返しであることも多く、消極的で優柔不断な傾向にあるため、チームを牽引するリーダーには向いていません。
3.アサーティブタイプ(バランス型)
相互理解をベースとした自他尊重のコミュニケーションを優先するタイプです。
アグレッシブタイプの行動力や積極性をもちつつ、ノン・アサーティブタイプのように他者の意見や価値観を尊重できるという特徴を持ちます。
アサーションの考え方を体現しているタイプであり、相手を尊重する心と自分の意見を主張するバランス感覚に優れ、Win-Winの関係性を目指すのがアサーティブタイプの最大の特徴です。
アサーションのトレーニング方法
あらゆるビジネスにおいて最も重要な経営課題のひとつは、安心と信頼を土台とする関係性の構築です。
ここでは、自他尊重の精神に基づくアサーションのトレーニング方法について解説します。
具体的な方法として挙げられるのが「DESC法」と「Iメッセージ」、そして「ABCDE理論」の3つです。
4ステップで自己主張を行う「DESC(デスク)法」
DESC法とは、「Describe(描写)」「Express(説明)」「Suggest(提案)」「Choose(選択)」の4ステップに基づき、相手に不快感を与えることなく自己主張をするための会話技法です。
まず相手の現状や行動などの客観的な事実を描写し、その内容に対する自分の意見を感じたままに説明します。そして、課題を解決するアイデアを提案し、受容と否定のそれぞれに対して選択肢を示します。
この4ステップを通じて自分の主張を伝え、衝突の回避や折衷案を探っていくのがDESC法の本質的な目的です。
自分の考えを伝える「I(アイ)メッセージ」
Iメッセージとは、「私(I)」を主語に置くことで相手の行動を促す会話技法です。
自分の意見を主張する際に「あなた(you)」を主語に置くと命令形になってしまい、相手は不快感や反発心を抱く傾向にあります。
たとえば、相手に対して何かを要求する場合、「あなたにこうしてほしい」と言うのではなく、「私はこうしてくれたらうれしい」と伝えることで否定的な印象が軽減され、相手の意思を尊重しつつ行動を促すことが可能です。
合理的思考を目指す「ABCDE理論」
ABCDE理論とは、論理療法におけるカウンセリング理論のひとつです。
人間の不快な感情は客観的な出来事そのものによって引き起こされるのではなく、物事の解釈や捉え方によって生じます。
まず「状況(Adversity)」と「思い込み(Belief)」を言語化し、「その結果(Consequence)」を書き出します。
次に思い込みに対する「反論(Dispution)」を書き出し、自身を「元気づける(Energization)」というプロセスを経ることで、俯瞰的な視点で合理的な認知が可能となります。
アサーションスキル取得に向けたポイント
アサーションを用いて円滑な人間関係を構築するためには、押さえておくべきポイントがいくつかあります。なかでも重要となるのが「非言語的表現」と「アサーティブの構成要素」です。
非言語的表現にも注意する
自他尊重のコミュニケーションを図る上で欠かせない要素のひとつが、ラポールの形成です。
ラポールはフランス語で「信頼関係」を意味する概念であり、心理学の領域では信頼関係が構築されている心的融和状態を指します。
ラポールを形成するためには、相手の表情や姿勢といった視覚的な要素と、話し方や声のトーンなどの聴覚的な要素に着目し、言葉だけでなく非言語的な表現を意識しなくてはなりません。相手の非言語的表現に注意しながらコミュニケーションを図ることで、より親密な関係性の構築につながります。
アサーティブの構成要素を意識する
相互理解をベースとしたコミュニケーションを図るためには、アサーションの構成要素を意識する必要があります。
アサーションは原則として「誠実」「率直」「対等」「自己責任」という4つの要素によって構成されています。
自分の心と相手に対して誠実に接し、遠回しな表現を避けて率直に意思を伝え、対等な目線で対話を図り、その上ですべての結果の責任は自分に在ると考えることが大切です。この4つの構成要素を意識することで、自然とアサーションスキルの向上につながります。
まとめ
アサーションは、人は誰しも自分の考え方を表明する権利があるという立場に基づく手法です。
相手の意思を尊重しつつも、自分の意見を明確に主張することで、自他尊重をベースとする建設的なコミュニケーションが可能となります
。企業が発展していくためには、組織に属する人間同士が信頼関係で結ばれるのはもちろん、顧客や取引先と良好な関係性を構築しなくてはなりません。
安心や信頼を土台とする人間関係を構築するためにも、ぜひアサーションを経営体制に取り入れてみてください。
【書式のテンプレートをお探しなら】