エンパワーメントとは? 導入するメリット・デメリット、成功させるポイントまで解説
もともとは社会福祉の分野で取り入れられていたエンパワーメントという手法ですが、近年では人材育成やマネジメントの手法としても注目されています。組織において一体どのような意味があるのでしょうか?
エンパワーメントを導入するメリットやデメリット、導入の手順をはじめ、成功させるために押さえておきたいポイントや成功事例について詳しく紹介します。
エンパワーメントとは
エンパワーメントはアメリカで社会的に困難な立場にある人たちの自己表現をサポートするために、社会福祉の分野で導入された手法です。
会社組織で用いられるエンパワーメントとは、その人の弱みやマイナス面を改善するのではなく、長所や強みに着目し、それらを伸ばして組織の中で活かせるような自己成長を支援することを目的として導入されています。
支援を受ける側は自身の長所などに気がつくことで、自己実現に向けて主体的に行動できるようになります。
エンパワーメントを導入するメリット
組織がエンパワーメントを導入することで会社や人にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
3つのメリットについて具体的に見ていきましょう。
メリット1 業務改善や生産性に寄与する
エンパワーメントの関わり方のひとつである「権限委譲」が行われると、社員は自分ごととして責任を持って業務に取り組むようになります。
それにより、業務に対する視点がこれまでとは異なり、業務を効率的に進めようとする意識が生まれることから、組織全体の生産性の向上につながることが考えられます。
メリット2 顧客満足度の向上に繋がる
エンパワーメントでは社員の自発的な行動力が育成されることで、会社はもちろん社会への貢献意欲が増していきます。
貢献意欲が増すことで、顧客に対して提供しているサービスの品質・満足度の向上も期待できるでしょう。
メリット3 社員のモチベーションが向上する
エンパワーメントを意識した関わりをしている社員は、自身のマイナス面ではなく強みや長所に目を向けられるようになります。
そのため、業務に対しての苦手意識よりも成長や貢献の意欲が高まるため、モチベーションの向上にも繋がります。
業務に対するモチベーションが高まることで、社員の定着率アップにも寄与するでしょう。
エンパワーメントを導入するデメリット
続いて、エンパワーメントを導入することで生じるデメリットについて解説します。
メリットだけでなく、デメリットもしっかりと把握しておくことで、自社での導入を検討する冷静な判断材料となります。
デメリット1 組織の方向性や目的がずれる可能性がある
社員の自発的な判断と行動力に任せておくだけでは、組織として達成すべき目的とずれた判断をする恐れがあります。
常にコントロールが必要な部分がある場合は、エンパワーメントの導入により結果として目的を成し遂げられない事態も考えられるでしょう。
デメリット2 過剰なストレスやパフォーマンス低下につながる可能性ある
エンパワーメントでは社員の自発的な考え方を重視するために権限委譲が行われますが、社員によっては任されることがプレッシャーとなってしまうこともあります。
それにより、以前と比べると業務に対するパフォーマンスが低下するなども考えられます。
デメリット3 指導者によっては社員の成長を阻害する恐れがある
仕事を任せているからといって、社員が自ずと成長していくわけではありません。
指導者がエンパワーメントについてしっかりと理解し、一人ひとりに合わせた関わり方をしなくては強みや長所を伸ばすことができないだけでなく、成長を阻害してしまうことに繋がる恐れもあります。
エンパワーメントの導入方法
エンパワーメントを実際に導入する場合はどのような手順を踏むといいのでしょうか?
社員への周知や権限譲渡、また、導入後にするべきことなどを順番に解説します。
導入方法 1.エンパワーメント推進を宣言
まずは、自社においてエンパワーメントをどのように取り組むのかを明確にしておく必要があります。
役員層の承認を得て、会社としてエンパワーメントに取り組むことが決定したら、実際に社員をマネジメントする立場である管理職やマネージャー層に伝えた上で、全社的な取り組みとして推進を宣言します。
導入方法 2.目標への同意と共感を得る
エンパワーメントの推進を宣言すると同時に、会社としての行動目標やエンパワーメントを行うことによって達成する具体的な数値目標などを共有しましょう。
目標に対して、社員からの同意を得なければ、エンパワーメントの取り組み効果は得られません。社員の意見を参考にしながら、活動の見直しを行っていきましょう。
導入方法 3.重要情報をシェアして権限譲渡する
エンパワーメントのデメリットで解説したように、社員が会社全体や組織としての目標とズレた行動をする恐れがあるため、必ず組織目標などの重要情報をシェアしましょう。
その上で、社員の特性に合わせて権限委譲を行います。
導入方法 4.社員の行動をフォローして適宜フィードバックする
社員が目標からずれた行動をしていたり、判断に迷っていたりするような場合にはフォローしましょう。
定期的に1on1ミーティングを行ったり、話す機会を設けたりして、フィードバックすることが大切です。
導入方法 5.目標達成のために行動は縛らない
社員が迷っている場合にはフォローが必要ですが、自主的に判断して行動できるように成長を促すには、行動を縛りすぎず、任せてしまうことも大切です。
エンパワーメントを成功させるヒント
エンパワーメントを成功させるヒントは、「ビジョンの共有」「整った環境」「範囲の明確化」と大きく分けて3つ挙げられます。それぞれについて具体的に解説していきます。
ヒント1 企業やプロジェクトのビジョンを共有する
エンパワーメントを導入する以上は、企業や組織の収益向上を果たし、成長へ繋げなくてはなりません。
そのため、企業が達成すべきビジョンはもちろん、エンパワーメントを行うプロジェクトのビジョンなどについては事前の共有が必要となります。
ヒント2 エンパワーメントに必要な環境を整える
エンパワーメントでは社員に権限委譲をすることになりますが、そもそも権限委譲することでどのように成長に繋げるのかといった方向性を明確にしておく必要があります。
社員のレベルに合わせて業務を選定し、不安なく自発的な行動をし続けられるようなサポート大勢の構築をするなど、環境設定が必要です。
ヒント3 権限を委譲する範囲を明確にしておく
権限委譲をするといっても、管理職やマネージャーが本来追うべき責任まで委譲するのは好ましくありません。
業務ごとにどの範囲までを委譲し、どのような状態になればフォローするのかを、事前に明確にしておく必要があります。
エンパワーメントの成功事例
エンパワーメントを導入している企業は多くあります。実際にエンパワーメントを導入して成功した3企業の事例を紹介するので、これから自社への導入を検討している企業はぜひ参考にしてみてください。
成功事例 1.星野リゾートの事例
星野リゾートは過去に退職率の増加が懸念されていたため、エンパワーメントを導入しました。
100年後にも競争力を維持する組織構築のために、まずは階層化した組織を撤廃し、情報を全社員で共有するといったフラットな組織文化を根付かせました。また、旅館内での業務を専任化しないマルチタスクなサービスチームを構築するなど、社員一人ひとりの潜在能力を引き出すためのチームづくりを行うことで、人材の定着化を図っています。
成功事例 2.スターバックスの事例
スターバックスには「私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します」といった行動規範があります。
そしてエンパワーメントの導入として、接客マニュアルは用意せずに「お客様にコーヒーを通して満足してもらう」ことを共有目標として掲げ、社員一人ひとりが自主的に最高のおもてなしを行えるような環境をつくっています。
さらに、一人ひとりのミッションとしては、お客様にコーヒーを通して向き合うことを前提に行動することが定められています。
成功事例 3.リッツカールトンの事例
リッツカールトンは「お客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供する」という言葉を信条とし、これが社員にとっての行動指針にもなっています。
明確な行動指針がある上で「「自分の通常業務を離れて、セクションの壁を超えて仕事を手伝えること」」「2,000ドルの決裁権」や「自分の判断で行動する」といった3つのエンパワーメントが行われており、社員の自発的な行動を推奨しています。
エンパワーメントのまとめ
近年、人材育成やマネジメントの手法として多くの企業でエンパワーメントが導入されています。
弱みやマイナス面を見るのではなく、長所や強みを伸ばせるような取り組みを行うことで、業務改善や生産性、顧客満足度の向上のほか、社員のモチベーションを上げるなどのメリットがあります。
エンパワーメントの導入を検討されている企業は、今回ご紹介した導入手順を参考にして、成功へ導いてください。