給与計算ってどうやるの? 健康保険の「扶養」の考え方
会社の従業員が結婚したり、子どもが誕生したりなどで、健康保険証の発行を申請することがありますが、この健康保険の「扶養」には、いくつかの要件が決まっています。
被扶養者として認定される親族の範囲に含まれていることと、従業員の収入によって生計を維持できていることが必須です。
夫婦が共働きの場合や配偶者が失業給付を受給する場合、またパート先で社会保険に加入する場合など、正しい給与計算が行われるためにも、さまざまなパターンにおける要件を理解しておくとよいでしょう。
1 健康保険の「扶養」には要件がある
会社で社会保険に加入している人に配偶者ができたり、お子さんが誕生したとき等に健康保険証を作る場合などがあります。健康保険では「扶養」の対象に入るかどうか要件が設けられていますので、概要を見ていきましょう。
2 健康保険の被扶養者の範囲
一般的には単に「扶養」という言葉を使うことが多いかもしれませんが、健康保険では「被扶養者」と呼びます。一方で被扶養者を扶養にする従業員の方を「被保険者」と呼びます。被扶養者になれる範囲と生計維持の要件があります。
( 1 )被扶養者の範囲
原則として国内に居住している75歳未満の人(75歳以上になると後期高齢者医療制度の被保険者になる)で、主として被保険者の収入により生計を維持されている三親等内の親族であることが必要です。さらに、同一世帯であることが条件となる場合があります。
生計維持だけが条件の人と、生計維持プラス同一世帯が条件の人がいます。
図出典:全国保険協会ホームページ
1 生計維持だけが条件の人
「生計維持だけが条件」とは、生計の維持の要件はありますが、必ずしも同居していることが求められないことを指します。図1の中で色がついている、被保険者の直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母)、配偶者(内縁関係を含む。ただし、双方に戸籍上の配偶者がいない場合)、子(養子を含む)、孫、兄弟姉妹です。
2 生計維持プラス同一世帯が条件の人
図1の中で色のついていない人がそれにあたります。内縁関係にある配偶者の父母、子(配偶者が死亡後も、被保険者と同一世帯で生計維持関係にあれば可)も含まれます。
現在、被扶養者の認定基準は原則として国内居住者に限定されていますが、外国に留学する場合や外国に赴任する被保険者に同行する場合などに認められる場合があります。反対に、日本に住所を有していても、日本国籍を有せず日本国内に1年を超えない期間滞在し、観光、保養等の活動を行う者等、被扶養者に認定されない場合もあります。
( 2 )生計維持要件
主として被保険者の収入によって生計を維持していることが被扶養者の認定基準となります。
1 被保険者と同一世帯の場合
被扶養者の方の年収(給与収入(交通費含む)、事業収入、地代・家賃収入などの財産収入、老齢・障害・遺族年金などの公的年金、雇用保険の失業保険、健康保険の傷病手当金や出産手当金)が130万円未満(被扶養者の方が60歳以上・障害者は180万円未満)で、かつ被保険者の年収の半分未満であることが求められます。
ただし、被扶養者の方の年収が被保険者の方の年収の半分以上であっても、130万円未満で被保険者の方の年収を上回らない場合には、総合的に判断して被扶養者と認められる場合があります。
2 被保険者と別居している場合
被扶養者の方の年収(上記①のカッコ内と同様)が130万円未満(上記①後ろのカッコ内と同様)で、かつ被保険者からの仕送り(援助)額より少ないことが要件です。この場合には、申立書や仕送りの事実及び額の確認ができる書類の提出が原則として求められます。
なお、子どもが大学などに通うために別居していることがありますが、学生の場合には、仕送りの事実と仕送り額の確認書類の添付は省略されます。
3 こんな場合にはどう判断する?
(1)被扶養者認定の年収とは
被扶養者の認定要件に年収が130万円未満等などありますが、これは被扶養者に入るこれから先の時点において、これらの基準以上となるのかどうかで見ていきます。
例えば11月1日から被扶養者に家族を入れるとき、1月から10月までの年収が200万円、しかしこの先は無収入となる場合を考えます。今年の年収が200万では、130万円を超えているので扶養に入れないかというと、そうではありません。「今後」「これから先」を見ていきますので、この先は無収入になるのであれば、130万円未満と判断します。
(2)被扶養者にしたい人が失業給付を受給する場合には
失業したことを理由に家族を被扶養者に入れることがありますが、失業給付を受給する場合には注意が必要です。原則として失業給付をまさに受けているときには被扶養者にはなれません。自己都合退職など失業給付を受給するまでに待機期間及び自己都合退職などによる給付制限期間がある場合には、その期間については原則として被扶養者に認定されます。
しかし、失業給付を受け始め、かつ「雇用保険受給資格者証」に記載の基本手当日額が3,612円以上(60歳以上、または障害年金受給要件該当者は5,000円以上)の場合は、被扶養者となることができません。そのため、給付をもらい始めたら被扶養者でなくなる手続きを行わなくてはならず、受給が終了するまでは国民健康保険に加入する必要があるのです。受給が終わっても再就職できなかったような場合には、受給終了後再度扶養に入れる手続きを行うこととなります。
同様に健康保険から「傷病手当金」を受けている人が会社を退職した場合には、原則として受給している期間については被扶養者にはなれませんのでご注意ください。
(3)夫婦が共働きの場合には
夫婦が共働きの場合であってともに健康保険の被保険者の場合には、子どもなどをどちらの被扶養者とするかは、次のような基準によって判断されます。
- 原則として年収の多い方の被扶養者になる。
- 夫婦の年収が同程度なら、届出により主として生計を維持する人の被扶養者になる。
- 夫婦の双方または一方が共済組合の組合員で扶養手当等の支給が行われている場合は、その支給を受けている人の被扶養者とすることができる。
(4)子どものアルバイトの金額が130万円を超える場合
子どもが働ける年齢に達し、アルバイトなどを始めた場合でその収入が130万円以上となる場合や、130万円未満であっても被保険者の収入の半分以上になってしまう場合、別居している場合で仕送り額よりも収入が多くなってしまう場合などには、扶養に入れないことになってしまいます。子どもだからといって何ら特別ではありませんので、注意が必要です。
(5)配偶者がパート先で社会保険に加入する場合
被扶養者である配偶者が少しの時間パート勤めなどを始め、その後その勤めている会社で社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するようになる場合等には、被保険者の会社を通して被扶養者から外れる手続きを行う必要があります。被保険者の会社に何も伝えることなく被扶養者としての保険証を返却していなくても、そのときは自らが勤める会社で社会保険の手続きが何ら問題なく行えてしまうことから、手続きを忘れてしまうことがあります。このような場合には、2枚保険証を持っていることになります。本来、保険証は一人一枚のみですから、被扶養者として認定されていた保険証は使えません。
しかし、この使えない被扶養者としての保険証を間違って使ってしまうと、後に精算をするなど面倒なことになることがありますので、必ず被扶養者を外れる旨、被保険者の会社の担当に申出て手続きを行いましょう。
よくわからないことがあった場合には、会社の担当に聞くなどして手続きを進めていただきますようお願いします。