給与計算ってどうやるの? 雇用保険の全体像 ~失業保険だけじゃない!?雇用保険を基本から解説~
失業した時の給付に限られない雇用保険からの保険給付。
労働者のスキルアップを支援する教育訓練給付や、雇用を継続するための雇用継続給付など、雇用保険にはさまざまな給付制度が設けられています。
法改正も多いため、事務担当者には常に正確な知識が求められます。
今回は、雇用保険の全体像をみてみましょう。
雇用保険とは
失業保険というイメージが強い雇用保険ですが、実際の給付は失業した時だけではありません。在職中や休業中など、失業していなくても支給される給付金もあり、雇用保険からの給付は多岐にわたります。雇用保険法には給付事由として、
- ① 労働者が失業した場合
- ② 労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合
- ③ 労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合
- ④ 労働者が子を養育するための休業をした場合
が挙げられています。
【雇用保険法第1条】
雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
具体的には、失業等給付として、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付が設けられています。育児休業給付は従来、雇用継続給付の中の給付でしたが、令和2年度から雇用継続給付とは異なる給付体系に位置づけられました。
【雇用保険制度の体系】
雇用保険の加入要件
雇用保険は、原則として、主たる事業所において週の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある労働者に適用されます。
【雇用保険の加入要件】
① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② 31日以上の雇用見込みがあること
厚生労働省「雇用保険事業年報 令和2年度」によると、令和2年度末の被保険者数は44,349,799人となっており、働く人にとって身近な保険制度であるといえます。
失業時の給付
雇用保険と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、求職者給付の中の基本手当(失業手当)でしょう。
基本手当 |
自己都合で退職した時や、会社の倒産、解雇、契約期間の満了などにより離職した時に、失業中の生活を心配することなく新しい仕事を探せるよう、一定期間支給されます。 |
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給付日数は、離職理由や被保険者であった期間、年齢などにより決められています。自己都合で辞めた場合に比べ、倒産・解雇等により再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた場合や、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことにより離職した場合などの方が、手厚い給付となっています。例えば、自己都合退職の場合の給付日数は最大で150日間となりますが、会社の倒産等で離職した場合の給付日数は最大で330日間です。
65歳以上の高年齢者が失業した場合は、一般の被保険者の場合と異なり、被保険者であった期間に応じ基本手当日額の30日分又は50日分に相当する高年齢求職者給付金が一時金で支給されます。
キャリアアップやスキルアップ支援の給付
次に「労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合」の給付をみてみましょう。雇用保険には、労働者のキャリアアップやスキルアップを支援するため、教育訓練給付として教育訓練給付金が設けられています。
教育訓練給付 |
雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的として、労働者の主体的な能力開発の取組みや、中長期的なキャリア形成を支援するための制度です。 |
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教育訓練給付金は在職中でも受給することができ、一定の条件を満たす方が自己負担で一定の教育訓練を受講した時に、受講料など費用の一部について給付が受けられるものです。対象となる教育訓練は、約14,000講座。そのレベルなどに応じて3種類あり、それぞれ給付率が異なります。
離職を防ぐための給付
「雇用の継続が困難となる事由が生じた場合」にも、雇用保険からの保険給付があります。雇用継続給付は労働者の離職を防ぐための給付であり、介護と定年という2つの場面において活用されます。
介護休業給付 |
介護のために労働者が離職することを防ぐための制度です。介護休業中の生活を支えるため介護休業給付金が支給されます。 |
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高年齢雇用継続給付 |
定年後再雇用者等のモチベーション維持・喚起を図り、65歳までの雇用を維持するための制度です。通常、60歳以降は賃金が低下するので、その一部を補てんするために高年齢雇用継続基本給付金等が支給されます。 |
あと数年で団塊の世代が後期高齢者となる2025年を迎えます。要介護者のさらなる増加が見込まれており、それに伴う現役世代の介護離職が懸念されています。労働者の介護支援の制度として、育児・介護休業法では介護休業制度が設けられ、雇用保険では介護休業給付が設けられています。
【介護休業制度】
負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態(要介護状態)にある対象家族を介護するための休業制度
介護休業の対象となる家族は、配偶者 (事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。利用回数は対象家族1人につき3回まで、利用期間は通算で93日間となります。分割して取得することもできますし、まとめて取得することもできます。介護休業期間中には雇用保険から介護休業給付金が支給されます。
高年齢雇用継続給付は、働く意欲と能力のある高年齢者の60歳から65歳までの雇用継続を支援、促進するための給付です。高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類があります。
高年齢雇用継続基本給付金 |
定年後再雇用された場合、被保険者が60歳に到達した月から65歳に達する月まで支給されます。60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金が75%未満となっている方が対象です。 |
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高年齢再就職給付金 |
基本手当を受給した後、60歳以後に再就職して、再就職後の各月に支払われる賃金が基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となった方が対象です。 |
なお、高年齢者雇用確保措置の進展等を踏まえ、令和7年度から新たに60歳となる労働者への給付率が最大15%から10%に縮小される予定です。
子育て支援の給付
令和2年4月、育児休業給付は雇用継続給付から独立し、「労働者が子を養育するための休業をした場合」の給付として、新しい給付体系に位置づけられました。
育児休業給付 |
育児のために労働者が離職することを防ぐための制度です。育児休業中の生活を支えるため育児休業給付金が支給されます。 |
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育児休業給付金は、育児休業中の労働者に対して給付されます。育児休業期間は、原則として子どもが1歳になるまでですが、子どもが保育所に入れない場合などには、例外的に最大で2歳になるまで育児休業を取得することが可能です。この場合、育児休業給付金の給付期間も子どもが2歳になるまでとなります。
近年、少子化対策として、育児休業制度は改正を重ねています。育児休業給付と密接に関係するものもありますから、出生時育児休業の創設や育児休業の分割取得など、その内容を確認しておきましょう。
雇用保険に関しては、労働者の入退社時に資格取得・喪失手続きがあります。育児休業や介護休業の取得者がいる場合はそれぞれの給付金申請を行う必要がありますし、労働者の定年再雇用後には、高年齢雇用継続基本給付金の手続きも行います。令和4年1月からは、雇用保険マルチジョブホルダー制度が始まりました。4月以降は改正された育児・介護休業法が順次施行されます。事務担当者は常に情報をアップデートして、正確な手続きを心がけたいものです。