給与計算ってどうやるの?社会保険制度の基礎を学ぼう 労働保険の年度更新とは?
給与計算や社会保険事務担当者の恒例行事として、年に一度、労働保険の年度更新という手続きがあります。
これは雇用保険料と労災保険料に関するもので、年度更新期間である毎年6月1日から7月10日までの間に、新年度の概算保険料と前年度の確定保険料の申告・納付の手続きを同時に行います。
社会保険料に関する算定基礎届と提出時期が重なって慌ただしいですが、ミスが無いように気を付けながら、申告・納付期限までに手続きを済ませましょう。
今回は、労働保険の年度更新について説明します。
労働保険料の精算手続き
労働保険とは、労災保険と雇用保険の2つを総称したものです。雇用保険には週の所定労働時間などの加入要件が定められているので、労働時間が短い方などは雇用保険に加入しませんが、労災保険は労働者であれば誰にでも適用されます。よって、労働者を1人でも雇用していれば労働保険の適用事業となり、労働保険料の納付が必要です。
【雇用保険の加入要件】
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②31日以上の雇用見込みがあること
【労災保険の対象者】
常勤、パート、アルバイトなどの名称や雇用形態にかかわらず、すべての労働者が労災保険の対象となります。
労働保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日を単位として計算します。
年度更新は、前年度の労働保険料を精算し今年度の概算保険料を納める手続きですから、令和4年度の年度更新では、まず令和3年度の労働保険料を確定させ、同時に令和4年度の労働保険料を概算します。
そして、令和3年度の確定保険料と前年度に納付した概算保険料の差を精算するとともに、令和4年度の概算保険料を納付します。
また、労働保険料の納付とともに「賃金総額×0.02÷1,000」で計算した額を一般拠出金として納めます。一般拠出金は、石綿(アスベスト)による健康被害の救済に関する法律により、石綿健康被害者の救済費用に充てるため、申告・納付するものです。
労働保険料の算出方法
労働保険料は、確定保険料も概算保険料も、4月1日から翌年3月31日までの1年間の賃金総額を基準として算出します。ただし、労働時間の違いなどにより、労災保険と雇用保険では労働者の対象範囲が異なる場合があります。雇用保険分を算出する場合には、加入資格のない労働者に支払った賃金は賃金総額に含めません。あらかじめ対象範囲を明確にしておきましょう。
令和3年度の確定保険料 |
令和3年4月1日から令和4年3月31日までに労働者に支払った賃金総額に労災保険料率と雇用保険料率を乗じて算出します |
---|---|
令和4年度の概算保険料 |
令和4年4月1日から令和5年3月31日までに労働者に支払う見込みの賃金総額に労災保険料率と雇用保険料率を乗じて算出します |
なお、年度の中途において、事業規模の拡大等により賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、その賃金総額によった場合の概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合は、増加額を増加概算保険料として申告・納付することとなっています。
賃金総額とは
労働保険料の算出に用いる賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者に対して賃金、手当、賞与、その他名称の如何を問わず労働の対償として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。所得税の計算では通勤手当に非課税枠があるので、一定額までを除いて所得税を計算しますが、労働保険料の計算では通勤手当はすべて含めますので注意してください。また、保険料算定期間中(4月1日から翌年3月31日まで)に支払が確定した賃金は、期間中に支払われなくとも算入します。支給日ではなく締日が基準となりますから、例えば、3月末日締で4月10日支給の賃金も含まれます。賃金総額に算入しないものとしては、役員報酬、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、退職金、実費弁償と考えられる宿泊費などがあります。
労災保険料率と雇用保険料率
労働保険料の算出に使用する保険料率は、労災保険、雇用保険それぞれ業種別に定められています。労災保険料率は業種により細かく定められていて、危険の多い業種の保険料率は高くなっています。令和4年度の雇用保険料率は、次の項目を参考にしてください。
【令和4年度の労災保険料率表】
令和4年度の注意点
通常、雇用保険料率は年度を通じて一定ですが、新型コロナウイルス対策で保険財政が苦しくなったことから、令和4年度の雇用保険料が段階的に引上げられる予定です。前半(令和4年4月1日から9月30日)と後半(令和4年10月1日から令和5年3月31日)で料率が変更される予定で、前半は事業主負担分のみが引上げられ、後半は事業主負担分と労働者負担分が引上げられます。
【令和3年度の雇用保険料率】
労働者負担 |
事業主負担 |
雇用保険料率 |
|
---|---|---|---|
一般の事業 |
3/1,000 |
6/1,000 |
9/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 |
4/1,000 |
7/1,000 |
11/1,000 |
建設の事業 |
4/1,000 |
8/1,000 |
12/1,000 |
【令和4年4月~9月の雇用保険料率】(予定)
労働者負担 |
事業主負担 |
雇用保険料率 |
|
---|---|---|---|
一般の事業 |
3/1,000 |
6.5/1,000 |
9.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 |
4/1,000 |
7.5/1,000 |
11.5/1,000 |
建設の事業 |
4/1,000 |
8.5/1,000 |
12.5/1,000 |
【令和4年10月~令和5年3月の雇用保険料率】(予定)
労働者負担 |
事業主負担 |
雇用保険料率 |
|
---|---|---|---|
一般の事業 |
5/1,000 |
8.5/1,000 |
13.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 |
6/1,000 |
9.5/1,000 |
15.5/1,000 |
建設の事業 |
6/1,000 |
10.5/1,000 |
16.5/1,000 |
令和4年度の年度更新に関し、厚生労働省のホームページには以下の通り記載されています(雇用保険法等の一部を改正する法律案は令和4年2月1日に国会に提出)。
Q13 |
仮に法律案が修正なく成立し、令和4年度の雇用保険料率が決まった場合、令和4年度の年度更新で雇用保険料率をどのように申告・納付すればよいでしょうか。 |
A13 |
令和4年度の年度更新(令和4年6月1日(水)から令和4年7月11日(月))では、令和4年度の概算保険料と令和3年度の確定保険料を申告・納付いただくことになります。令和4年度の概算保険料(雇用保険分)については、令和4年4月1日から同年9月30日までの概算保険料額と、令和4年10月1日から令和5年3月31日までの概算保険料額を賃金集計表などにおいて計算していただき、その合計額を令和4年度の概算保険料(雇用保険分)として年度更新期間中に、金融機関・郵便局又は都道府県労働局へ申告・納付いただく予定としております。 |
(厚生労働省「雇用保険被保険者数お知らせはがき(令和4年3月送付分)に関するFAQ」より)
令和4年度の年度更新期間は、6月1日(水)から7月11日(月)まで。令和4年4月1日から9月30日までの概算保険料と、令和4年10月1日から令和5年3月31日までの概算保険料をそれぞれ計算する必要があることから、例年より多少手間がかかると思われます。5月頃に都道府県労働局から申告書が送付されてきます。労働保険料を滞納するとペナルティを課せられる可能性がありますから、余裕をもって取り掛かり、必ず申告・納付期限までに手続きを済ませるようにしてください。