【2022年施行法改正対応】傷病手当金の支給期間通算化
治療と仕事の両立支援の観点から、より柔軟な所得保障ができるよう、傷病手当金の支給期間が見直されました。令和4年1月1日以降、同一のけがや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6か月となっています。また、任意継続被保険者制度が改正され、被保険者が任意で資格喪失できるようになりました。今回は、傷病手当金の改正などについて解説します。
傷病手当金とは
傷病手当金は、労働者がけがや病気で仕事を休んだ際、労働者やその家族の生活を保障するために設けられた制度です。次の①から④の要件をすべて満たしたときに支給されます。
① |
業務外の事由によるけがや病気の療養のための休業であること |
・美容整形など病気とみなされないものは対象とはなりません。
・業務外の事由によるけがや病気が対象となるので、業務上の事由によるけがや病気の場合は労災保険で保障されます。
② |
仕事に就くことができないこと |
・仕事に就くことができるかどうかは、療養担当者の意見等を基に、労働者の仕事内容を考慮して判断されます。
③ |
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと |
・傷病手当金は、仕事を休んだ日から連続して3日間(待期期間)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。有給休暇を取得した日でも待期期間に算入することができますから、例えば、休み始めた当初3日間を有給休暇とし、4日目以降を欠勤扱いとすることでも要件を満たします。
④ |
休業した期間について給与の支払いがないこと |
・傷病手当金は休業中の生活保障ですから、会社から給与が支払われている場合は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
支給額の計算方法
傷病手当金の支給額は、支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を基に計算されます。
支給日額=(平均した標準報酬月額÷30日)×2 / 3
例えば、標準報酬月額が26万円の月が2か月間、30万円の月が10か月間あった場合、支給額は
「(26万円×2か月+30万円×10か月)÷12か月÷30日×2/3」
で計算され、1日あたり6,520円が支給されます。支給開始日以前の加入期間が12か月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使用して計算します。
- ① 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- ② 標準報酬月額の平均額(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
支給期間の通算化
傷病手当金の支給期間に関し、令和4年1月1日から変更がありました。労働者が欠勤(休業)と出勤を繰り返す場合の支給期間のカウント方法が見直されています。
変更前 |
変更後 |
---|---|
支給開始日から起算して1年6か月経過後は不支給 |
支給開始日から通算して1年6か月まで支給 |
変更前は、支給開始日から1年6か月を経過すると、その間に就労をして傷病手当金を受け取っていない期間があっても、それ以降、傷病手当金は受給できませんでした。変更後は、傷病手当金を受給した期間を通算して1年6か月が支給期間となったので、出勤に伴い不支給となった期間がある場合、その分の期間を延長して支給を受けることができるようになっています。
この改正の背景には、がん治療のために入退院を繰り返すなど、長期間に渡って療養のために休暇を取りながら働くケースが存在することが挙げられます。そこで、入退院を繰り返すことが多いがんの治療など、病気を治療しながら仕事をしている方の支援を行うため、傷病手当金は支給された期間を通算して1年6か月まで支給されるようになりました。
なお、今回の改正は令和4年1月1日から施行されていますが、令和3年12月31日時点で、支給開始日から起算して1年6か月を経過していない傷病手当金(令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金)も対象となります。
傷病手当金の支給状況
参考までに、傷病手当金の支給状況をみてみましょう。「全国健康保険協会管掌健康保険 現金給付受給者状況調査報告」(令和2年度全国健康保険協会)によると、傷病手当金の平均支給期間は 169.64 日(約 5.7 か月)となっています。支給期間別の件数の割合は 30 日以下が 21.85%と最も高く、31~60 日が 14.50%、61~90 日が 9.95%となります。男女別では、平均支給期間は男性が 179.00 日、女性は 157.93 日となっており、男性のほうが長くなっています。平均支給期間を傷病別にみると、精神及び行動の障害(212.81 日)、神経系の疾患(204.30 日)、循環器系の疾患(196.95 日)などとなります。
資格喪失後の継続給付
傷病手当金は、退職後も継続して受給することができます。
【資格喪失後の継続給付の要件】
資格喪失の日の前日(退職日等)まで健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、支給要件を満たしている場合
ただし、一旦仕事に就くことができる状態になった場合は、その後再び仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。
任意継続被保険者制度の見直し
任意継続被保険者制度も見直されています。資格喪失事由に「任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出たとき」が加わりました。従来、任意の資格喪失はできないこととなっていましたが、今回の改正により任意の時期に資格喪失することが可能となりました。
【任意継続被保険者の資格喪失事由】
- 任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したとき
- 被保険者が就職して他の健康保険の被保険者資格を取得したとき
- 保険料を納付期限までに納付しなかったとき
- 被保険者が後期高齢者医療制度の被保険者資格を取得したとき
- 被保険者が亡くなったとき
- 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出たとき
厚生労働省のQAから、任意継続被保険者が任意の資格喪失を申し出た場合の取扱いについて留意すべき事項をみてみると、
- 資格喪失日は保険者が申出書を受理した日の属する月の翌月1日であること
- 申出書を受理した日の属する月も被保険者であるため、被保険者証については原則として申出書に添付しないこと(翌月1日以降に保険者が指定する方法(郵送等)で回収すること)
- 原則として、申出後に取り消しはできないこと
などとされています。
傷病手当金の支給期間通算化は、病気の治療と仕事の両立支援という目的があり、企業にとっては労働者の離職防止や人材確保につながるというメリットがあります。病気を治療しながら仕事をしている方は、労働人口の3人に1人と多数を占めています。治療と仕事の両立支援に向け、ぜひ一度、傷病手当金の概要や改正ポイントを労働者の方に説明する機会を設けてみてはいかがでしょうか。