労働災害補償保険法とは? 概要や加入手続き、適用されるケースを解説!
労働災害補償保険法は、労働者を守るための制度である労災保険について定めた法律です。労働者を1人でも雇用している企業は、加入が義務付けられています。
今回は、被災労働者や遺族へ手厚い補償を行う労働災害補償保険法の概要や、加入手続きについて解説します。労災保険の給付の種類や適用されるケースに関して、正しく理解して対応するための参考としてください。
労働災害補償保険法とは?
まずは、労働災害補償保険法とはどのような法律なのかについて、解説します。
労働災害補償保険法の概要
労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)は、労災事故にあった労働者や遺族の損害補償を目的とする、国の労災保険制度について定めた法律です。
労働基準法では、労災事故による労働者への補償は企業の義務とされています。しかし、企業がその義務を果たさなかった場合、被害を受けた労働者は救済されません。このような事態を防ぐために設けられたのが、労災保険制度です。労働者を雇用する企業は労災保険に加入が義務付けられ、保険料も企業が負担します。
労災保険では、原則「業務上の事由または通勤」による労働者の「ケガや病気、障害、死亡」などが給付対象となります。給付対象が幅広く、補償が手厚いことが特徴の1つです。
労災保険は労働者を守るための制度ですが、労働者に該当しない中小事業主や一人親方などが任意で加入できる、特別加入制度もあります。
労働災害補償保険の給付の種類
労災保険では、業務上の事由や通勤によるケガや病気、障害、死亡などに対し、次の7種類の給付があります。
- 療養(補償)給付
治療費が無料、または還付される - 休業(補償)給付
療養のため休業し、賃金が支払われない時に支給される給付金 - 障害(補償)給付
障害が残った時に支給される年金や一時金 - 遺族(補償)給付
労災で死亡した時に遺族に支給される年金や一時金 - 葬祭料(葬祭給付)
労災で死亡した時に、葬儀を行うものに支給される一時金 - 傷病(補償)給付
療養開始1年6カ月経過後も治癒しない時に、支給される年金 - 介護(補償)給付
障害年金・傷病年金受給者で、介護を受ける人に支給される給付金
業務災害は給付の名称に「補償」がつきますが、通勤災害にはつきません。また、葬祭料は業務災害、葬祭給付は通勤災害の給付名です。
労働災害補償保険法の改正
2020年9月1日に、労災保険法の一部が改正されました。改正の対象となる労働者は、複数の会社に勤務している人です。主な改正点は、次の2つです。
- 労災発生時の給付金額を、すべての勤務先の賃金合計を基に計算する
- すべての勤務先の負荷(労働時間やストレスなど)を総合的に評価して、労災認定する
たとえば、A社とB社に勤務する会社員がA社での仕事中に労災事故を起こした場合を、改正前と改正後で比較してみましょう。A社は賃金月30万円・残業月30時間、B社は賃金月10万円・残業月10時間とします。
(労災保険法の改正前後の比較)
改正前 |
改正後 |
|
---|---|---|
給付金額の算定基礎となる賃金額 |
A社の賃金30万円 |
A社とB社の賃金合計40万円 |
労災認定の判断基準となる負荷 |
A社の負荷(残業月30時間) |
A社とB社の負荷合計(残業月40時間) |
改正によって、複数の会社に勤務している人の給付金額が増え、過重労働などによる労災認定が受けやすくなりました。
労働災害補償保険の加入手続き
ここからは、企業が労働災害補償保険に加入する際の手続きについて解説します。
労働災害補償保険の加入は義務
労災保険法では、「労働者を使用する事業を適用事業とする」と定められています。つまり、労災保険への加入は企業の義務です。労災保険が適用される労働者には正社員だけでなく、パートやアルバイト、日雇いの人も含まれます。ただし、企業の代表取締役や役員、個人事業主は労働者ではないため、原則対象にはなりません。
また、国家(地方)公務員災害補償法で補償される国の直営事業や官公署の事業は対象外となります。さらに、個人経営で小規模な農林水産業は任意加入とされています。
加入手続き
従業員を雇用すると、法律上は自動的に労災保険の保険関係が成立しますが、所管の労働基準監督署への届けが必要です。提出書類と期限は次のとおりです。
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)など
保険関係成立届の提出は初めて人を雇った日から10日以内、概算保険料申告書は50日以内ですが、両方同時に提出した後に保険料を納付するのが一般的です。
労災保険料は、今年度分(保険関係成立後の最初の3月末日までの分)を概算で前払いしなければいけません。労働基準監督署で概算保険料申告書の納付額を確認してもらった後に、振込などで納付します。
初めて人を雇った時には保険関係成立の届けが必要ですが、2人目以降は届けが不要です。毎年6月1日から7月10日までの間に、「前年度の保険料の精算」と「今年度の概算保険料の申告・納付」を行います。
労働災害補償保険が適用されるケース
労災保険が適用されるのは、「業務災害」と「通勤災害」です。災害の原因別に区分した場合、次の4つのケースで労災保険が適用されます。それぞれの具体例は、以下の表のとおりです。
災害の種類 |
具体例 |
---|---|
事業主責任災害 |
|
事業主責任災害 |
|
第三者行為災害 |
|
通勤災害 |
|
事業主責任災害
事業主責任災害とは、原因が事業主にある業務災害のことです。事業主に「故意または重大な過失」があった場合、従業員は事業主に対して民事上の損害賠償請求ができます。労災保険の補償と事業主の補償が重複する場合、後から支払う補償金額は調整(減額)されます。
まず、労災保険の補償を受けたうえで、労災保険では補償されない慰謝料などを事業主が支払うのがよいでしょう。ただし、事業主は有責であるため、労災保険の支払いに要した費用の一部を徴収されるケースもあります。
業務起因性・業務遂行性災害
業務起因性・業務遂行性災害とは、業務上に発生した労働災害を意味します。業務上と認められるには、「業務が原因であること(業務起因性)」と「業務中に発生したこと(業務遂行性)」という2つの条件を満たさなければなりません。
勤務時間中や残業中のケガなどはもちろんのこと、休憩時間中の会社設備不備による負傷や出張中の負傷なども該当します。
業務上の疾病については、業務時間外に発症したとしても「業務と疾病との間に相当因果関係がある」と認められれば、業務災害に該当します。
第三者行為災害
第三者行為災害とは、業務中に第三者によって引き起こされた労働災害です。第三者とは、被害にあった従業員や事業主以外の人を指します。社内への侵入者や来店した顧客、同僚や上司・部下も対象です。
本来、第三者から損害賠償を受けるのが筋ですが、十分な補償が受けられない場合などは労災保険が補償します。労災保険の補償と第三者の補償が重複する場合、後から支払う補償金額は調整(減額)されます。また、労災の補償を受けた場合、第三者に損害賠償する権利は国に移るため、重ねて補償を受けることはできません。
通勤災害
通勤災害とは、会社への通勤途上で発生した労働災害のことです。通勤とは、次の移動を「合理的な経路や方法で行ったこと」を意味します。
- 住居と会社との間の往復
- 会社から他の会社(2つ目の就業先)への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の往復
「合理的な経路や方法」とは、通常使用されると考えられる経路や方法であり、私用で遠回りしたり、通勤中に食事や買い物などをしていた場合は該当しません。ただし、日用品の購入や選挙、通院など「日常生活上必要な行為」については、その行為の後の移動が通勤として認められます。
労働災害補償保険法についてのまとめ
労働災害補償保険法とは、労災事故にあった労働者や遺族への補償を目的とする労災保険について定めた法律です。労働者を雇用する企業はすべて労災保険に加入が義務付けられており、保険料も企業が負担します。
労災保険に加入する際は、所管の労働基準監督署に届け出を行い、保険料を納付します。また、加入後は労災発生に備えて、労災保険が適用されるケースについての知識を身に付けておきましょう。
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