第22回 働き方の多様性、副業解禁のメリットと留意点
働き方改革は多様性
働き方改革は多様性がテーマになっている。働き方改革の某先進企業、「100人いれば、100通りの働き方があっていい」という言葉がそれを表している。時間や場所にとらわれずに働き、生産性を上げる働き方改革の多様性。その一つの施策として、副業・兼業・ダブルワーク・パラレルワークといった複数箇所で仕事をする、働き先の多様化につながっている。人生100年時代と言われ、インターネットによる在宅ワークが容易となったことも、この流れに拍車をかけているようだ。
とは言いつつも、副業・兼業を解禁、容認する企業はまだ少数派。本業が疎かになる、情報漏えいのリスクがある、自社の仕事との利益相反になる場合もある、等の問題があるためだ。そもそも副業・兼業のメリット、デメリットとは何か、あらためて考えていこう。
副業禁止をめぐって争われた裁判では、「従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは、従業員の自由に委ねられているのが原則であり、就業規則で兼業を全面的に禁止することは不合理である」という判断が出ている。
「副業・兼業禁止規定は、それ自体が直ちに無効となるものではないものの、就業規則によって禁止される副業・兼業は、会社の企業秩序を乱し、労働者による労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られる」という判断が一般的となっている。
そこで、副業を推し進めたい政府は、企業に就業規則改定を推奨しており、以下は厚生労働省が提示した「モデル就業規則改定案」だ。
(副業、兼業)
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。-
- 2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
- 3 第1項の業務が次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
- 1 労務提供上の支障がある場合
- 2 企業秘密が漏えいする場合
- 3 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 4 競業により、会社の利益を害する場合
副業・兼業のメリットとデメリット
今一度、副業・兼業のメリット、デメリットを整理してみよう。
■企業側から見た副業解禁のメリット
副業・兼業をすることで、従業員が社内では得られない知識やスキル、人脈を獲得し、それを本業に生かし、事業の貢献につながる。
副業・兼業をすることで、従業員の自立性、自主性を促すことができる。
副業・兼業ができることにより、優秀な従業員を獲得でき、一方で、優秀な従業員の退職を防ぐことができる。
■企業側から見た副業解禁のデメリット
副業・兼業をする従業員の労働時間管理、健康管理、情報漏えいや企業秘密の保持、そして競業避止をどのように確保するかが課題となる。
■社員から見た副業解禁のメリット
本業を持ったまま別の仕事に就くことができ、今後の起業、独立のための助走期間にできる。
本業をしながら、自らやりたい仕事に挑戦できる。
副業・兼業を通じて、新たなスキルや知識、人脈を獲得できる。
副業・兼業により所得の増加が見込める。
■社員から見た副業解禁のデメリット
労働時間が長くなる可能性があり、自ら労働時間管理や健康管理をする必要がある。
本業における職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の意思が必要となる。
1週間の所定労働時間が短い仕事を複数持つ場合、雇用保険等の適用がない場合が生ずる。
以上のようなメリット、デメリットを踏まえた上で、実際に副業・兼業を認める場合の労務管理の注意点はどうなるのだろうか。企業側が副業・兼業を容認した場合、就業時間の把握、健康管理等の課題が生じる。
副業・兼業導入の労務的留意点
労働基準法では「自社の従業員が、自社及び副業兼業先で雇用契約状態にある場合は、両方での労働時間を通算する」とされている。第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされ、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含む」とある。本業先の企業側としては、副業・兼業をしている従業員からの自己申告により、副業・兼業先での労働時間を把握する必要がある。
また、実務上課題となるのが割増賃金の件だ。1日8時間、1週40時間を超える場合の割増賃金の支払いは、複数の事業所で働いた場合も適用される。副業先の労働時間を含めた割増賃金が発生する場合は、原則として後から雇用契約を締結した使用者に支払い義務がある。アルバイト等も含め、自社が割増賃金の支払い義務が生じる可能性もあるので、他での雇用関係について確認が必要となる。
一方、副業・兼業を個人事業主や業務委託、請負で行う場合は、労働基準法上の労働者でない者として、労働時間に関する規定がなく、本業の企業側として労働時間の管理は必要ない。しかし、過労等により本業に支障を来たさないように、本人とともに配慮することは必要となる。
雇用保険は、「その人が生計を維持するのに主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ」被保険者となるので、副業で2社以上から賃金を得ていても、給付は1社分しか受けられない。また問題となるのが、2つの異なる会社で働いていても、その2社での労働時間が雇用保険の規定時間数に足りない場合、どちらも被保険者になれない場合が生じる。
また、労災保険(労働者災害補償保険)は個別の事業所単位で適用されるため、副業先で労災適用となっても本業での補償はない。生活に支障を来たすケースもあるだろう。企業側としては、以上2点について、副業をする労働者に伝えておくことが望まれる。