第1回 そもそも、働き方改革とは何なのか?
残業減らしより、生産性の向上
ここ数年、多くの企業で進められてきている働き方改革。まずは労働時間の削減を目的に、いろいろな施策が取られてきた。しかし先日の日経新聞において、月80時間を超える残業をしている労働者が300万人いたと報じられた。労働時間を厳格に管理したことにより、逆にあぶり出された格好である。
また、メンバーには残業しないで帰宅を促す一方で、管理職にそのしわ寄せがいっているという事実、また下請けに仕事のしわ寄せがいっているという事実もある。つまり、労働時間を短くすれば良いというものではなく、いかに生産性を向上させるかが大きな課題となっているのである。それがまだできていないのが現実のようである。
それを端的に示す、著名アナリストの言葉がある。
「労働時間を減らせば、生産性が上がるという短絡的な考え方が目立つ。これは逆。生産性が上がったときに、労働時間が減るのだ」
いくら労働時間を減らしても、仕事の量が減らなければ誰かがやらなければならないのだ。
一方で、働き方改革を進める総務や人事、経理(以降、スタッフ部門)。生産性向上はこれらの部門にも必要であり、むしろ全社の働き方改革を進める前にスタッフ部門が率先して、自らの働き方改革を進めるべきである。なぜなら、働き方改革という全社が絡む取り組みを、従来の業務を抱えたまま進めるのは厳しいからである。
「Why(なぜ)」、「What(どうあるべき)」の重要性
しかし、考えてほしいのは、どのように働き方改革を進めるかではなく、なぜ働き方改革を行うのかということ。さらに、どのような働き方を目指すべきなのかを考えることである。どうしても日本においては、「How(どのように)」から入る傾向がある。しかし考えたいのは、「Why(なぜ)」、そして「What(どうあるべき)」を定めて、そのために「How(どのように進めるか)」なのである。働き方改革が成功している企業は、この「Why」と「What」をしっかりと考えている企業に多いように思う。
では、そもそも、なぜ働き方を変えなければならないのか? 個社ごとにその要因はあるかと思うが、共通して言えることは、日本における労働人口の不足である。それにより、仕事が回らない、新しいことに踏み出せないなど、事業継続に支障が出てしまう。つまり、人材確保の側面からも、どのような状況、環境を抱えた人であっても働き続けられる制度、職場環境の構築が必要となるのである。
また、競争激化に対しては、新しいことに踏み出さないとグローバル化による競争激化は乗り越えられない。「イノベーションを起こす企業に人材も集まり、顧客も集まる」という時代。優秀な人材によるイノベーション創出のためにも、その人材が働きやすい、働き甲斐のある環境整備は必須なのである。
さらに、働く個々人にとってみても、テクノロジーの進展、特にAIの進展に伴い、現在の仕事がそのまま未来永劫存在するのか、という課題もある。いつなんどき、既存の仕事が蒸発してしまうとも限らない。そのためにも、本来人がやるべき仕事に自らもシフトしていかないと、食べていけなくなる可能性もある。
「考える」という、人としてすべき仕事にシフトするためにも、テクノロジーやアウトソーシングでできる仕事はそちらに任せていく、そんな働き方の改革も必要なのである。企業としても、組織としても、そして人としても、変わっていかないと、継続していかないと、という危機感が働き方改革のベースとなっているのである。
適者生存の原理
そうすると、チャールズ・ダーウィンの言葉が、働き方改革にも通じる。 「生き残る種とは、最も強いものではない、最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」。これにより、事業運営も働き方も変革するべきなのである。逆に言えば、今の働き方で環境適応できるのであれば、変える必要はない。前章で記した「Why」の根底には、この適者生存の原理があるのである。
となると、スタッフ部門にとって必要となってくるのは、いま企業を取り巻く環境がどうなっているのか、という事実の把握である。自社を取り巻く業界動向、法令改正動向、グローバルの動きなど、アンテナを立て情報収集していく。
その環境に乗り越えるためには、自社はどうあるべきなのか、どこを変えていかなければならないのか。そのためにスタッフ部門はどのような役割を果たすべきなのか。その役割、機能を十分に発揮するためにスタッフ部門はどのように変化していかなければならないのか。さらに、そのためにはスタッフ部門のメンバーが、どのような仕事の仕方をしていき、どのようなマインド、取り組み姿勢で仕事に向き合わないといけないのか。
いま進められている働き方改革は、局所的な改革ではなく、全社を俯瞰して、個々の役割を明確にした上で行う、経営変革活動であるべきなのである。
このコラムでは、以上のような考え方のもとに働き方改革について、スタッフ部門のあり方、現場で行う具体的な施策の解説をしていきたいと思う。