第26回 Attraction & Retentionを意識した福利厚生戦略
「A&R」の強化を目指して
日本の労働人口が減少する中、「A&R」の強化、つまり、いかにして優秀な人材を採用(Attraction:引きつけ)し、定着させる(Retention:引き留め)かが重要視されている。企業の魅力を高め、優秀な働き手に応募してもらい、採用できたら帰属感を高めつつ末永く働いてもらう、これが働き方改革の本質的課題である。
この企業の魅力の部分の一つが、働きやすさ、でもある。どのような環境、状況であっても働き続けられる環境、制度を整えることが重要となっている。さらに、その働きやすさも多様化する時代。「100人いれば、100通りの人事制度があって良い」という、働き方改革の最先端企業の事例もあるように、いろいろな制度が構築されている。
そのAttractionを構築する部分の一つが福利厚生制度となる。働きやすく、ワーク・ライフ・バランスの充実が可能な企業が求められるいまの時代、プライベートに関係する福利厚生は、働き方とともに重要視されているのだ。
働き方改革は「休み方改革」
働き方改革で有名なカルビーでは、ワーク・ライフ・バランスではなく、「ライフ・ワーク・バランス」と表現する。プライベートの充実が、仕事の充実を担保するという考え方だ。だから、仕事が終わったら早く家に帰れ、ということになる。ダラダラと会社にいるのではなく、プライベートでインプットをしてほしいのだ。
世に言う「働き方改革」とは、このプライベートの充実が相まって効果を上げていくのではないだろうか。働き方改革の本質は「生産性の向上」。プライベートでリフレッシュして、プライベートで多くのインプットを得て、それを仕事で生かす。効率的に、そして創造性豊かな仕事や成果を生むのである。
プライベートの充実は、働き方改革との対比で「休み方改革」と言われることもある。この「休み方改革」を側面支援するのが、福利厚生でもある。「働き方改革」全盛の事態において、傍流に押しやられている感のある福利厚生が、実は働き方改革と表裏一体となっているのだ。
総務の仕事は、総務で決めて買った物やサービス、総務で決めたルールを、従業員に使ってもらう、守ってもらうという仕事でもある。変化を伴うがゆえにハレーションを起すケースも、残念ながら多々あるはず。総務が良かれと思っても、社員が反発する、守ってもらえない。多くの方が経験していることだろう。
一方、従業員にとっては、総務が行う全ての施策について、その背後に会社のメッセージを感じているものである。「会社が、私たちにこのように働いてもらいたがっている」。それを敏感に感じ取り、それに反応しているのである。総務は常に、従業員が施策のメッセージをどのように受け取るかを意識したい。
そうなると、福利厚生は絶大な会社のメッセージを持っている。プライベートも含めて、社会人生活の送り方を会社が指示していると言っても過言ではない。従業員は、福利厚生制度に「会社の従業員に対する姿勢」を見て取っていると考えた方が良いのだ。
社員定着の切り札、福利厚生制度
ダイバーシティの本質は、多様な働き方ができる環境の提供である。それを具体的な制度として落とし込んでいくと、福利厚生制度が出来上がっていく。さらに、メモリアル休暇制度であったり、ファミリーデーであったり、積極的に家族との接点を作るという流れもある。
家族との触れ合いを作る制度の一方で、自己啓発の機会を提供するところも多い。業務直結ではなく、文化や教養に触れて右脳を活性化するための休暇取得と費用の補助。「休むことも仕事のうち」として、積極的に取得支援をしている。舞台関係の会社では、年4回、好きな舞台の鑑賞費用を補助しているところもある。
一方で、制度を作ってもなかなか利用されないのが総務の大きな悩みだ。福利厚生制度を上手に活用しているある企業では、休暇をどのように過ごしたかをイントラネットに報告するルールがある。読んだ社員からのコメントを掲載するコメント欄もある。それにより、使い方の多様性が認知され、利用促進につながっている。
ある企業では、従業員の投票により、一番良い有給休暇を過ごした社員を表彰する制度がある。これにより有意義な休暇の取り方が社内でシェアされる。福利厚生制度を上手に使った情報を共有することで、自らに置き換え考え、自ら利用を検討するきっかけとなっているようだ。
この自ら考えることが、実は大変重要なことで、組織維持の根幹に関わってくる。ある企業では、「どんな人生を歩みたいか」を入社時に考えさせ、それを名刺の裏に印字させている。「どんな人生を歩みたいか」とは、どのような仕事を、どのような働き方で行っていくのか、そして、どのような生き方をしていくのかを考えることである。
結果、自らの目標を目指し、自己啓発を行い、プライベートも充実させていく。その側面支援を会社として、福利厚生制度を通じて行っていくのだ。自らの目標実現が、いま所属する会社で行えるのであれば、他社に移ることもなく定着していく。労働人口減少の日本において、企業存続の重要施策である福利厚生制度を、ぜひ活用していきたいものである。