働き方改革の目的や現状は? 上手に推進していくポイントを解説
働く人の労働環境を大きく見直し、多様で柔軟な働き方を選択できる社会の整備をめざす働き方改革。
2019年から関連する法律が順次施行されています。
働き方改革に取り組むにあたり、企業には現状どのような課題があり、どのような点に注意するべきなのでしょうか。
働き方改革の定義や目的とともに、実践においてのポイントなどをまとめました。
働き方改革とは
政府が掲げる一億総活躍社会の実現に向けて、取り組みが進められている働き方改革とは、どのようなものなのでしょうか。
働き方改革の概要・定義と目的を解説します。
働き方改革の概要・定義
厚生労働省の資料によると、働き方改革の概要と定義は以下のようになっています。
◎概要
働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講じます。
◎定義
「働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。
いつから働き方改革が推進されている?
働き方改革は、2019年4月から8つの関連法が順次施行されています。
それらの関連法の詳細は以下の通りです。
- ① 時間外労働の上限規制
施行開始:大企業 2019年4月、中小企業 2020年4月 - ② 年次有給休暇の年5日取得義務化
施行開始:2019年4月 - ③ 勤務間インターバル制度の普及推進
施行開始:2019年4月 - ④ 産業医の機能強化
施行開始:2019年4月 - ⑤ 高度プロフェッショナル制度の創設
施行開始:2019年4月 - ⑥ フレックスタイム制の清算期間延長
施行開始:2019年4月 - ⑦ 同一労働同一賃金の義務化
施行開始:大企業 2020年4月、中小企業 2021年4月 - ⑧ 中小企業の月60時間を超える時間外割増率猶予措置の廃止
施行開始:中小企業 2023年4月
働き方改革関連法の一部では、施行開始時期が大企業と中小企業で異なります。
たとえば、月60時間を超える割増賃金率の引き上げは、大企業ではすでに適用されていますが、中小企業は経営体力面の問題があることから2023年4月まで猶予されています。
働き方改革の目的
働き方改革の目的は、働く人がそれぞれの事情に合わせて、多様な働き方を選択できる社会の実現にあります。
- 労働力底上げのために、勤務時間や場所などを柔軟にする
- 長時間労働・休日出勤・休暇取得率の是正
- 雇用形態の違いによる待遇差・賃金格差の是正
以上が、働き方改革の推進によりめざす改革の3つの柱です。それぞれを詳しく解説しましょう。
労働力底上げのために、勤務時間や場所などを柔軟にする
少子高齢化の影響により、15歳以上65歳未満の労働力人口は年々減少しています。
働き方改革では、そうした労働力人口の減少にそなえ、勤務時間や勤務場所を柔軟にすることで、働きたくても働けなかった人が就労できる環境の整備を推進しています。
たとえば、育児・介護により仕事との両立が難しく退職せざるを得なかった人でも、働き方改革でテレワークやフレックスタイム制を導入すれば、雇用の継続が可能になるでしょう。
また、副業や兼業を推進して、個人がさまざまな場所で能力を発揮できるようになれば、各企業の生産性の向上も期待できます。
長時間労働・休日出勤・休暇取得率の是正
これまでの日本では、長時間労働が常態化しており、有休取得率も低い状態が続いていました。
しかし、長時間労働による過労死が問題になり、国を挙げての改善が求められるようになったのです。
働き方改革では、こうした実態を受け、時間外労働の上限規制や年5日の有休取得の義務化、労働者に対する健康管理の強化といった施策が取られています。
法律に違反した場合には罰則をもって対処するとして、抜本的に取り組む方向が示されています。
雇用形態の違いによる待遇差・賃金格差の是正
正社員か非正規社員かという雇用形態の違いだけで、賃金や福利厚生などの待遇に格差が生じている企業も少なくありません。
同じ仕事をしているのに非正規社員では賃金が低かったり、食堂や更衣室など、福利厚生施設の利用が制限されたりなど、不合理な(合理的ではない)格差が問題とされてきました。
働き方改革では、こうした待遇の格差をなくす施策として「同一労働同一賃金」が施行されたのです。
同一労働同一賃金は、雇用形態に関係なく、仕事の内容や責任の度合いに応じた不合理な待遇差を禁止する法律として施行され、各企業に改善を求めています。
働き方改革の現状
実際に働き方改革に取り組んでいる企業において、現状はどのようなものなのでしょうか。
取り組みを進めるうえでの問題点や課題を紹介します。
現状1.経営層の改革意識が低い
働き方改革で施行された法律は、これまでの従業員の労働を制限するものがほとんどです。
高度経済成長期を経験し、長時間労働や休日出勤が当たり前だった経営者層にとっては、理解しにくいものになっています。
「昔は残業100時間なんて当たり前だった」という個人の感覚を変えなければ、働き方改革は進みません。
まずは経営者に改革意識を芽生させることが、働き方改革を進めるきっかけとなるでしょう。
現状2.人材不足による整備の遅れ
働き方の多様化を求める働き方改革では、長時間労働の制限や同一労働同一賃金への対応、年5日有休取得義務化といった、さまざまな労働環境の整備が求められています。
しかし、人手不足で改革が進まず、多様な働き方を受け入れる体制が整っていない企業は多くあります。
働き方改革の規制は認知されているものの、企業単位で見ると整備が遅れているのが現状です。
現状3.コスト増加の懸念
近年の最低賃金の上昇に加え、同一労働同一賃金による待遇の是正など、非正規社員に対してのコスト増加は、企業に大きな負担となります。
政府が従業員の待遇改善を求める一方で、企業はコストの問題で足踏みしているのが現状です。
また、効率化をシステムで解決するために、ツール導入を検討する企業も多い一方で、その導入コストが莫大なために、取り組めないままとなっている企業の実情もあります。
働き方改革を推進していくためのポイント
企業が自社内で働き方改革を推進していくにあたり、重要となるポイントがあります。
以下では、働き方改革の推進に欠かせないポイントを、具体的事例とともに紹介します。
ポイント1.働き方改革の目標を明確にする
働き方改革推進にあたっては、経営層を中心に働き方改革に向けた目標を明確にし、企業全体で取り組みを行いましょう。
ある企業では、経営者が「7時間労働で新たな価値を創造する会社」という目標を掲げ、働き方の取り組みをスタート。
目標達成に向けて、朝礼の廃止や会議の大幅削減、サテライトオフィスの設置など、徹底した効率化を推し進めました。
その結果、所定労働時間7時間にする改革を実現し、働き方を一新させることができたのです。
働き方改革に取り組むにあたっては、まずは目標を明確にすることが大切です。
ポイント2.多様な働き方を受け入れる
人手不足の解消方法の一つとして、多様な働き方を受け入れることが挙げられます。
たとえば、テレワークを導入すれば子育て世代でも就労がしやすくなるため、求人に応募する人も増加するでしょう。
また、転勤のない地域限定社員を創設したり、フレックスタイム制を導入するなど、多様な働き方を受け入れることで、人手不足の解消が期待できます。
副業・兼業が促進され、さまざまな仕事を個人で行える時代では、新しい働き方を受け入れる企業に人材が集まるようになるのです。
ポイント3.助成金・補助金を活用する
働き方改革に伴い、各企業のコスト増加が懸念されることから、さまざまな助成金や補助金が用意されています。
たとえば、働き方改革推進支援助成金やテレワーク促進助成金など、中小企業を中心に対象としたものが多く、条件を満たしていれば活用が可能です。
コストの増加を懸念して働き方改革に踏み出せない企業は、助成金や補助金をフルに活用しましょう。
働き方改革についてのまとめ
「一億総活躍社会実現」に向け、進められている働き方改革。
働く人の労働環境を大きく見直し、柔軟で多様性のある働き方を選択できる環境を整える取り組みです。
企業が働き方改革を推進するにあたり、現状ではさまざまな課題が見受けられます。
しかし、取り組みを進めることで、新たな人材確保にもつながる可能性があるのです。
目標を明確にし、ポイントを押さえて、働き方改革の推進をめざしましょう。