ノーワーク・ノーペイとは? 原則の内容や根拠・適用について解説
ノーワーク・ノーペイは、労働していない時間については賃金の支払いは発生しないという考え方です。実際の労働環境では、どのような場合に適用されるかご存知でしょうか。
今回は、経営者が正しく理解して運用する必要がある、ノーワーク・ノーペイの内容や根拠となる法律について解説します。就業規則にも規定しておくべき考え方になりますので、参考にしてください。
ノーワーク・ノーペイとは
まずは、ノーワーク・ノーペイとは何かについて解説します。
ノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイとは、「労働をしていない時間については、賃金の支払いは発生しない」ことを意味します。つまり、本来ならば勤務しなければならない時間に、勤務をしていない場合、企業はその時間分の賃金を支払う必要はないという考え方です。
たとえば、1時間遅刻をした場合や1時間早く退勤した場合のように、本来の労働時間と比べて労働時間が1時間少ない場合、その1時間分の賃金が控除されます。
ノーワーク・ノーペイによる根拠
ノーワーク・ノーペイの根拠となっている法律は、民法623条と624条です。
民法623条では「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と規定されています。
つまり、「労働に従事することで、その対価として報酬(給料等)を与える」と定められており、労働した内容に対して報酬(給料等)が支払われると解釈されます。
また、民法624条第1項で「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」と規定されています。
これは「労働者が使用者との間で約束した労働の内容を提供しなければ、報酬をもらう権利が発生しない」と解釈されているため、「労働をしなければ、給与の支払いがない」とするノーワーク・ノーペイの考え方に準拠していると言えます。
ノーワーク・ノーペイの原則の適用・適用外
では、ノーワーク・ノーペイの原則は、どのような場合に適用されるのでしょうか。適用されない場合についても、合わせて解説します。
適用となる労働者
ノーワーク・ノーペイの原則は、労働の対価として給与を受け取る労働者であれば、全ての人に適用されます。正社員、パートやアルバイトといった雇用形態や月給制、日給制といった給与の支払形態に関係なく、全ての労働者が適用の対象です。
適用となる場面
ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるかどうかは、「労務不能の原因となった事由」が誰が原因となって起きたものであるか、によって判断されます。
労働者本人が原因で引き起こされたことであれば、ノーワーク・ノーペイの原則が適用される可能性は高くなります。労働者以外の別の要因が関係している場合は、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されないケースもあります。
【ノーワーク・ノーペイの原則が適用される例】
- 遅刻、早退、欠勤
- 育児休業や産前産後休業
- 介護休業
- 子供の看護休暇
【ノーワーク・ノーペイの原則が適用されない例】
- 年次有給休暇
- 会社都合による休業
- 慶弔休暇
- 手待ち時間
適用とならない場面・例外
ノーワーク・ノーペイの原則は、労働基準法91条に規定する「制裁規定の制限」の範囲内で適用されなければなりません。
【労働基準法91条「制裁規定の制限」】
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
つまり、「ノーワーク・ノーペイ」による給与の減額処置ができる金額の上限は、以下の要件を全て満たす範囲内に限られます。
- 1回の減給限度額は、1日の平均賃金の半額未満
- 1カ月の合計の減給限度額は、1カ月の賃金の10分の1未満
たとえば、以下のような給与形態のケースで減給限度額を計算してみましょう。
- 平均賃金(1日あたり) 10,000円
- 賃金の総額(1カ月分) 300,000円
- 【1回の減給限度額】
10,000円×50%=5,000円 - 【1カ月の減給限度額】
300,000円×10%=30,000円
ノーワーク・ノーペイによる「労働者の給与の減給措置」については、労働者が最低限の生活ができる程度の給与は保証されています。就業規則に具体的な減給の事由や減給額についても規定しておくことで、不要な労使間の争いが発生しないように配慮することが重要です。
よって、全ての事案について、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるわけではないことに注意してください。
ノーワーク・ノーペイの原則による注意点
ここからは、ノーワーク・ノーペイの原則の注意点を3つ解説します。
1.就業規則に明記する
ノーワーク・ノーペイの原則について、就業規則に規定することが必要です。「どのような事案について適用されるのか?」や「どれくらいの金額が減額されるのか?」といった詳細をあらかじめ定めておきます。
2.会社都合の休業時の対応
会社都合での休業時は、労働基準法26条に規定された「休業手当」を支払う必要があります。たとえば、親会社から資材購入のための資金が入金されなかったため、材料の購入ができず、工場の稼働ができないケースが考えられます。
外部の要因によって、やむなく休業することになった場合に備えて、就業規則等には「1日あたり、平均賃金の6割の支払いをする」といった規定をしておかなければなりません。
3.法律で定められた義務ではない
ノーワーク・ノーペイの原則は法律上では、具体的な条文が規定されているわけではありませんが、民法623条・624条1項を根拠として、規定されていると考えられています。
そのため、就業規則に規定することについては義務ではありません。しかし、規定がない場合は労使トラブルに発展するリスクがあるため、あらかじめ作成しておくことをおすすめします。
ノーワーク・ノーペイについてのまとめ
ノーワーク・ノーペイは、労働していない時間については賃金の支払いは発生しないという考え方です。民法623条と624条を根拠としており、正社員からアルバイト・パートまで、全ての労働者に適用されます。ただし、賃金の控除は労働基準法91条の規定の範囲に収めなければなりません。
また、会社都合の休業の場合は、休業手当の支払いが必要です。従業員との無用なトラブルを避けるためにも、就業規則に適用条件や金額を明記しておきましょう。
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