在籍出向とは? メリットや注意点、気になる給与や社会保険の適用について解説
社会の急激な変化により、企業は事業規模の縮小や、従業員の解雇に関する問題に直面しています。
従業員の保護が大きな課題となっているなか、注目されている在籍出向を十分に理解しなければなりません。
この記事では、在籍出向の概要とメリット、デメリット、条件を詳しく解説します。
また、この記事の後半部分では、在籍出向の注意点と関連する助成金をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
在籍出向とは
在籍出向とは、従業員が籍を自社に置いた状態で他社へ出向く制度で、自社と出向先企業の両社で雇用されます。
出向先は人手不足を解消し、出向元は解雇を避けられるのがメリットです。
在籍出向の期間が終われば、元々在籍していた企業に戻れます。出向元や出向先、従業員に利益があるため、厚生労働省がさまざまな面において支援しています。
出向在籍が増加傾向にある理由と、似ている用語を解説します。
増加傾向にある理由
労働者派遣とは異なり、在籍出向は出向元と出向先の2社間でやり取りします。
出向元と出向先との関係が同じ会社内である場合は、あらためて契約を取り交わす必要がないため、出向しやすいのがメリットです。
また、派遣会社を通して行う労働者派遣と比べると、コストを低く抑えられるため、在籍出向を活用する企業は増加傾向にあるといえます。
混同しやすい用語との違い
転籍出向や派遣など、在籍出向と似ている用語の違いを解説します。
転籍出向
転籍出向(移籍)とは、元々在籍していた企業を退職し、新たな企業と労働契約を結ぶことです。
出向元と籍を残したまま出向先へ出向く在籍出向とは異なり、転籍出向は出向元との労働契約は消滅します。
派遣
派遣は、派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結びます。
そして、従業員は派遣元と労働契約を結び、派遣先からの指揮命令を受けたうえで仕事をします。
派遣先と派遣された従業員の間には雇用関係がありません。
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在籍出向をおこなうメリット・デメリット
在籍出向するメリットとデメリットをまとめました。
ぜひ参考にしてください。
メリット
在籍出向するメリットは「人材育成」と「解雇を避けられる点」です。
人材育成
出向は人事異動と同じような機能を持つため、自社の従業員の育成につながるでしょう。
自社ではできないような経験を出向先でできたり、スキルをより高めたりできる可能性があります。
解雇を回避できる
出向協定書で給与の取り決めを明確化すれば、給与の支払いに柔軟性が生まれます。
例えば、出向先の業務へ完全に従事すれば、出航した従業員の給与は出向先から支払われます。
また、従業員の業務量を調整したうえで、給与の支払いを折半にできます。
出向元に経済的な余裕が生まれますので、経済状況が悪くても従業員の解雇を避けられるでしょう。
デメリット
在籍出向のデメリットは、出向する従業員のストレスです。
出向した従業員は普段とは違う場所で仕事をしたり、初めて会う人たちが多いなかで仕事を覚えたりしなければなりません。
体や心に大きなストレスがかかる可能性があります。
また、出向先が出向してきた従業員に頼りすぎると、その従業員が出向元に戻った際に不都合が起きやすくなります。
従業員のサポートと、出向先の長期的な展望を考慮しなければなりません。
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在籍出向をおこなう際の要件
出向在籍する際に、満たさなければならない要件を紹介します。
職業安定法に違反しないようにする
本来であれば、在籍出向は職業安定法で禁止されています。
在籍出向を合法的に行うためには、次の4つの条件のうち、1つを在籍出向の目的にしなければなりません。
- 従業員の解雇ではなく、関係会社で雇用機会を確保する
- 経営や技術指導
- 職業能力開発
- グループ会社における人事交流
(出典:職業安定法 第44条)
従業員から在籍出向の同意を得る
就業規則などで在籍出向が明記されていない場合、従業員から直接同意を得る個別的同意の必要があります。
それに対して、明記されているときは従業員が出向を認めていると判断される包括的同意に該当します。
包括的同意では、従業員から直接同意を得なくても違法ではありませんが、従業員とのトラブルを避けるためにも、十分な説明や説得を実施したうえで、出向させましょう。
必要書類の作成
在籍出向に必要な書類は次の3点です。
- 出向契約書:出向元と出向先が交わす契約書
- 覚書:出向契約書の補足説明(担当者名の記載あり)
- 出向通知兼同意書:労働条件の通知と同意を兼ねた書類
出向契約書は法的に必要ではありませんが、企業同士のトラブルを未然に防ぐためにも、書面に残すとよいでしょう。
覚書では、日数や金額など、具体的な出向内容が数字を用いて細かく説明されています。
また、出向通知兼同意書は出向元が従業員に発行するもので、出向先の企業の詳細情報や、出向契約書で交わした契約内容などが記載されています。
出向元と出向先が労働条件を話し合う
在籍出向では、出向元と出向先のどちらの労働条件を適用するのかを、企業間で話し合いましょう。
また、労働条件以外にも、次のような内容も企業間で決めなければなりません。
- 賞与や休暇
- 給与の支払い方法
- 人事評価
在籍出向の際に気をつけるべきポイント
在籍出向で気をつけるべきポイントをまとめました。
- 就業規則・労働条件
- 社会保険・給与
就業規則・労働条件
出向する従業員が双方の企業と労働契約を結んでいるため、就業規則や労働条件は出向元と出向先のどちらを適用しても問題ありません。
しかし、出向契約書に記載された労働条件が最優先です。
出向した従業員が不当な扱いにならないためにも、出向元と出向先が、就業規則や労働条件の内容をよく話し合いましょう。
社会保険・給与
社会保険といった被保険者資格は出向元が継続しますが、負担先は出向元と出向先のどちらかです。
双方の企業が、話し合って決めなければなりません。
また、出向する従業員の給与の支払いは、2種類です。
- 間接支給:出向元が給与を支払う(一般的)
- 直接支給:出向先が給与を支払う
なお、間接支給では、出向先は出向元に対して、給与に相当する出向負担金を支払います。
出向元は、給与の100%を負担しなくてよくなるでしょう。
また、出向負担金は残業代や賞与なども考慮したうえで、算出されます。
在籍出向に活用できる助成金
在籍出向で活用できる助成金を2つ紹介します。
- 産業雇用安定助成金
- 雇用調整助成金
産業雇用安定助成金
産業雇用安定助成金は、在籍出向の制度を採用した出向元と、出向先の企業の両方に支給される助成金です。
新型コロナウィルスの感染で休業した従業員に対して、雇用調整助成金がありますが、産業雇用安定助成金のほうが支給額が大きいです。
休業ではなく、在籍出向を採用すれば労働力を十分に活用できるでしょう。
(出典:厚生労働省 産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース))
(出典:厚生労働省 産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース))
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、事業縮小が原因で雇用の調整や、出向の制度を採用する企業を対象に支給されます。
支援額は休業手当や教育訓練の負担額で、大企業は2分の1、中小企業は3分の2の割合です。
2021年現在では、1人あたりの上限は8,265円です。
さらに、教育訓練の場合は1日あたり1,200円の加算がありますので、合計9,465円です。
また、支援限度日数は1年100日で、3年150日です。
(出典:厚生労働省 雇用調整助成金)
在籍出向についてのまとめ
在籍出向の目的は、雇用の維持と企業のコスト削減です。
出向元や出向する従業員、出向先にトラブルが生じないためにも、出向契約や出向する従業員との打ち合わせを細かく行うようにしましょう。
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