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従業員のQOLは上げられる? QOLの重要性、企業側ができる向上方法について解説

従業員のQOLは上げられる? QOLの重要性、企業側ができる向上方法について解説

価値観の多様化が進む現代社会で重要性が高まってきている概念が、「QOL」です。もともとは医療・介護の分野で生まれたものですが、近年ではビジネスシーンや人々の日常生活のなかにも取り入れられています。

特に企業においては、従業員のQOLを高めることで自社の業績アップになるケースもあるため、積極的に取り入れたい考え方だといえるでしょう。この記事では、QOLの概要や、向上させる方法などを解説します。


この記事の監修者
マネーライフワークス  代表/社会保険労務士・1級FP技能士・CFP 

QOLとは?

「QOL」とは、「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」の略称です。多くの場合「生活の質、人生の質」というように訳されます。

人々の「生きがい」や「生活の満足度」という意味に近く、生活の質が高いことを「QOLが高い」と言います。各自が「自分らしい生活ができている」と感じられる環境に身を置けていれば、「QOLが高い」と感じやすくなるのです。

「自分らしい生活」のなかには、勤務先に対する満足度も大きく影響します。
たとえば以下のような環境が整っていれば、従業員のQOLは自然と向上するでしょう。

  • 業務内容に負担がなく、のびのびと働けている
  • 上司や部下、同僚などとよい人間関係ができている
  • 福利厚生が充実している
  • いつでも好きな時に休暇が取れる

QOLとワークライフバランスの違い

QOLと似た言葉として、「ワークライフバランス」を想像する方もいるでしょう。

ワークライフバランスとは「仕事と生活を調和させること」という意味です。「生活の満足度」といった意味のQOLとは、関連性の高い言葉・考え方だといえます。

つまり、従業員のワークライフバランスが整っていなければ、従業員のQOLも低下してしまうのです。
従業員のQOLを上げたい場合は、ワークライフバランスの実現に向けた施策や取り組みが効果的です。


QOLが注目されるようになった理由

QOLは近年注目されるようになった考え方ですが、明確にいつ・どこで発祥したのかははっきりしていません。

ただし、QOLに対する注目度や研究度合いは、年代ごとに異なります。QOLの概念が注目され始めた時期から順に、年代に分けて解説します。

医療分野での概念(1970年代)

1970年代は、QOLという概念が登場し、注目されるようになってきた年代だと言われています。
高度経済成長期のただなかで、科学技術のめざましい進歩があった時期でもあります。

先進国では仕事の生産性が向上し、さまざまなものが容易に入手できるようになりました。その結果、生活の質を評価する基準も、ものの量より「質」にシフトしていったのです。

「量より質」の傾向は、医療業界でも見られました。医療に対する評価の基準が、従来の「治癒率」「生存率」といった量的評価基準から、「患者自身の気持ち・考え」など主観的な要素を重視する、質的評価基準へと変わっていったのです。
背景には、医師が一方的に治療方針を決定する「パターナリズム」が弱まってきたことが影響しています。また、生活が豊かになった分、食生活にも大きな変化が生じています。

その結果、従来では見られなかった糖尿病や脳梗塞といった病気にかかる人が増えました。こうした病気によるストレスも影響してQOLが低下しやすくなると言われており、QOLが注目を集めた理由に関係していると考えてよいでしょう。

日本でのQOL研究(1980~2000年代)

1980年代に入ると、国内でもQOLについての研究が積極的に行われました。QOLとはどういった概念なのか、どのような方法で評価するのかなどの議論が、世界的に活発になったのです。

国内初のQOLの評価基準(尺度)である「QOL-ACD」が開発されたのも、この時期でした。同時期の欧米でも多くのQOL尺度が開発されており、当時の日本は欧米同様に先進的な研究に取り組んでいたと考えられます。

その後の2000年には、厚生労働省が取り決めた国民の健康づくり運動「健康日本21」のなかで、QOLの重要性や評価基準について言及されています。

参考:健康日本21(栄養・食生活 ) 

現代社会でのQOL概念(2010年代以降)

2010年代以降は、最もQOLに対する関心が高まっている時代だと言えます。
日本は2007年頃から超高齢化社会に突入し、高齢化率は上昇する一方です。多様性を尊重する風潮も見られてきていることもあり、QOLは今後ますます重視されるでしょう。

QOLの考え方が医療分野以外でも取り入れられるようになってきている点も特徴です。たとえば以下のような商品・サービスが登場しています。

  • 仕事への適応力や精神面の不調を把握する分析ツール
  • QOL維持のために付ける保険の特約
  • QOL向上のために行う研修

特に企業でこうした商品・ツールを活用すれば、従業員のQOLを測る際に役立つでしょう。


QOLの評価方法

QOLの評価尺度にはさまざまなものがありますが、大きく「包括的尺度」と「疾患症状特異的尺度」の2つに分類されます。それぞれの違いをまとめると、以下のとおりです。

包括的尺度

疾患症状特異的尺度

対象者

  • 病気にかかっている人全般
  • 特に病気にかかっておらず、健康な人

特定の病気にかかっている人のみ

特徴

どんな人にも適用できるため、「病気にかかっておらず健康な人とそうでない人」といった比較ができる

特定の病気にかかっている患者同士での比較ができるため、治療効果の判定に役立つ

また、実際に使用される尺度がどのタイプになるかによって、さらに「プロファイル型」と「インデックス型」に分けられます。それぞれの尺度について解説します。

プロファイル型尺度

「プロファイル型尺度」とは、健康状態を詳細に調査できる尺度のことです。「1人で外出できたか」「階段の上り下りができたか」など、QOLを構成する要素に関するいくつかの質問で構成されています。具体的には、以下のような尺度が該当します。

  • QOLACD
  • SF‐36
  • SIP

プロファイル型尺度での調査結果は、主に医薬品・医療機器の開発、臨床現場などで使われている尺度です。

インデックス型尺度

「インデックス型尺度」とは、医療経済効果の測定に活用する尺度です。「選好による尺度」や「価値付け型尺度」と呼ばれる場合もあります。

医療経済効果とは、治療の効果や副作用、治療に必要なコストを踏まえて、費用対効果に基づいて行う評価のことです。効果や副作用、かかるコストなどから、消費者の満足度を総合的に測るものだと考えてよいでしょう。
調査の結果は、医療資源配分の参考とされることもあります。

インデックス型尺度には、以下のようなものがあります。

  • EQ-5D-3L・EQ-5D-5L
  • HUI(Health Untilities Index2/3)
  • SF-6D(Short form 6 dimension)
  • EORTC QLU C-10(Quality of Life Utility Measure-Core 10 dimensions)

EQ-5D-3L・EQ-5D-5L

「EQ-5D-3L」は、数あるQOLの尺度のなかでも一般的で、特に使われることの多い尺度です。以下の5問から構成されます。

  • 移動の程度
  • 身の回りの管理
  • 普段の活動
  • 痛み╱不快感
  • 不安╱ふさぎ込み

また、質問項目は共通ですが、より詳細な水準を設けて回答者にとって内容を理解しやすくした「EQ-5D-5L」という尺度も存在します。

HUI(Health Untilities Index2/3)

「HUI」は、カナダ・マクマスター大学の研究グループが作った尺度です。以下の8項目から、QOL値を算出します。

  • 視力(視覚)
  • 聴力
  • 会話
  • 移動(歩行)
  • 器用さ
  • 感情
  • 認知
  • 疼痛(痛み)

SF-6D(Short form 6 dimension)

「SF-6D」は、イギリス・シェフィールド大学の研究グループが開発した尺度です。以下の6項目でQOL値を算出します。

  • 身体機能
  • 日常役割機能
  • 社会生活機能
  • 痛み
  • 心の健康
  • 活力

QOLを向上させる方法

QOL向上のためには、以下のような方法が効果的です。

  • 良質な睡眠をきちんととる
  • 趣味やボランティアを見つけ、生きがいを持つ
  • 規則正しい適度な生活をする
  • 生活にメリハリをつける
  • よく笑う

どれも難しいことではなく、ちょっとした心がけさえできれば実現可能なものばかりです。
従業員がこうした行動に無理なく取り組めるよう、業務内容や職場環境を見直してみましょう。

良質な睡眠をきちんととる

良質な睡眠がとれれば、日々感じる疲労感や倦怠感を改善できる効果に期待できます。

もし従業員が慢性的な睡眠不足に陥っている場合、集中力が低下するでしょう。その結果、仕事が上手くできず気分が落ち込んだりイライラしたりすることが考えられます。

場合によっては、気分の落ち込み・イライラで十分な睡眠が取れなくなるという、「負の連鎖」に陥りかねません。

趣味やボランティアを見つけ、生きがいを持つ

没頭できる趣味やボランティア活動などがあるかどうかも、QOL向上に関わります。特に、「仕事は生活費を稼ぐためのもの」と考えている従業員にとって重要です。

趣味やボランティア活動に精を出すことは、職場以外で社会との関わりを作ることにつながります。仕事で感じるストレスも、発散できるでしょう。

規則正しい適度な生活をする

適切な睡眠を取ることに関連して、一定の生活リズムで暮らすことも重要です。生活リズムが乱れることで、心身に不調を来しやすくなります。

従業員が以下のような状況で暮らしていないか、確認してみてください。

  • 不規則な食生活を送っている
  • 昼夜逆転状態に陥っている
  • 運動不足になっている

生活にメリハリをつける

従業員が「業務時間中は集中して仕事に取り組み(オン)、休憩時間や休日はきちんと休む(オフ)」という切り替えができているかを確認しましょう。

仕事が忙しいからといって常にオンの状態でいると、ストレスが溜まったり、時間管理が上手くできなくなったりするリスクがあります。ふとした瞬間に意気消沈してしまい、従業員のQOLが低下してしまうかもしれません。

業務時間中は仕事上の目標達成のために力を尽くし、終業後はリラックスした時間が確保できるような職場環境を整えましょう。

よく笑う

笑うことで全身の筋肉が使われ、呼吸器も活発に動くようになります。また、そもそも笑いは気持ちが明るく楽しいと感じた時に起こるものです。笑うことが増えれば、心身のリフレッシュにもつながります。

自社の従業員に笑顔が見られているか、確認してみましょう。


QOLの低下を招くこと

QOLが低下している状態は、言い換えれば従業員が自分らしい生活が送れていない状態です。そのまま働かせ続けていると、以下のような悪影響を及ぼすかもしれません。

  • ストレス・メンタルの不調
  • 生活習慣の乱れと健康の悪化
  • 収入に対する不安

さらに、従業員満足度の低下にもつながります。その結果、離職者を出してしまうかもしれません。従業員のQOLに課題を感じる場合は、早々に対策しましょう。

ストレス・メンタルの不調

QOLが低下している状態で働きつづければ、従業員のストレスがどんどん溜まってしまうでしょう。仕事のやりがいや責任感が薄れる、昇進の意欲がなくなるといったリスクも懸念されます。

もし1人でも仕事に前向きになれない従業員がいると、全体のコミュニケーション不足にもつながります。場合によっては、職場の人間関係が悪化する可能性もあります。

生活習慣の乱れと健康の悪化

「十分な睡眠時間が取れない」「休日出勤が必要なほどの業務を抱えている」といった状態が続くと、従業員の生活リズムが乱れます。健康問題に発展することもあるでしょう。

加えて睡眠不足や集中力の低下により、思いもよらないミスや、ケガ・病気をしてしまうリスクも高まります。

収入に対する不安

仕事に集中して取り組めない、睡眠不足によって本来であればしないミスをしてしまうといった事態は、従業員の心身への負担も大きいものです。

「評価されなくなり、出世のチャンスがなくなるのでは」「減給になってしまうかも」と、自身の収入やキャリアに対して不安を覚え、ますます仕事に集中できなくなる可能性も大いにあります。


企業が従業員のQOLを高めるには

企業として取り組める、従業員のQOL向上の方法には次のようなものがあります。

  • 従業員の健康・メンタルを定期的にチェックする
  • 休暇取得を促す
  • 多様性を受け入れ柔軟な働き方を認める
  • 残業や休日出勤を減らす
  • 従業員の自己啓発を応援する
  • 従業員の業務負荷を減らす支援をする

いきなり全ての対策をすることは難しいかもしれません。その場合は、どれか1つでも取り入れられないか前向きに検討してみてください。

従業員の健康・メンタルを定期的にチェックする

QOLを向上させる前に、現段階における従業員の心身の健康状態を把握するところから始めましょう。

近年は、QOLの考え方に基づいて従業員の心身の健康状態を診断するツールも登場しています。こうしたものを活用すると、効率良くチェックできるはずです。

現在の各自の状態を明確化することで、社内のどういった点に課題があるのか、何を改善すべきなのかも把握しやすくなります。

休暇取得を促す

従業員に、有給休暇の取得を促しましょう。同時に、従業員から休暇取得の申し出があった場合はすみやかに受理し、休暇を取りやすい雰囲気を作ることも重要です。

有給休暇を取得することで、従業員は息抜きやリフレッシュができます。自社で規定している休暇だけでは休みきれないと感じている人でも、思いっきり羽を伸ばせるでしょう。

もし思うように有給休暇取得の動きが見られない場合は、各部署の上司や社内の上層部から取得するよう促すのもおすすめです。

多様性を受け入れ柔軟な働き方を認める

従業員一人一人のライフスタイルに合わせて、柔軟に働ける体制を整えましょう。自社の従業員でも、以下のような事情を抱えている人もいるものです。

  • 家族の介護をしている
  • 幼い子どもや不登校児がいる
  • 自宅から会社までに距離があり、出勤時間が長い

近年はリモートワークや時差出勤、時短勤務など、さまざまな働き方が認められています。社内でもそういった働き方を認めることで、各自が無理なく働けるようになるでしょう。
QOLも自ずと向上するはずです。

対外的にも、従業員を大切にしている会社として評価され、より多くの人が集まるようになるかもしれません。

残業や休日出勤を減らす

残業や休日出勤が多く、規定の労働日数・時間では仕事を終えられない状況下では、従業員の生活にメリハリがなくなってしまいます。

以下のような観点であらためて社内の状況を確認し、ネックとなっている部分がないか探してみてください。

  • 人手不足になっている部署・部門はないか
  • 従業員ごとの業務量・知識量に偏りはないか
  • 残業をすることが美徳とされていないか

適正な労働時間にすることで、従業員の心身の負担を減らせます。1つ前の見出しで解説したように、リモートワークや時短勤務といった多様な働き方を取り入れるのもよいでしょう。

従業員の自己啓発を応援する

従業員が「挑戦したい」と思っていることを、会社として応援する体制を作ることもQOL向上に効果的です。一例として、以下のようなことが考えられます。

  • ビジネスに関連する書籍の購入費用の一部を負担する
  • 資格取得や、スクール・通信講座などでの学習を支援する
  • 社内での勉強会や研修を実施する

こうした体制によって従業員のスキルアップができる、従業員が自分に自信を持てるようになるといった効果も見込めます。

従業員の業務負荷を減らす支援をする

社内の業務内容・フローを見直し、業務の無駄をなくすこともよいでしょう。以下のような方法で、業務の効率化を図ることがおすすめです。

  • 社内の備品を新しいものに変える
  • 会議の回数を少なくする
  • 人力で対応している作業をデジタル化(DX)する

細かなポイントですが、従業員が書類を作成する際にテンプレートの活用を奨励することも効果的です。ビズオーシャンでは、業務効率化に役立つテンプレートを多数用意しています。
無料で利用できるので、書類作成の機会が多い従業員や部署で活用してみてください。

根本的に働き方改革を進めたいという中小企業では、業務のDX化を検討する場合もあるでしょう。
そんなときには、「Hirameki7」の利用がおすすめです。
Hirameki7は、Webサイト作成や名刺管理ツールなどの活用などができる中小企業支援プラットフォームです。こちらも無料から利用できるため、まずは登録だけでもしてみてはいかがでしょうか。


まとめ

QOLは本格的に研究されるようになってから30年ほどの考え方ですが、今日では重要性が高まる一方です。もし自社の従業員のQOL低下が危ぶまれる場合は、まず現状を把握するところから始めましょう。その後、具体的な対策をとり、QOL向上に努めるべきです。

従業員のQOLが低下し続けると、最悪の場合離職につながってしまいます。自社と従業員を守るためにも、QOLについて真剣に考えてはいかがでしょうか。


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監修者プロフィール

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岡崎 壮史

マネーライフワークス 代表/社会保険労務士・1級FP技能士・CFP

生命保険の営業や不動産会社の営業企画を経て、1級FP技能士とCFPを取得。

平成28年に社会保険労務士試験に合格。その翌年にマネーライフワークスを設立。

現在は、助成金申請代行や助成金の活用コンサルを中心に、行政機関の働き方改革推進事業のサポート事業や保険などの金融商品を活用した資産運用についてのサイトへの記事の執筆や監修なども行っている。

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