残業が80時間を超えるリスクとは? 残業代の計算方法や対処方法を解説
残業時間が80時間を超えた場合、労働基準法違反になる可能性があります。36協定を結んでいても労働基準法違反になることもあるわけです。
またそもそも残業時間が80時間を超えることで、体への影響も無視できません。さらに残業代が支払われていないという方もいるかもしれません。
ではこうした残業時間の問題はどのように対処すればいいのでしょうか。残業代未払いの問題も含めて、残業時間を改善する方法について解説します。
残業が80時間を超えると起こる問題
そもそも残業時間が80時間を超えるとどのような問題が起こるのでしょうか。ここでは法的な問題と従業員の健康の問題という2つの問題について解説します。
会社が労働基準法違反の可能性がある
会社は36協定を締結しないと、原則として従業員に残業をさせることができません。
36協定を締結した場合における残業時間の上限は、原則として1か月で45時間です。しかし、通常の業務において予見することができないような業務量の増加等を理由とした場合において、36協定に「特別条項」を付けることができます。
特別条項を付けることで初めて残業時間の上限を延長できるわけです。しかし、それでも残業時間に上限があり、1か月で100時間を超える残業は認められていません。
参考:厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
残業80時間が続く場合は過労死ラインを超える可能性がある
過労死ラインについて厚生労働省は、月45時間を超える時間外・休日労働が健康リスクを高め、発症前1か月で100時間、あるいは2~6か月のそれぞれの期間において月平均80時間超(つまり、2か月・3か月・4か月・5か月・6か月のそれぞれの期間の月平均で80時間以下である必要があるということ)の時間外労働は健康を害する可能性が高いとしています。
脳血管疾患や心臓疾患を発症し、死亡に至るのが過労死です。また精神疾患も長時間労働との関係があり、精神疾患を発症して自殺した場合も過労死として認定されます。
さらに2021年に脳・心臓疾患の労災認定基準が改訂され、労働時間以外の業務負荷の要因も重視されるようになりました。
残業80時間は違法なのか?罰則は
前述したように特別条項付き36協定を結ぶことで、残業80時間でも違法になりません。
しかし、残業80時間を継続的に行うことはできません。ここでは違法となるケースと会社の責任や罰則について解説します。
違法となるケース
前述したように、36協定を締結せずに法定労働時間を超えた場合は違法になります。
また、36協定を締結した場合であっても、月45時間を超えるような残業時間が発生することが予想される場合は、特別条項付き36協定を締結する必要があります。
特別条項付き36協定を締結することで残業時間の上限が月100時間となり、残業80時間も可能です。しかし、特別条項付き36協定を締結したとしても、継続的に残業80時間が認められるわけではありません。
残業45時間を超えられるのは1年のうちの6か月に限られ、直近の2か月ないし6か月の平均残業時間が80時間を超えることは許されません。
このように、残業80時間は特別条項付き36協定を締結することで認められますが、永続的には認められません。過労死ラインとの関係を考えれば、こうした規制は妥当でしょう。
参考:厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
会社の責任や罰則
会社が80時間超の残業を労働者に課すと、特別協定がない限り、刑事責任で6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられることがあります。
民事責任としては、残業代の支払いに加え、健康損害に対する損害賠償義務も生じます。労働者の安全と健康を守る会社の義務を怠った場合、たとえば労働者が自殺するなどの健康被害が発生した際、過失があるとされれば会社は賠償責任を負う可能性もあるわけです。
参考:厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
残業80時間の計算方法
自分の残業代がいくらなのか、しっかりと給与に反映されているのか確認する必要があります。ここでは残業時間が80時間を超える際の残業代の計算方法や計算例について解説します。
残業の計算方法
残業代はどのように計算するのでしょうか。残業代の計算式は「残業代=【基礎時給】×【割増率】×【残業時間】」です。それぞれの要素について説明します。
基礎時給
基礎時給とは1時間当たりの賃金です。基礎時給は「基礎賃金÷所定労働時間」で求められます。ただしアルバイトやパートタイマーなど時給制の場合は、1時間当たりの賃金が決まっているため、基礎賃金を所定労働時間で割って求める必要はありません。
基礎賃金に含まれるのは基本給だけではありません。基本給以外の手当も基礎賃金に含まれます。ただし家族手当や通勤手当など、従業員に一律で同じ金額が支給されないものについては、基礎賃金に含まれません。
割増率
残業をした場合、割増率が適用されるため、通常の労働よりも時間単価は上がります。割増率は労働の種類によって変わります。法定時間を超えた残業の場合、割増率は25%です。また残業が午後10時~翌午前5時になった場合、割増率は50%となります。
休日労働の場合、割増率は35%です。ただし休日労働とは法定休日に働いた場合のことをさします。
法定休日とは毎週少なくとも1日、もしくは4週間で4日以上与えられる休日のことです。週休2日制の場合、1日は法定休日となりますが、もう1日は法定外休日となります。そのため法定外休日に出社した場合は休日労働ではなく通常の割増率が適用されます。
残業時間
法定労働時間を超えた場合に、残業時間として計算されます。法定労働時間とは原則1日8時間で、1週40時間です。この法定労働時間を超えた分が時間外労働とされ、残業時間にカウントされます。
そのため就業規則で1日の労働時間が7時間と定められている企業では、8時間労働しても1時間分は時間外労働とはなりません。そのため割増賃金を支払うのではなく、所定賃金を1時間分払うことになります。
残業代の計算例
実際のケースを使って残業代を計算してみましょう。月給20万円で月平均所定労働時間160時間の従業員のケースを考えてみましょう。この従業員が80時間の残業をしたとします。1か月の残業代はいくらになるでしょうか。
基礎時給は20万円÷160時間なので、1250円となります。割増率が25%で80時間の残業なので1250円×1.25×80=12万5000円になります。月給が30万円の場合は1875円×1.25×80=18万7500円、月給が40万円だと2500円×1.25×80=25万円です。
残業代未払いがある?対処法を解説
残業代の計算式は先ほど説明しました。残業代を計算してみたところ、残業代の未払いが疑われるときはどのように対処すれば良いでしょうか。ここでは残業代未払いがある場合の対処法を解説します。
証拠収集と計算
残業代を請求する場合、労働者は具体的な残業時間の証明が必要です。従業員が証拠として提出できるものとしてはタイムカードがありますが、企業の中には、残業時間がわからないようにタイムカードだけ先に押させる悪質なケースがあります。
そのためPCのログやメールの送信履歴、さらにICカードの利用履歴やタクシーの領収書などの証拠を集めておく必要があります。また日記やメモで残業時間について記録しておくことも大事です。
こうした証拠を集めたうえで、時給と割増率に基づき残業代を算出しましょう。計算が複雑でよくわからない場合は弁護士に相談するのもひとつの方法です。
会社にかけあう
未払いの残業代があった場合、いきなり裁判に訴えるというわけにはいきません。基本的にはまず会社と話し合って解決する方がよいでしょう。自分自身で計算した未払い残業代の詳細を会社に説明し、会社に支払いを求めることになります。
ただし従業員と会社では力関係が対等ではありません。会社との話し合いで簡単に解決できないケースも見られます。その場合には、交渉に弁護士を代理人として立てることが有効です。交渉がうまくいかない場合は弁護士に相談してみましょう。
残業時間改善のためにできること
残業時間が発生し会社側とトラブルになる前に、残業時間の改善をしておくべきです。ではどのような手段があるのでしょうか。ここでは残業時間改善のためにできることについて解説します。
上司に相談・申請する
月80時間を超える残業の場合、まずは会社側と改善について話し合う必要があります。前述したように、月80時間を超える残業が続いていると、会社側が罰則を課せられる可能性があるからです。
ただし、会社組織である以上、最初に権限を持つ上司に相談することが重要です。上司に相談せずに、他の人に相談すると問題が複雑になる可能性があります。相談する際は、「残業が多く体調に影響が出ているため、業務量を調整してほしい」と伝えましょう。
外部相談
残業時間が80時間を超えていて、上司に相談しても改善されない場合は、産業医や弁護士といった外部の専門家や会社の所在地を管轄している労働基準監督署に相談するのもひとつの方法です。産業医がいる場合、産業医との面談を希望できます。
また、残業時間の改善が行われず、労働基準法違反を会社が続けるようであれば、弁護士に相談してみましょう。
残業の問題に詳しい弁護士であれば、会社との交渉をうまく運んでくれる可能性は高くなります。また弁護士が出てくることで、会社側も態度を改める可能性も期待できます。
転職する
上司と相談しても改善されない場合は、転職するのもひとつの方法です。そのまま仕事を続けていると、身体的・精神的に崩壊してしまう可能性があるからです。一度、体調が悪くなって働けなくなってしまうと、そこから回復するのは難しい可能性が高くなります。
働けなくなる前の体調不良の段階で休養すれば、回復の時間も少なくてすみますし、お金もあまりかかりません。労災に認定されれば保険金をもらえ療養することも可能です。売り手市場で転職がしやすい時代ですので、転職活動を始めてみましょう。
残業80時間のまとめ
長時間労働が健康を害することは明らかであり、問題提起しても企業が直ちに対応するとは限りません。残業時間が法律に抵触している疑いがあるときや、未払いの残業代が発生している場合は専門の弁護士に相談すべきです。
それでも改善されない場合、転職するのもひとつの選択です。働き方は自分の人生の一部のため、その会社以外でも働けるという選択肢を持ちつつ柔軟に対応していきましょう。体調を崩す前に転職活動を始めることを推奨します。