管理職も勤怠管理が必要? 管理監督者の定義や実務のポイント
働き方改革の推進により、労働時間管理の重要性が高まっています。2019年4月の労働安全衛生法改正では、管理監督者を含むすべての労働者の労働時間把握が義務化されました。
今回勤怠管理が義務化された管理監督者は、管理職とは少し定義が異なります。義務化により、管理監督者の勤怠管理はどのような影響を受けたのでしょうか。
本記事では、管理監督者の定義や勤怠管理の実務におけるポイントを解説します。
管理監督者の勤怠管理が義務化
労働安全衛生法改正により、管理監督者を含む全労働者の労働時間把握が義務化されました。従来、管理監督者の労働時間管理は企業判断でしたが、法改正後は客観的な把握が必要となったのです。
以下では、管理監督者を定義する4つの要件や、管理職と管理監督者の違いを紹介します。
管理監督者の4つの要件
すべての管理職が管理監督者に該当するわけではありません。管理監督者に当てはまるかの判断基準は、厚生労働省が定義している以下の4つです。
- 重要な職務内容を有している
経営にかかわる意思決定に参加したり、労働条件について検討したりと経営者と同等の職務を担っている。 - 経営者と同等の責任と権限を持っている
部下などの人事評価や労働条件の決定権限を有している。 - 労働時間規制になじまない勤務態様である
始業・終業時間や休憩時間、休日を自分で調整することが可能。 - 職務にふさわしい待遇を受けている
重要な役割のため、他の従業員に比べて賃金や賞与が高額でなければならない。
管理職と管理監督者の違い
管理職と管理監督者は混合されがちですが、似て非なるものです。管理職には明確な定義はなく、企業が決めた基準を満たす従業員のことを指します。
そのため、「部長以上が管理職」のように企業によって扱い方が異なります。
一方で、管理監督者は労働基準法で「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱うもの」と定義されています。
この条件に該当しない管理職を誤って管理監督者として扱うと、「名ばかり管理職」が発生してしまうのです。
また、管理監督者は労働時間規制の適用が除外されますが、管理職は規制対象です。そのため、法律に則り管理職には残業代を支払わなければなりません。
企業は自社の管理職が管理監督者に該当するか慎重に判断し、適切な労務管理を行いましょう。
管理監督者の勤怠管理が義務化された背景
管理監督者の勤怠管理義務化には、以下のような背景があります。
- 労働安全衛生法改正と管理監督者への影響
- 管理職の長時間労働問題と健康リスク
- 企業における管理職の勤怠管理の重要性
なぜ管理職の勤怠管理が義務化されたのか、詳しく見ていきましょう。
労働安全衛生法改正と管理監督者への影響
2019年の労働安全衛生法改正で、管理監督者を含む全労働者の労働時間を客観的に把握することが義務化されました。これは働き方改革の一環で、長時間労働の是正と労働者の健康確保が目的です。
改正前は、管理職の労働時間管理は企業裁量だったため、労働時間の把握ができていませんでした。そのため、長時間労働による健康への影響が懸念されていました。
同改正では、時間外労働の上限が月45時間・年360時間と定められ一般従業員の長時間労働に一定の歯止めがかけられましたが、管理監督者には適用されません。
ただし、企業には管理監督者の労働時間を把握することが義務付けられ、管理監督者も例外ではなく、他の労働者と同じように勤怠管理が求められるようになりました。
労働時間に制約のない管理監督者の過重労働を放置するのではなく、労働時間の把握だけでも義務化することで、現状把握と長時間労働の抑制を図っています。
管理職の長時間労働問題と健康リスク
管理監督者に限らず管理職は責任ある立場ゆえに長時間労働に陥りやすいです。過重労働による健康被害が増加し、企業の大きな課題となりました。
時間外労働の上限規制など働き方改革が浸透し一般労働者の労働時間が減少するのと反比例して、管理職の業務負担が増加していることも原因の1つです。
また、上司である管理職が長時間労働することで、その部下も退勤しづらくなり、さらなる長時間労働につながる恐れがあります。
そのため、管理職の長時間労働は組織全体の問題に発展する可能性があるのです。リスクを抱えないためにも、労働時間の把握と業務効率化、人員配置の見直しが重要です。
企業における管理職の勤怠管理の重要性
管理職の労働時間を適切に管理することは、生産性向上と人材流出防止に直結します。労働時間の可視化により、業務効率化や適切な人員配置が可能となり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
また、企業にとって重要な立場の管理職が勤怠管理の手本になることで、コンプライアンス強化やワークライフバランス向上、組織文化変革などの効果も期待できるでしょう。
管理職の労働時間の適切な管理は、企業の競争力強化につながる経営課題といえます。
管理監督者の勤怠管理における法的要件と注意点
管理監督者の勤怠管理には、法的な要件や注意すべき点がいくつかあります。
ここでは、下記3つの観点から見ていきましょう。
- 労働時間把握義務と記録方法
- 残業代と休日出勤手当の取り扱い
- 年次有給休暇取得義務化と管理のポイント
労働時間把握義務と記録方法
労働安全衛生法により、企業はICカードやPCログなどの客観的方法で管理職の労働時間を記録・保存しなければなりません。労働時間を正確に把握することで、長時間労働を防ぎます。
さらに、労働時間をもとに業務量を見直し適切な人員配置をすることで、業務効率化や生産性向上も期待できます。
労働時間の記録データは3年間の保存が必要です。適切な記録・保管をすることで労働基準監督署の調査にも迅速に対応できるようにしておきましょう。
2019年より、管理監督者にも同様の対応が必要です。
残業代と休日出勤手当の取り扱い
管理職には残業代や休日出勤手当の支払い義務がありますが、管理監督者には支払い義務はありません。
なぜなら、管理監督者は終業時間や休日を自分の裁量で決めることができたり、繁忙期などに勤務時間外でも業務を行う必要があったりと、働き方を制限することに適さないからです。
そのため、要件に該当しない管理職の職員を、誤って管理監督者として扱っていると、多額の未払い賃金請求につながる可能性があります。
企業は自社の管理職が管理監督者に該当するか慎重に判断し、適切な賃金管理を行いましょう。
年次有給休暇取得義務化と管理のポイント
管理監督者にも、休暇に関する労働基準法の定めは適用されます。年次有給休暇の付与や5日以上の取得義務化については、一般従業員と同様の取扱いが必要です。
そのため、企業が取得計画の作成や取得状況を把握することで、管理監督者が有給を確実に取れているか定期的にチェックすることが望ましいです。
また、業務の偏りをなくしたり、代替要員を確保したりと、有給休暇を気軽に取得しやすい環境づくりをしましょう。適切な有給休暇管理は、従業員の健康維持だけでなく、企業の生産性向上や人材定着にもつながります。
管理監督者が率先して有給を取得することで、他の従業員も有給が取得しやすくなり、組織全体の意識改革にも影響を与えます。そのため、企業は管理監督者の有給取得を積極的に推進しましょう。
管理監督者の勤怠管理における課題と解決策
管理監督者の勤怠管理には、以下のような課題があります。
- 自己申告制度
- 労働時間の客観的把握方法
- 管理監督者の過重労働リスクと健康管理施策
どのような課題を抱えているのか1つずつ見ていきましょう。
自己申告制度
自己申告制度は管理監督者の労働時間管理で広く採用されていますが、申告された労働時間と実際の労働時間との間に乖離が起きてしまうケースが少なくありません。
解決策として、自己申告を補完する客観的な記録方法を導入し、申告された時間とズレがないか定期的に照合する方法があります。
具体的にどのような記録方法があるのか、次の見出しで紹介します。また、管理監督者に向けて正確な申告の重要性に関する教育や周知も必要でしょう。
労働時間の客観的把握方法
労働時間の把握は自己申告のみでなく、ICカードやPCログ、スマートフォンアプリなどの客観的な記録方法を活用しましょう。これにより、労働実態の可視化や環境の改善、健康管理が可能になります。
ただし、プライバシーへの配慮も必要です。例えば、スマートフォンでのGPS機能を使った勤怠管理は労働時間に加えて、どの場所で打刻したのかが分かります。
そのため、データ取得の目的や範囲を明確に説明し、GPS機能での打刻場所の取得について同意を得ること、また取得データの適切な管理・保護が求められます。
管理監督者の過重労働リスクと健康管理施策
管理監督者は労働時間の上限がないため、過重労働に気を付けなければなりません。過重労働は身体疾患や精神疾患につながるリスクがあります。
そのため、定期的な健康診断と産業医面談を実施し、健康状態を継続的にモニタリングすることが重要です。
対策として、ストレスチェックの実施とフォローアップ、一定労働時間超過時の自動面談設定なども効果的です。
また、メンタルヘルス研修やワークライフバランスセミナーの開催で自己管理能力向上を図ります。
適切な管理職の勤怠管理を実現して組織を強化しよう
適切な管理職の勤怠管理は、法令遵守と生産性向上を両立し、組織の持続的成長につながるでしょう。長時間労働になりがちな管理職の勤怠管理を正しく行うことで、健康リスク低減や業務効率化などのメリットも多くあります。
また、管理職の意識改革は組織全体に波及し、働き方改革推進の原動力となるでしょう。管理職の勤怠管理を適切に行うことで、その部下である従業員の有給取得や残業時間削減にもよい影響を与えます。
企業は管理職の勤怠管理を徹底し、組織の強化を目指しましょう。