労働基準法とは? 主な規定や改正点を分かりやすく解説
労働基準法とは、労働者の権利を守るための法律で、日本で働くほぼすべての人に適用されます。近年、年次有給休暇の取得や時間外労働手当に関する法律が改正されました。
労働基準法は強行法規のため、この法律に従っていない企業ルールは無効となります。法律違反をした内容によっては、罰金や懲役刑が科されることがあります。
時間管理の徹底や就業規則を周知することで、違反となることを未然に防ぎましょう。
本記事では、労働基準法の目的や主な内容とその改正点、法律を遵守するためのポイントなどについて説明します。
労働基準法とは
労働基準法とは、労働者が働くうえでの権利を守るための法律です。ここでは、労働基準法の目的と適用対象について説明します。
労働基準法の目的
労働基準法の目的は、労働条件に最低限の基準を設けて労働者の生活と権利を守り、公正な労働環境を確保することです。具体的には、賃金・労働時間・休暇などに決まりがあります。
労働者は、雇用主よりも立場が圧倒的に弱くなります。労働基準法は、雇用主と労働者の立場を対等にし、不条理な労働条件を防止しているのです。
労働基準法の適用対象
労働基準法は、原則として日本国内で働くほぼすべての人が対象です。これは、職種や雇用形態を問いません。社員はもちろん、アルバイトやパートにも適用されます。
ただし以下のケースは、労働基準法の対象外です。
- 一部の公務員
- 一部の船員
- 家事使用人
- 家族経営の事業で働く親族
- 代表取締役・事業主
- 農業・水産業・畜産業などの第一次産業者
上記に該当する労働者は、労働時間や休日・休憩などの規定が適用されません。
しかし、深夜労働や有給休暇に関する規定は例外です。深夜手当は25%以上の割増賃金を支払わなければならず、有給休暇は最低でも年5日取得する必要があります。
労働基準法の主要な規定と改正点
労働基準法には、主に以下の6つの規定があります。ここではそれぞれの規定について詳しく見ていきましょう。
- 労働条件の明示義務
- 賃金に関する規定
- 労働時間と休憩・休日に関する規定
- 年次有給休暇に関する規定
- 時間外労働と割増賃金に関する規定
- 解雇に関する規定
労働条件の明示義務
雇用主は、労働条件を書面で明示することが労働基準法第15条で義務付けられています。明示すべき労働条件は以下の5つです。
- 労働契約の期間
- 就業の場所(雇い入れ直後、変更の範囲)、従事する業務の内容(雇い入れ直後、変更の範囲)
- 労働時間に関する事項(始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日、休暇等)
- 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
また、退職手当や賞与、昇給に関するものなど、会社ごとに異なる規則があるものも書面で明示することが望ましいです。
さらに労働基準法第14条では、労働者と有期労働契約を結ぶ場合は、契約更新の可能性の有無と、更新する・しないの判断基準を明記することが義務付けられています。
労働条件を明示しない場合、30万円以下の罰金が科される場合があるため必ず明記しましょう。
賃金に関する規定
賃金は、以下の5原則に沿って支払わなければなりません。これは労働基準法第24条で定められています。
この原則に違反した場合は、30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科されます。
支払うもの:通貨で
支払金額:全額を
支払回数:毎月1回以上
支払日:一定の期日に
支払方法:直接
ただし、所得税や住民税などの法令による税金や社宅費・昼食代など控除の対象となるものは、賃金から差し引き可能です。
また賃金は、最低賃金以上の金額を支払わなければなりません。最低賃金は、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類で、それぞれ各都道府県や業種ごとに最低賃金が異なります。
この最低賃金が適用されるのは、賃金の中の基本給と諸手当の部分です。最低賃金を支払わなかった場合は、30〜50万円以下の罰金に処せられることがあります。
引用:労働基準法のポイント
労働時間と休憩・休日に関する規定
労働時間は、労働基準法第32条で原則として1日8時間・週40時間以下と定められています。
ただし、映画、保健衛生業、接客娯楽業のうち労働者が常時10人未満の場合は、特例処置対象事業場として、1日8時間、週44時間が労働の上限です。
また休憩に関する規定は、1日8時間を超える労働の場合は少なくとも1時間、6時間を超える場合は少なくとも45分与えることと定められています。
休日に関しても、雇用主は少なくとも週1回、または4週間を通して4日以上の休日を労働者に与えましょう。
仮に上記の規定を守らなかった場合は、いずれも30万円以下の罰金または6か月以下の懲役となります。そのため、勤怠管理システムを利用するなど、労働時間を確実に把握できるようにしておきましょう。
年次有給休暇に関する規定
所定労働日が週5日以上で、雇い入れから6ヶ月継続して8割以上出勤した労働者には、最低10日の年次有給休暇を付与する必要があります。
有給休暇取得期間も、出勤日として取り扱われます。年次有給休暇の賃金は、以下の方法で支払いましょう。
- 平均賃金(直近3か月間の賃金の総額を、該当期間の暦日数で割った金額)
- 所定労働時間に労働した場合に、支払われる通常の賃金
- 健康保険法に定める標準報酬日額に相当する額(労働者の合意がある場合)
なお、年次有給休暇は雇用形態にかかわらず、短時間労働者に対しても所定労働日数に応じた日数を付与する必要があります。
有給休暇の取得は、事業の運営に支障が出るなど、正当な理由がない限り、取得を拒否したり取得日を指定したりすることは認められません。
2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇を付与する労働者に対して、年5日の有給休暇の取得が義務付けられました。違反した場合は、取得していない労働者1人につき30万円以下の罰金が科されます。
この改正により労働者が自ら取得しない場合のみ、雇用主側が時期を指定して取得させることが認められました。
時間外労働と割増賃金に関する規定
労働者に時間外労働をさせるには、36協定の締結が必要です。
改正前は、この協定を結べば上限なく時間外労働ができましたが、2019年4月の法改正により、時間外労働の上限が設定されました。この改正により、時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間までと定められています。
また、特別な事情がある場合でも以下を守らなければなりません。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が、2~6か月の平均で80時間以内
- 月45時間を超える時間外労働は、年6回まで
時間外労働に対する割増賃金率は、25%以上と定められています。ただし2023年4月から、中小企業に対する時間外労働の割増賃金率が、以下の通り変更になりました。
|
月次の時間外労働 |
中小企業 |
大企業 |
変更前 |
60時間以下 |
25% |
25% |
60時間超 |
25% |
50% |
|
変更後 |
60時間以下 |
25% |
25% |
60時間超 |
50% |
50% |
その他にも割増賃金率は、法定休日労働に対して35%以上、深夜労働に対しては25%以上の割増賃金の支払い義務があります。割増賃金を適用しなかった場合、30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科されます。
割増賃金の未適用を防ぐためには、管理職などに時間外労働の管理方法について実態調査を行ったり、周知を徹底したりしましょう。
解雇に関する規定
雇用主が労働者を解雇する場合、少なくとも30日前までに解雇予告をしなくてはなりません。30日以上前に予告を行わない場合は、解雇までの日数に応じて解雇予告手当を支払いましょう。
例えば解雇の20日前に予告した場合は、10日分の解雇予告手当の支払い義務があります。なお、30日以上前に予告した場合は、手当は必要ありません。
また、労働者に解雇理由の証明書を請求された場合は、遅滞なく「解雇理由証明書」を交付しましょう。この証明書には、使用期間・賃金・業務の種類・退職理由などを記載します。
労働基準法の効力
労働基準法には、強行法規として規定にそぐわない契約が無効になる効力や、罰則規定として違反を抑制する効力があります。
ここでは、それぞれの効力についてみていきましょう。
強行法規としての性質
労働基準法は強行法規といい、強制的に適用される規定です。具体的には、労働基準法に沿っていない労働契約は、労働者が承知していたとしても無効となります。
例えば、雇用主と労働者の間で1日の労働時間を10時間で契約していたとします。通常1日8時間労働で、それを超えた分は時間外労働として割増賃金が発生しますが、この契約内容では10時間までが時間内勤務です。
この場合、労働基準法が強制的に適用され、1日の労働時間を8時間とし、2時間分が時間外労働に修正されます。企業はこれに必ず従わなければなりません。これが強行法規としての役割です。
罰則規定の存在
労働基準法違反に対しては、罰金や懲役などの刑事罰が科される可能性があります。労働基準法は労働するうえでの最低条件を定める規定のため、これを下回る労働条件は認められません。
例えば前述したとおり、労働者に年5日の有給休暇を取得させなかった場合、違反した人数につき30万円以下の罰金が科されます。
また違反をして送検された場合、厚生労働省により企業名を公表される場合があります。企業名が公表されると社会や取引先からの信用を失うため、特に労働基準法に改正があったときは念入りに確認しましょう。
企業が労働基準法を遵守するためのポイント
労働基準法を遵守するポイントとして、就業規則の周知や労働時間管理の徹底が挙げられます。どちらも法律を遵守するのに欠かせません。
ここではそれぞれの内容について、以下で詳しく見ていきましょう。
就業規則の整備と周知
労働基準法第106条では、労働者へ就業規則の整備・周知の徹底が義務付けられています。企業は、労働基準法に準拠した就業規則を作成し、すべての労働者がいつでも確認できるようにしておきましょう。
労働者が規則を確認する方法として、職場の見やすい位置に掲示したり書面を交付したりする方法があります。
労働者が就業規則を把握することで、労使間のトラブル防止につながります。
労働時間管理の徹底
企業は、労働時間を客観的な方法で把握・管理することを徹底しなければなりません。客観的な方法としては、タイムカードやICカード、パソコン入力、勤怠管理システム等を使用します。
特に勤怠管理システムは、勤怠データを自動で集計・確認できるため、業務を大幅に効率化することが可能です。
労働時間を客観的に把握し、残業時間の超過や有給休暇の未取得などを未然に防ぎましょう。
労働基準法を正しく理解して健全な職場環境を作ろう
労働基準法とは、労働者の権利を守るための法律です。賃金・労働時間などに最低限の基準を設けており、これに沿わない企業独自の規則は無効となります。
労働基準法は、雇用形態を問わずほぼすべての労働者に適用されます。
この法律で定められているのは主に以下の通りです。
- 契約期間や労働時間に関する事項を明記した労働条件を明示する
- 賃金は地域別最低賃金・特定最低賃金を適用し、月1回以上通貨で一定の期日に直接労働者に支払う
- 労働時間は原則として1日8時間、週40時間
- 年5日の年次有給休暇取得義務
- 時間外労働は原則として月45時間、年360時間以内
- 解雇の場合、少なくとも30日以上前に予告し、それをしない場合は30日に達しない分の解雇予告手当を支払う
この法律に違反すると、罰金刑や懲役刑が科されます。そのため、就業規則の整備や周知、労働時間の管理を徹底するなどして、労働基準法を遵守しましょう。
これらを徹底することで、労使間トラブルの防止にもつながります。