外国人の労務管理とは? 重要性や注意すべきポイントを解説

外国人の雇用が増加するなか、企業は適切な労務管理を行うことが求められています。外国人の労務管理は、単なる人手不足対策ではなく、企業の成長戦略の一環として捉えるべき取り組みです。
本記事では、外国人の労務管理の重要性と、メリットや法的ポイント、文書・システム整備について解説します。外国人の雇用を考えている人事担当者は、ぜひ参考にしてください。

外国人の労務管理の重要性と企業へのメリット
外国人の労務管理を適切に行うことは、企業に以下のようなメリットをもたらします。
・イノベーションを促進する
・外国人雇用の戦略的価値を最大化する
・労務管理体制で業務効率化を実現する
ここでは、外国人の労務管理を行う重要性と企業へのメリットをそれぞれ見ていきましょう。
イノベーションを促進する
外国人を雇用することで、異なる文化や背景を持つ外国人の視点が加わり、社内にはなかった新たな発想やアイデアを生み出します。日本人だけでは気づかない製品の改良点や、海外市場のニーズを捉えることが可能です。
また、多様性を受け入れる組織文化が形成され、日本人社員の視野も広がることが期待できます。
しかし、外国人社員がその能力を十分に発揮するには、適切な労務管理が不可欠です。文化や価値観の違いを理解し、働きやすい環境を整えることで、イノベーションを最大限に引き出すことができます。
外国人雇用の戦略的価値を最大化する
外国人の雇用を単なる人手不足対策に留めるのではなく、戦略的価値を最大限に活かしましょう。海外展開や多様化する顧客ニーズへの対応など、事業戦略として位置づけることが大切です。
また、外国人社員の言語能力や母国とのコネクションを活かした、海外市場開拓が可能になります。専門性の高い外国人材が活躍できる環境を整えることで、企業の競争力向上につなげていきましょう。
労務管理体制で業務効率化を実現する
体系的な労務管理体制を構築することで、無駄な作業を削減し、法令違反リスクを回避できます。在留期限管理や各種届出をシステム化し、担当者の負担減と人的ミスを防止できるのです。
また、統一された管理基準を設けることで、担当者が交代しても一貫性のある労務管理が維持され、外国人社員の適切な雇用環境を継続的に確保できます。
外国人の労務管理で特に注意すべき法的ポイント
外国人の労務管理では、日本人とは異なる以下の法的要件があります。
・外国人雇用状況の届出を管理する
・在留資格と雇用手続きを正しく進める
・法令違反を防ぐチェックリストを活用する
ここでは、それぞれの法的ポイントについて詳しく見ていきましょう。
外国人雇用状況の届出を管理する
外国人を雇用する際、雇入れ日の翌月10日までに外国人雇用状況の届出をしなければなりません。
外国人雇用状況の届出には、以下の項目を正確に記載してください。
・氏名
・在留資格
・在留期間
・生年月日
・性別
・国籍・地域
・資格外活動許可の有無
・在留カード番号
・雇入れ年月日
記載漏れや期限超過は罰則の対象となるため、注意しましょう。また、外国人労働者の離職時にも離職日の翌日から10日以内に届出が必要となり、違反した場合は30万円以下の罰金が科せられます。
在留資格の確認と雇用手続きを正しく進める
在留カードで資格の種類や期限、就労制限の有無などを具体的に確認しましょう。在留資格ごとに認められる業務範囲が異なるため、従事予定業務が該当するか、事前確認が欠かせません。
在留期間の更新手続きは期限の3カ月前から可能で、更新スケジュールの管理が重要です。在留資格の確認と雇用手続きを正しく進めることで、法令違反のリスクを回避できます。
法令違反を防ぐチェックリストを活用する
定期的に、在留期限確認や労働条件の遵守状況をチェックする仕組みを作りましょう。在留資格や雇用契約内容、実際の業務内容の一致を定期的に点検することで、法令違反のリスクを未然に防げます。
資格外活動の場合は、週28時間の就労時間制限を厳守するシフト管理を徹底してください。チェックリストを活用した定期的なモニタリングが、法令違反防止に効果的です。
外国人の労務管理における労働条件設計のポイント
外国人の労務管理では、以下のように文化的背景の違いを考慮した労働条件の設計が求められます。
・客観的な労働時間管理と休暇制度の効率的な運用を行う
・労働条件を多言語で明示する
・適正な賃金設計と説明方法を確立する
ここでは、それぞれの労働条件設計のポイントについて詳しく見ていきましょう。
客観的な労働時間管理と休暇制度の効率的な運用を行う
国による時間感覚の違いを考慮し、明確な労働時間の区切りと休暇取得ルールを設定することがポイントです。始業・終業時間の認識の違いや休憩時間の使い方について具体的なガイドラインを示すことで、誤解を防げます。
さらに、母国の祝祭日に配慮した年次有給休暇の計画的取得の仕組みを整えることで、外国人社員の満足度向上にもつながります。
労働条件を多言語で明示する
母国語またはやさしい日本語で労働条件を説明し、質疑応答の機会を設けて理解度を確認することが大切です。
専門用語を避け、図表やイラストを活用して視覚的に理解しやすい資料を用意しましょう。労働条件の重要ポイントについては口頭でも説明し、理解度確認のQ&Aセッションを設けることで、トラブルを未然に防げます。
適正な賃金設計と説明方法を確立する
日本人と同等以上の賃金水準を確保し、控除項目などの仕組みを丁寧に説明することが求められます。基本給や諸手当の構成、昇給や賞与の仕組みを、具体例を用いて説明すると理解しやすいでしょう。
各種控除項目が発生する理由とメリットを説明し、手取り額と総支給額の違いを明確にすることで、外国人社員の納得感を高められます。
効果的な外国人の労務管理のための文書・システム整備
外国人の労務管理を効果的に行うためには、以下のような文書・システムの整備が不可欠です。
・労務管理ツールを効率的に活用する
・多言語対応の雇用契約書・就業規則を作成する
・労務関連書類を正しく保存・管理する
ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
労務管理ツールを効率的に活用する
多言語対応や自動リマインド機能を持つツールを活用することで、管理の手間と人的ミスを減らせます。
在留期限の更新アラート、勤怠管理、届出期限などを一元管理できるシステムを導入するのがおすすめです。クラウド型ツールを用いて、外国人社員自身がいつでもどこでも、スマートフォンから必要情報にアクセスできる環境を整えることで、業務効率化を図れます。
多言語対応の雇用契約書・就業規則を作成する
法的要件を満たしつつ、外国人社員が理解しやすい表現で、母国語版の雇用契約書・就業規則を用意しましょう。単なる直訳ではなく、その国の労働慣行や文化的背景を考慮した補足説明を加えると、より深い理解を促せます。
また、日本語版と外国語版で齟齬が生じた場合の優先順位を明記しておけば、万が一のトラブルを防止できるので安心です。
労務関連書類を正しく保存・管理する
在留資格関連書類は特に厳格な保管が必要で、デジタル化と適切なアクセス権限設定が求められます。
雇用契約書や各種届出書類の控えなどを、一元管理するファイリングシステムを構築しましょう。個人情報保護の観点から、アクセス権限を明確にし、必要に応じてデータを暗号化するなどの対策が不可欠です。
外国人の労務管理におけるコミュニケーションのポイント
外国人の労務管理では、文化的背景の違いを考慮した以下のようなコミュニケーションが求められます。
・文化的背景を考慮したフィードバックを行う
・言語の壁を超える業務指示を出す
・成功企業のコミュニケーション上の工夫を学ぶ
ここでは、それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
文化的背景を考慮したフィードバックを行う
国によってフィードバックの受け止め方が異なるため、具体的な事例と改善点を明確に伝えることが大切です。
日本特有の「察する」コミュニケーションではなく、明確かつ具体的な表現を使いましょう。否定的なフィードバックも前向きな改善提案として伝え、自尊心を傷つけないよう配慮することで、外国人社員の成長意欲を高められます。
言語の壁を超える業務指示を出す
口頭説明だけでなく、視覚的な資料や実演を組み合わせ、業務の理解度を確認しながら指導を進めましょう。
重要な業務指示はメールやチャットなどの文書でも伝え、後から確認できるようにするのがおすすめです。また、ピクトグラムや写真、動画などを活用し、言語に依存しない業務マニュアルを整備することで、言語に関係なく業務の流れをつかみやすくなります。
成功企業のコミュニケーション上の工夫を学ぶ
バディ制度や定期的な1on1ミーティングの導入により、言いにくい問題も早期に把握できる環境を作ることができます。
外国人社員と日本人社員の交流の場を定期的に設け、自然なコミュニケーションを促進するのが有効です。社内用語集や業界特有の表現をまとめた多言語対応の用語集を作成することで、コミュニケーションを円滑化できるでしょう。
外国人の労務管理で企業の可能性を広げよう
外国人の労務管理は、企業の成長戦略に欠かせない要素です。外国人社員と日本人社員の、互いの違いを尊重して学び合う文化を作り上げ、真のダイバーシティ経営を実現しましょう。
外国人材を単なる労働力ではなく、価値創造のパートナーとして位置づけることで、企業の可能性を大きく広げられます。外国人の労務管理に積極的に取り組み、多様性を活かした組織作りを進めることが、グローバル競争に勝ち抜くための鍵となるでしょう。