クラウドPBXで緊急通報は可能? 企業が知るべき規制と対策

クラウドPBXは利便性と柔軟性に優れた電話システムですが、緊急通報の取り扱いには注意が必要です。特に、クラウドPBXを導入したばかりの場合、緊急通報の取り扱いや対応が分からないことも多いでしょう。
本記事では、クラウドPBXにおける緊急通報の特徴や、企業が知っておくべき規制や対策などについて詳しく解説します。導入手順も参考にして、実践的な知識として役立ててください。
クラウドPBXの緊急通報は、種類によって利用可否が異なる
クラウドPBXにはさまざまなタイプがありますが、緊急通報の利用可否は種類によって異なります。
ここでは、IP電話タイプと光電話タイプの間にある、以下3つの利用可否の違いについて解説します。
- IP電話タイプでは、緊急通報を利用できない
- 光電話タイプなら、緊急通報が可能になる
- その他制限のある電話番号
IP電話タイプでは、緊急通報を利用できない
一般的なIP電話タイプのクラウドPBXは、発信者の位置情報が特定できないため、緊急通報機能を利用できません。これは総務省の規制により、位置情報を特定できないIP電話からの緊急通報が禁止されているためです。
この制限は、イタズラ通報の防止や正確な救助活動のために必要不可欠な措置として定められています。
そのため、IP電話タイプのクラウドPBXを利用する企業は、緊急時の代替通報手段を確保しておきましょう。
光電話タイプなら、緊急通報が可能になる
NTTのひかりクラウドPBXは、次世代ネットワーク(NGN)の活用により、緊急通報が可能です。次世代ネットワークを活用すると発信者の位置情報を特定でき、管轄の警察署や消防署への正確な通報ができます。
ただし、この機能を利用するには専用のIP電話機器の設置が必要となり、スマートフォンアプリからは利用できないので注意しましょう。
その他制限のある電話番号
1から始まる3桁番号(天気予報177、時報117)とナビダイヤル(0570)は、クラウドPBXからの発信が制限されています。これらの番号は緊急性は低いものの、多くの企業で日常的に使用される可能性がある番号です。
特にナビダイヤルは企業の問い合わせ窓口として広く使用されているため、代替手段の確保が重要となります。
クラウドPBXで緊急通報ができない場合の代替手段
ここまで、クラウドPBXの種類別に緊急通報の可否を解説しました。特に、IP電話タイプのクラウドPBXでは緊急通報ができないため、代替手段を確保しておきましょう。
クラウドPBXで緊急通報ができない場合の代替手段は、主に以下のとおりです。
- 緊急連絡先を事前に共有する
- 複数の通報手段を確保しておく
- 緊急時の連絡体制を整備する
ここでは、上記の手段について説明します。
緊急連絡先を事前に共有する
企業は緊急時に備えて、管轄の警察署や消防署の固定電話番号を、Web電話帳などで全社共有するのは有効な手段です。共有する電話番号は定期的に更新し、実際に発信可能か確認テストを行うことが推奨されます。
特に夜間や休日の緊急連絡先も含めて、24時間365日対応可能な体制を整えてください。連絡の流れを事細かにマニュアル化しておくことが重要です。
複数の通報手段を確保しておく
緊急通報に備えて、大手キャリアの携帯電話回線や固定電話を必ず設置しておく必要があります。特にコールセンターなど、スマートフォンの持ち込みが制限されている職場では、固定電話の設置が欠かせません。
停電時でも使用できる通信手段を確保し、定期的な動作確認を行うことが重要です。複数の通報手段を用意することで、どんな状況でも確実に緊急通報ができる体制を整えましょう。
緊急時の連絡体制を整備する
緊急時の初動対応から通報までの具体的な連絡フローと、各段階の責任者を明確に定める必要があります。通常の連絡ルートが使えない場合のバックアップ体制も含めて、複数の連絡経路を確保しましょう。
定期的な訓練を実施し、全従業員が緊急時の対応手順を理解していることを確認することも重要です。マニュアル化だけではなく、明確な連絡体制と定期訓練によって、いざという時に迅速かつ的確な対応ができます。
クラウドPBXの緊急通報に関する規制要件
クラウドPBXの導入には、緊急通報に関していくつかの法的要件を満たさなければいけません。
クラウドPBXの緊急通報に関する規制要件は、以下のとおりです。
- 電話番号取得のための住所要件を満たす
- 導入のための事前審査に対応する
- 通報機能の技術要件を確認する
ここでは、上記の規制要件について解説します。
電話番号取得のための住所要件を満たす
03番号を取得するためには東京23区内に、06番号には大阪市内に実在の事業所が必要になります。この規制は、詐欺や不正利用を防止するために総務省が定めた重要な要件です。
バーチャルオフィスや私書箱では要件を満たすことができないため、実態のある事業所が必要となります。番号取得時には、事業所の実在性を証明する書類の提出が求められるため、事前の準備が欠かせません。
導入のための事前審査に対応する
クラウドPBXの導入には、法人の実態確認や信用調査を含む1~2営業日程度の審査が必要です。審査では、法人の登記情報、代表者の本人確認、事業実態の確認などが行われます。
自己破産歴や未払いの有無なども確認対象となりますが、スタートアップ企業でも要件を満たせば、審査に通過できます。そのためには、審査に必要な書類を事前に準備し、スムーズに対応できるよう備えておくことが何より重要です。
通報機能の技術要件を確認する
緊急通報を行うためには、発信者の位置情報の通知機能と、管轄機関への接続機能が必須です。具体的には、管轄の警察・消防などの緊急通報受理機関への接続機能、発信者の位置情報通知機能、回線保留機能などがあります。
これらの機能は一般的なクラウドPBXアプリでは実装が難しく、専用機器が必要となる点には注意してください。導入前に選択するクラウドPBXサービスが緊急通報の技術要件を満たしているか確認し、必要機器も購入しておきましょう。
クラウドPBXと緊急通報を導入する手順
ここまで、クラウドPBXの緊急通報について解説しました。では、クラウドPBXと緊急通報はどのように導入すれば良いのでしょうか。
緊急通報のできるクラウドPBXは、以下の手順を踏んで導入することが大切です。
- 必要書類を漏れなく準備する
- 緊急時対応の手順を明確化する
- 従業員教育を計画的に実施する
ここでは、上記の手順をそれぞれ解説します。
必要書類を漏れなく準備する
クラウドPBX導入前に、履歴事項全部証明書や代表者の身分証明書などの必要書類を準備してください。法人の場合は登記簿謄本と代表者の身分証明書、個人事業主の場合は身分証明書と事業実態を証明する書類が必要です。
発行から3ヶ月以内の書類が求められるため、タイミングを考慮しつつ、余裕を持って準備しておきましょう。
緊急時対応の手順を明確化する
導入の前に、緊急時の代替通報手段と、通報までの具体的な対応手順をマニュアルとして文書化することが重要です。マニュアルには緊急時の判断基準、通報手段の選択方法、具体的な通報手順を明記しましょう。
定期的なマニュアルの見直しと更新を行い、常に最新の情報を維持する必要があります。明確な対応手順を整備して全従業員に周知徹底することが、実効性のある緊急時対応体制の構築につながるはずです。
従業員教育を計画的に実施する
最後に全従業員に対して、緊急時の代替通報手段の使用方法を定期的に研修する体制を整えましょう。新入社員研修や定期研修に緊急通報の手順を組み込み、実践的な訓練を実施します。
特に夜間や休日の対応者には、より詳細な研修と定期的なフォローアップを行うことが重要です。マニュアルだけでなく、実践的な従業員教育を行うことで、全社的な緊急時対応力の向上が期待できます。
クラウドPBXと緊急通報の対策をまとめて、安全な通信環境を作ろう
一般的なIP電話タイプのクラウドPBXでは、発信者の位置特定が不可能なため、緊急通報機能を利用できません。光電話タイプは位置特定が可能なため、緊急通報を利用できます。
そのため、クラウドPBXの導入と活用においては、緊急通報の制限を理解したうえで、複数の通報手段と明確な対応フローを備えた危機管理体制を構築することが重要です。定期的な訓練と体制の見直しにより、実効性のある緊急時対応体制を維持しましょう。
また、最新の技術動向や規制の変更にも注意を払い、必要に応じて体制を更新することも欠かせません。クラウドPBXにおける緊急通報の特性や法的要件、実践的な対策を講じることで、安全で信頼性の高い通信環境を実現しましょう。