ダイバーシティマネジメントのポイントとは? メリットや事例も解説
企業が市場における競争優位性を確立するためには、人材のパフォーマンスを最大化する仕組みが求められます。そこで重要となるのが「ダイバーシティマネジメント」と呼ばれる経営管理手法です。
本記事ではダイバーシティマネジメントの概要やメリット、行う際のポイントを解説するとともに、具体的な企業事例をご紹介します。
ダイバーシティとは
「ダイバーシティ(Diversity)」とは、直訳すると「多様性」を意味する概念です。主に人権問題や雇用差別などの領域で用いられる概念で、国籍や人種、性別、年齢、宗教観、ライフスタイルなど、人々の多様性を受け入れ、尊重し合うという考え方を意味します。
近年では事業領域においてもダイバーシティが注目を集めており、人材の多様性を活かして新たな価値創造に取り組むという考え方が重要視されています。
ダイバーシティマネジメントとは
ダイバーシティマネジメントとは、人材がもつ多様な個性を柔軟に受け入れ、多様性を活用して組織力の総合的な強化を目指す経営管理手法です。
組織に属する人材は年齢や性別などの目に見える違いはもちろん、キャリアやスキル、雇用形態といったビジネス上の違い、そして価値観、性格、性的指向といった目に見えないさまざまな違いがあります。
こうした個性や特性を融合して組織の活性化を図り、人材のパフォーマンスを最大化することがダイバーシティマネジメントの目的です。
ダイバーシティマネジメントが注目される理由
ダイバーシティマネジメントが注目を集めている背景には、さまざまな要因が複雑に関わり合っています。なかでも重要な要因として挙げられるのが「市場のグローバル化」と「少子高齢化による労働人口の減少」、そして「働き方の多様化」の3つです。
グローバル化した市場
現代はテクノロジーの進歩・発展に比例してグローバル化が加速しており、海外市場に進出する企業が増加しています。そのなかで競争優位性を確立するためには、さまざまな国籍や人種の人々と協力し合い、多彩なニーズに応えていかなくてはなりません。
国境を越えたグローバル規模の事業を展開する企業にとって、ダイバーシティマネジメントは必須の取り組みといえるのです。
少子高齢化による労働人口の減少
現在、国内の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに下降の一途を辿っており、生産年齢人口も1992年の69.8%を頂点として減少し続けています。現状のままでは国際競争力の低下や市場規模の縮小、医療費の増大といった社会問題が深刻化すると予測されます。
このような社会的背景からさまざまな分野で人材不足が加速しているため、労働力を確保するべく多様性を受容する組織体制の構築が求められています。
(参照元:平成27年版 厚生労働白書(p.4・p.25)|厚生労働省)
価値の多様性による働き方の多様化
これまで日本は滅私奉公の精神を美徳とし、休日出勤やサービス残業を是とする傾向にありました。しかし、働き方改革の推進も相まって、労働者の価値観は多様化しています。また、ニューノーマル時代に即した組織体制を構築する必要にも迫られています。
企業は多様化する人材ニーズに応え、人材獲得競争で他社に遅れを取らないためにも、ダイバーシティマネジメントへの取り組みが重要性を増しています。
ダイバーシティマネジメントを行うメリット
ダイバーシティマネジメントの実践によって得られる主なメリットは以下の4つです。
多彩な人材を確保
生産年齢人口の減少から生じる人材不足を解消するためには、いかにして労働意欲や貢献意識の高い人材を獲得するかが重要な課題です。
テレワーク制度やフレックスタイム制、あるいは短時間正社員制度などの多様な働き方を可能にすることで、育児や介護といった事情を抱える人材雇用を促進し、人材不足の解消につながります。
新しい価値の創造
モノに溢れる現代において、企業は競合他社との差別化を図ることが困難な時代となりました。さらに、日本企業は均質性が高い傾向にあり、イノベーションの創出がより困難となっています。
企業は国籍や年齢などの多様性だけでなく、価値観やスキル、経歴などが異なる人材を抱えているほうが、多様な消費者ニーズに柔軟に対応できます。また、様々な人材の相乗効果により、新たな市場価値を創造する可能性が高まります。
企業の評価向上
現代の企業経営では財務情報のみならず、社会や環境に対する非財務情報への関心が高まっています。また、ステークホルダーはCSRやESGへの取り組みを重要視する傾向にあります。
女性や障害を抱える人材の雇用は社会貢献としての側面もあるため、企業の社会的評価を高めるとともに、組織に属する人材のモチベーションやエンゲージメント向上につながる点が大きなメリットです。
経営陣の危機管理能力の向上
日本企業は極めて保守的で均質性が高いため、集団浅慮(グループシンク)が発生しやすい組織体制です。グループシンクに陥った組織は批判的に評価する能力が欠落するため、経営陣の危機管理能力が低下する要因になりかねません。
自社にダイバーシティを取り入れることで古い価値観に対する自浄作用が生まれ、経営陣の危機管理能力を高めたり、多様性という価値観を経営陣の中に育てることにもつながります。
ダイバーシティマネジメントの課題
ダイバーシティマネジメントは人材確保やイノベーションの創出、企業価値の向上など、さまざまなメリットを組織にもたらします。
しかし、企業文化の変革は容易ではなく、多くの企業が以下のような課題を抱えているのが実情です。
多様性を受け入れる意識の低さ
人間には未知のものを避ける「現状維持バイアス」という心理作用があり、基本的に変化を好みません。特に日本人は「人と同じ」を好む集団主義的な傾向があります。
ダイバーシティを単なる女性活用の推進と認識されるケースも多く、成長戦略としての重要性を理解できていない企業が少なくありません。
無意識の偏見による影響
人間は基本的に固定観念や先入観に捉われる生き物です。自分自身でも気付いていない偏った物の見方や歪んだ捉え方を「アンコンシャスバイアス」(無意識の偏見)と呼びます。
男尊女卑の精神やシニアへの偏見といった無意識の偏見が、ダイバーシティマネジメントの推進を阻害する大きな課題です。
ダイバーシティマネジメントを行う手順
ダイバーシティマネジメントを経営体制に取り入れる際は、以下のプロセスに則って施策を展開していきます。
シートに乗っ取ってダイバーシティ経営診断を行う
まずは自社の経営状況や企業文化を俯瞰的な視点から分析し、現状把握と必要な取り組みを明確化します。経済産業省が2021年に発表した「ダイバーシティ経営診断シート」に則って経営診断を行うことで、必要な施策や進むべき方向性を具体化できます。
9種類のカテゴリーそれぞれの設問に記入することで、自社の現状を見える化できます。回答はそれぞれの設問ごとにAとBのどちらに近いのかを4段階評価(「Aに近い」「ややAに近い」「ややBに近い」「Bに近い」)で行います。
たとえば「経営方針」のカテゴリーでは、A.新規事業の開拓を重視、B.既存事業の継続・強化を重視 の2つから、自社の経営方針がどちらにより近いかを評価します。
参照元:【改訂版】ダイバーシティ経営診断シートの手引き|経済産業省
経営目標にダイバーシティを落とし込む
ダイバーシティマネジメントを推進していく方向性を定めたら、次はそのビジョンを経営目標へと落とし込み、ゴールに到達するための具体的な戦略を策定します。
そして、自社が目指すビジョンや理念を組織全体で共有し、経営層と従業員が同じ方向へ舵を取ることが重要です。
経営者がダイバーシティマネジメントへのコミットを明確化していないのに、自然とダイバーシティが進むということはありません。
現場の制度や環境を整える
描いたビジョンを実現するためには、現場の制度や環境を再整備しなくてはなりません。
ダイバーシティマネジメントの実践は企業文化に変革をもたらす取り組みとなるため、業務プロセスや労働環境の見直し、あるいは教育・研修制度や人事評価制度の再構築といったアプローチが求められます。
ダイバーシティマネジメントを行うポイント
ダイバーシティマネジメントを実践する際は、以下のポイントを押さえることが重要です。
円滑なコミュニケーションを行う
人材の持つ多様性を活かす組織体制を構築するためには、お互いの違いや個性を尊重し合う組織風土を醸成しなくてはなりません。
そのためには、組織に属する従業員同士のコミュニケーションを活性化する仕組みや、心理的安全性の高いチーム作りといった職場環境を整備する必要があります。
MVVの浸透を行う
「MVV」は「Mission(使命)」「Vision(理想像)」「Value(価値)」の略称で、P・F・ドラッカー氏が提唱した企業経営の中核に置くべき指針です。
何のためにダイバーシティマネジメントを導入するのかという方向性を示し、MVVを浸透させることで多様性を受け入れる企業文化が醸成されます。
日本企業のダイバーシティマネジメント導入例
ダイバーシティマネジメントを経営体制に取り入れ、人材のもつ多様性を自社の事業領域に活用している企業事例をご紹介します。
選択人事が可能なIT企業の取り組み
ソフトウェア開発企業のS社では、ニューノーマル時代に即した労働環境を構築すべく、いかにして組織のワークライフバランスを充実させるかという課題を抱えていました。
そこで同社が取り入れたのが、「ワーク重視」と「ライフ重視」の働き方を選べる、選択型人事制度です。これにより、様々な人材の多様な働き方を支援する組織体制が確立されました。
管理職がダイバーシティを実行する情報通信企業の取り組み
大手SIerのN社は経営トップが多様性の受容を推進しており、働き方改革に基づくダイバーシティマネジメントを実践しています。
具体的には女性活用の推進や長時間労働の是正、年間総労働時間の定量化などの目標を設定し、その達成度合いを評価に反映する仕組みを構築しました。
その結果、女性管理職者数の増加や育児休職からの復職率の増加といった成果の創出につながっています。
まとめ
ダイバーシティは「多様性」と直訳される概念です。ダイバーシティマネジメントは人材の個性や特性を融合して組織の活性化を図る経営管理手法です。
市場のグローバル化や少子高齢化が進展するなかで、企業が市場の競争優位性を確立するためには、多様な人材を最大限に活用する仕組みが必要です。
新しい時代に即したイノベーティブな経営体制を構築するためにも、ダイバーシティマネジメントの実践に取り組んでみましょう。
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