ポリコレとは? 言葉の意味や重要性について解説
ポリコレとは、特定の属性を持った人々に、不快感や不利益を与えないための言葉遣いや表現方法を指します。ポリコレを適切に実践することは、多様性を尊重し、誰もが暮らしやすい社会を実現するための第一歩になります。企業として、そして社会の一員として理解を深めることが重要です。
本記事では、ポリコレの基本的な概念から、企業が取り組む意義、実際の事例、行き過ぎたポリコレの弊害まで、幅広く解説していきます。
ポリコレ(ポリティカルコレクトレス)とは?
ポリコレとは、「ポリティカルコレクトネス(political correctness)」の略称です。特定の属性を持った人々に、不快感や不利益を与えないための言葉遣いや表現方法を指します。
具体的には、言葉選びや使い方に注意を払い、人種、性別、年齢、宗教、障がいの有無などに関わらず、すべての人々を尊重し、差別的な意味合いを含まないように配慮します。また、特定のグループを排除したり、不利な立場に置いたりするような言動を控えることも大切です。
ポリコレが注目される理由
ポリコレが注目されているのは、現代社会における多様性の尊重と包括性の実現に不可欠な要素だと考えられているためです。
現代社会では、グローバル化の進展に伴い、さまざまな文化や価値観を持つ人々が共生するようになりました。このような環境下において、多様性を尊重し、すべての人が自分らしく生きられる社会を築くことの重要性が認識されるようになっています。
ポリコレは、こうした多様性を受け入れ、推進するための要素として注目を集める概念です。
人々の多様なバックグラウンドを理解し認め合うことで、誰もが能力を最大限に発揮できる環境が整います。また、差別や偏見のない社会を実現することで、社会的な調和や安定性が高まると期待されています。
ポリコレの具体例
ポリコレは、人種、性別、宗教、年齢など、さまざまな側面において配慮が必要とされています。ここでは、それぞれの分野における具体的な事例を見ていきましょう。
人種や出生に関わる表現
人種や出生に関する表現は、ポリコレにおいて特に大切な領域の1つです。
過去には、特定の人種や民族を指す言葉が、差別的な意味合いを持つことがありました。そのため現在では、以下のように別の表現に置き換えられつつあります。
かつて使われていた表現 |
現在使われる表現 |
---|---|
black(黒人) |
アフリカ系アメリカ人 |
インディアン(北米の先住民族) |
ネイティブアメリカン |
これらの変化は、特定の人種や民族に対する偏見や差別を助長しないための配慮であり、すべての人々の尊厳を守るための取り組みと言えるでしょう。
性別や性自認に関わる表現
性別や性自認に関わる表現も、ポリコレの重要な側面の一つです。職業名や呼称などにおいて、男女の区別をすることは差別につながる可能性があるため、注意が必要とされています。特に、以下のように特定の性別を連想させる表現は、徐々に使われなくなってきています。
かつて使われていた表現 |
現在使われる表現 |
---|---|
看護婦 |
看護師 |
スチュワーデス |
客室乗務員 |
また、「くん」や「ちゃん」といった呼び方も、性別による区別にあたります。個人の性自認にも配慮する必要があるため、基本的に「さん」で統一するのが望ましいとされています。
宗教に関わる表現
宗教に関わる表現においても、ポリコレの観点からの配慮が求められます。過去には、特定の宗教に対する差別的な言動が見られることがありました。
しかし、現代社会では、信仰する宗教の違いによる差別は許容されません。自分とは異なる宗教を信仰する人々の感情を考慮し、不快感を与えるような発言は控えるべきでしょう。
また、宗教的なシンボルや慣習についても、その意味を理解し、尊重することが求められます。
このように、宗教に関わる表現においても、多様性を認め、互いを尊重し合うことがポリコレの基本的な考え方なのです。
年齢や出生に関わる表現
年齢に基づく差別的な言葉遣いや、出生地による偏見を助長するような表現も避けるべきでしょう。
例えば、高齢者を指す際に「老人」という言葉を使うことは、「老い」というネガティブなイメージを与える可能性があります。そのため、「シニア」や「高齢者」といった、より中立的な表現が好まれます。
また出生地に関しても、「外人」といった言葉は、「日本人」との対比において排他的な印象を与えかねません。代わりに、「〇〇出身の方」や「〇〇国籍の方」といった表現を使うことで、個人の尊厳を尊重することができます。
企業がポリコレに取り組むべき理由
ポリコレは、単に社会的な要請に応えるためだけのものではありません。企業がポリコレに積極的に取り組むことには、さまざまなメリットがあります。ここでは、その主な理由について見ていきましょう。
企業の評価向上
企業がポリコレに取り組むことは、社会的責任を果たすという点で評価され、企業イメージの向上や、ブランド価値の増大にも貢献すると考えられます。
また、多様性を尊重し、差別や偏見のない職場環境を整備することで、従業員の満足度や帰属意識が高まり、生産性の向上にもつながるでしょう。
消費者や投資家からも好意的に捉えられ、より多くの消費や投資につながる可能性もあります。
多様な人材の確保
ポリコレを推進することは、多様な人材の確保にも役立ちます。日本社会では少子高齢化が進行しており、労働力不足が深刻な問題となっています。このような状況下において、企業の成長には年齢や国籍に関わらず優秀な人材を確保することが不可欠です。
ポリコレに積極的な企業は、さまざまなバックグラウンドを持つ人々を受け入れる姿勢を示していることと同義です。
これにより、多様な人材が集まりやすくなり、グローバルな視点やイノベーティブな発想を取り入れることができます。
また、年齢に関わらず能力を評価する姿勢は、シニア層の活躍の場を広げることにもつながります。
多様性を尊重する企業文化は、優秀な人材を惹きつける大きな要因となるのです。
ハラスメントの抑制
ポリコレへの取り組みは、ハラスメントの抑止にも効果的です。差別や偏見を許容しない企業文化を醸成することで、パワハラやセクハラなどの発生を未然に防ぐことができます。
ハラスメントが発生した場合、被害者の心身の健康が損なわれるだけでなく、企業イメージの悪化や、訴訟リスクの増大にもつながります。ポリコレを徹底することで、これらのリスクを最小限に抑えられるのです。
また、ハラスメントのない職場環境は、従業員の安心感や信頼感を高め、仕事への意欲を向上させます。結果として、生産性の向上や、優秀な人材の定着にもつながるでしょう。
企業がポリコレを導入する際に気をつけるべきこと
ポリコレを企業に導入する際、注意すべきポイントは以下のとおりです。
- 求人広告の文言や表現に配慮する
- 採用時には男女雇用機会均等法を遵守する
- 人事評価で差別が起こらないようにする
- ハラスメント対策を行う
- 企業のSNSの発言に気をつける
- 自社の商品やサービスの内容に配慮する
数多くあるように見えますが、どれも少し注意を払えば十分対処できるものです。それぞれの観点からチェックすべき部分を把握して、スムーズにポリコレの導入ができるよう努めましょう。
求人広告の文言や表現に配慮する
求人広告は、企業の姿勢を社会に向けて発信する重要な機会です。性別や年齢などを理由に、応募者を限定するような表現は避けるべきです。
例えば、「ウェイター」や「ウェイトレス」といった性別を連想させる職業名は、男女を問わず「ホールスタッフ」などの中立的な表現に置き換えることが望ましいです。
「女性向きの職種」といった表現も性別による職種の固定化を助長するため、使用は控えるべきでしょう。
採用時には男女雇用機会均等法を遵守する
採用プロセスにおいては、男女雇用機会均等法の遵守が求められます。
この法律は、性別を理由とする差別を禁止し、男女の平等な機会と待遇の確保を目的としたものです。以下のようなシーンで、性別による差別的な扱いをしてはならないとされています。
- 募集・採用
- 配置
- 昇進・降格
- 教育訓練
- 福利厚生
- 職種・雇用形態の変更
例えば、合理的な理由なく、一方の性別に不利な条件を設定することは、性差別に該当する可能性があります。男女雇用機会均等法を遵守することは、ポリコレの実現に必要不可欠です。企業は法律の趣旨を理解し、適切に実践することが求められます。
人事評価で差別が起こらないようにする
人事評価の基準や方法に偏りがないよう努める必要もあります。特定の属性を持つ従業員が不当に低く評価されるなど、差別的な結果を招く恐れがあるからです。
人事評価は、性別、年齢、国籍、人種、宗教などの属性に関わらず、一人ひとりの能力や実績に基づいて公正に行われることが重要です。評価基準や方法は、透明性と客観性を確保し、従業員に明示することが求められます。
そのためには、評価者に対する研修や教育を通じて、無意識の偏見が評価に影響しないよう注意喚起することも大切です。多様性を尊重し、公正な評価を実現することで、従業員の納得感や満足度を高め、組織の活性化につなげることができるでしょう。
ハラスメント対策を行う
ハラスメント対策は、ポリコレを推進する上で欠かせない取り組みの一つです。パワハラやセクハラは、被害者の尊厳を傷つけ、働く意欲を奪ってしまいます。2020年6月には「パワハラ防止法」も施行され、多くの企業がハラスメント防止に向けた対策を強化しています。
具体的には、下記の対策が挙げられます。
- ハラスメントに関する社内規定の整備
- 相談窓口の設置
- 従業員向けの研修の実施
ハラスメントが発生した場合の対応方針を明確化し、適切な措置を取ることも重要です。
ポリコレの推進とハラスメント対策は密接に関連しており、両者を一体的に進めることで、より効果的な結果を得ることができるでしょう。
企業のSNSの発言に気をつける
近年、多くの企業が公式SNSアカウントを運用するようになりました。X(旧Twitter)やInstagram、公式LINEなどを通じて、企業は消費者とダイレクトにコミュニケーションができます。
しかし、不適切な発言によるトラブルが起きないよう注意しなければいけません。SNSは不特定多数の人々が閲覧する公共の場でもあり、企業アカウントの発言は企業の姿勢を表明するものとして受け取られます。
そのため、ポリコレの観点から見て問題のある発言は、炎上やレピュテーションリスク(企業価値・信用の低下)につながる可能性もあるのです。
企業は、SNS運用ガイドラインを策定し、投稿内容のチェック体制を整備することが求められます。また、SNS運用の担当者が発言の影響力や拡散力を考慮し、慎重な言葉選びを心がける必要があるでしょう。
自社の商品やサービスの内容に配慮する
企業が提供する商品やサービスについても、ポリコレの観点からの検討が欠かせません。商品名やキャッチコピー、広告表現などに差別的な要素が含まれていないか、十分に確認する必要があります。
例えば、特定の人種や民族をステレオタイプ化するようなデザインや表現は避けるべきでしょう。また、「女性はきれいでいるべき」「男性はたくましくあるべき」といった性別に基づく固定観念を助長するような宣伝文句なども、ポリコレの観点から問題があると言えます。
商品やサービスの開発段階から、多様な視点を取り入れ、幅広い層に受け入れられるような配慮が求められます。
ポリコレに取り組んだ企業の事例
実際にポリコレに取り組み、成果を上げている企業の事例を紹介します。他社の取り組みを参考にすることで、自社におけるポリコレ推進の方向性を検討できるでしょう。
三菱鉛筆株式会社
三菱鉛筆株式会社は、2000年9月以降に製造された色鉛筆の色名を「はだいろ」から「うすだいだい」に変更しました。これは、「はだいろ」という名称が特定の肌の色を連想させ、肌の色に対する固定観念を助長する可能性があるという指摘を受けたことがきっかけです。
同社は、株式会社トンボ鉛筆、株式会社サクラクレパスとも協議の上、業界全体で「うすだいだい」への変更を進めました。この取り組みは、ポリコレの観点から高く評価され、他の文具メーカーにも影響を与えています。
エーザイ株式会社
医療用医薬品を中心とするグローバル製薬企業であるエーザイ株式会社は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を重要な経営戦略の1つに位置づけています。同社は、多様な人材が活躍できる職場環境の整備に力を入れており、女性活躍推進やLGBTQ支援などに取り組んでいます。
また、グローバルタレントマネジメント制度を導入し、国籍に関わらず優秀な人材を登用する体制を整えました。こうした取り組みを通じて、エーザイ株式会社は、多様なステークホルダーとの関係性を強化し、変化する環境下でも持続的な成長を実現しています。
行き過ぎたポリコレによる弊害「ポリコレ棒」とは?
ポリコレは、多様性を尊重し、差別や偏見のない社会を実現するための重要な概念ですが、行き過ぎた適用は逆効果をもたらす可能性があります。ポリコレを理由に自称正義(独善)を振りかざして他者を攻撃することを、「ポリコレ棒」と呼びます。過剰なポリコレの主張が、かえって対立を生み出すことがあるのです。
以下では、ポリコレ棒の事例を見ていきましょう。
言葉狩りや言論弾圧
ポリコレを過剰に適用することで、表現の自由が制限されるケースがあります。例えば、アメリカのテレビ局では、クリスマスの時期に使われる、キリスト教のあいさつ「メリークリスマス」を使わず、「ハッピーホリデイ」「シーズンズ・グリーティングス」という季節のあいさつに置き換えるようになりました。
これは、キリスト教徒以外の人々への配慮から来ている変更ですが、行き過ぎると表現の多様性が失われる恐れがあります。また、ポリコレに反するとして、特定の言葉や表現を使用した個人や団体を過度に攻撃するケースも見られます。
しかし、相手の意図を汲まずに一方的に非難することは、建設的な議論を妨げ、社会の分断を招く危険もあるでしょう。ポリコレの本来の目的は、多様な価値観の共存にあります。行き過ぎた言葉狩りや言論弾圧は、その目的に反するものと言えるでしょう。
ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチは、特定の個人や集団に対する差別的な発言や、憎悪を煽動する行為を指します。人種、国籍、思想などを理由に、相手を攻撃したり、排斥したりすることは、明らかにポリコレの理念に反するものです。
しかし、ヘイトスピーチを全面的に禁止することは、基本的な人権である表現の自由を侵害するという考え方もあります。
ポリコレとヘイトスピーチの境界線は、時に曖昧になることがあります。個人の尊厳を守りつつ、表現の自由を確保するためには、慎重な議論と合意形成が不可欠です。
やりすぎな結果、つまらないと感じてしまう人が増える
過剰なポリコレの適用は、かえって表現の多様性を損ない、人々の興味や関心を失わせる恐れがあります。例えば、ゲームやアニメなどのコンテンツにおいて、登場人物の性別や容姿が過度に均一化されると、キャラクターの魅力が減退してしまう可能性があります。
また、ポリコレを理由に、特定の表現や言葉を一律に規制することは、創作の自由を阻害しかねません。その結果、画一的で魅力に欠けるコンテンツが増加し、人々が「つまらない」「面白くない」と感じる状況を招く恐れがあるのです。
ポリコレは、多様性を尊重するための指針ですが、行き過ぎた適用は逆効果をもたらします。表現の自由とのバランスを取りつつ、柔軟な対応が求められると言えるでしょう。
まとめ
ポリコレとは、特定の属性を持つ人々への差別や偏見を防ぐための言葉遣いや表現方法のことです。現代社会では多様性の尊重が重要視されており、ポリコレへの取り組みは企業にとっても欠かせないものとなっています。
また、適切なポリコレの実践は、企業イメージの向上や優秀な人材の確保、ハラスメントの抑止などにつながります。
求人広告やSNS発信、商品開発などあらゆる場面において、ポリコレの観点を取り入れていきましょう。ただし行き過ぎたポリコレの適用は、個人の尊厳が守られなくなったり、表現の自由を制限したりする恐れがあります。
ポリコレを導入する際はその本質的な意義を理解し、自社の事業や文化に適した形で実践しましょう。