総務のあり方。「総務部門での情報共有とは」
総務から会社を変えるシリーズ
情報の三つの段階
今も昔も、企業では情報共有が必要とされています。同じ企業に属しているのであれば、「情報を共有しておくことは当然である」と言われます。しかし、この情報という言葉、かなりざっくりとしていませんか? 情報には深さがあります。事実やデータ、仕事にまつわるナレッジ、そして暗黙知の世界のスキルやノウハウ。今回は情報を三段階に分け、その共有の仕方を考えてみましょう。
情報共有。企業においてこの言葉を聞かないことはありません。同じ企業に属しているのであれば当然必要とされる、情報の共有。しかし、どのような情報を共有すれば良いのか、立ち止まって考えることはほとんどないのではないでしょうか?
企業内にどのような部署があり、そこに誰がいるのか。そのような企業内の情報もさることながら、業界の状況やライバル企業の動向、はたまた世界の動き。そのような企業外部の情報もあります。情報には広がりと深さがあります。
深さには三段階あります。一つ目が、先に記した企業内外の事実やデータ。二つ目が、企業に属するメンバーが必要とする業務にまつわるナレッジ。三つ目が、暗黙知とも言われる業務にまつわるスキルやノウハウ。
データ、ナレッジ、ノウハウと、だんだんと目に見えない言語化しにくい情報となっていきます。そして、同じ手段で共有することができない性質の情報となっていきます。共有どころか、その情報がどこに存在するのかさえも分からない情報となっていきます。
情報共有。その目的、その意味合いには何ら問題はありません。どしどし進めるべきでしょう。しかし、実際に情報共有を進める場合は、情報の深さのレベルに合ったそれぞれの方法で進めない限り、共有は難しいでしょう。
第一段階:事実やデータの共有
企業内の出来事やイベント、企業業績に関するデータ。企業内の部署の状況や所属メンバー。これらの情報共有は、社内コミュニケーション・メディアを通じて行われることが多いでしょう。
社内コミュニケーション・メディアの調査報告書においても、社内広報の目的を聞いた設問の第一位は「社内の情報共有」となっています。これら第一段階の情報はどこに存在するかは明白であり、その情報源から主管部署、例えば広報部などが的確に情報を取り出すことができれば、難なく情報提供、情報共有はできるでしょう。
しかし、どこに情報があるかは明白なのですが、その情報源となる人が必ず提供してくれるかどうかが問題となることがあります。情報源となる人自身が情報の取捨選択をしてしまう場合があるのです。社内報の世界では、情報は「通信員」が持っています。各部署に通信員が任命され、所属部署のニュースを社内報編集部に提供する役回りです。
「各部署のニュースを送ってください」。このように依頼をすると、その通信員にとってのニュース、その部署でのレアな出来事を選択して情報提供してしまうのです。実は、その部署にとっては普通の出来事が、他の部署にとってニュースとなる場合があるのです。
ですから、事実やデータについては、情報源となる人自身の価値判断を交えずに淡々と提供してもらうことが必要となります。情報の取捨選択は、第一段階の情報を取りまとめて共有する主管部署に委ねることが大切です。
第二段階:ナレッジ
第一段階の事実やデータは、企業内のメンバーであれば誰もが理解できるものです。しかし理解はできますが、それを理解することで自らの業務が効率化されたり、進化する類のものではありません。この第二段階のナレッジは、業務に直結する情報となります。
第一段階の情報よりはるかに専門的な情報となります。暗黙知と言われるものに近く、目に見える形でどこかに格納されている情報ではありません。つまり、どこに存在するかが明白ではない情報となります。
例えば、ある業界に在籍した経験から学んだ知識、特定の部署が必要としている情報カテゴリー、自社が属する業界の動向を推測する視点など、各自が業務の体験から学んだオリジナルの情報です。
この段階の情報は、誰が持っているのかを自己申告してもらわないことには、どこに存在するかが全く分かりません。また、各自のオリジナルの、そして各自の財産でもありますから、簡単には提供してくれないこともあります。
社内コミユニケーション・メディアでできることがあるとしたら、人物事典を作り、得意な業界や過去の業務経験を記載し、あるナレッジを必要としている人がその人物を訪ねていける仕組みの構築でしょう。
専門性が高いナレッジであるがゆえに、また経験値が整理整頓されていないケースもありますから、このようなナレッジと明記できるものでもありません。この範囲の経験がある、というところから探り当てる情報共有となるでしょう。
また、経験値から導き出されたものですので、その経験というバックグラウンドを外してエッセンスだけ取り出しても、意味が通じない場合もあります。ですから、形式知化つまり誰もが理解できる文章の形にするには、しっかりとした取材のもと、ある程度文章作成に手慣れた人が取りまとめないと使えない物になってしまうかもしれません。
第二段階のナレッジは、誰が持っていそうか心当たりを明記して、必要な人が直接聞きに行ける情報を提供してあげることがポイントとなります。
第三段階:暗黙知
第三段階の情報であるノウハウやスキル。これは、保有している本人も、意識してその情報を持っている場合でないこともあります。無意識のうちにそのノウハウを活用している場合もあるということです。ですから、誰が持っているかを集約することは難しい類の情報となります。
第二段階のナレッジと同様に、あるいはそれ以上に、実際の業務経験から習得することなので、先の人物事典と同様に過去、現在の業務経験を記してもらい、そこから辿っていくことになる情報です。
誰が持っているかという視点ではなく、逆に、必要としている人からノウハウの供出を呼びかけるほうが現実的かもしれません。「このようなことで業務が行き詰まっています。誰か助けてくれませんか」。そのような呼びかけです。
ただ前提として、そのような呼びかけに協力してくれる社風がないと、呼びかけに応じてもらえないかもしれません。ノウハウを提供した人には、人事的に評価されるとか表彰されるとか、メリットがないと難しいかもしれません。
最も業務に役に立つこのノウハウ。共有するには、社風まで変えていかないと実現できない、かなり難易度の高い情報です。
「情報共有」と簡単に表現しても、その中身を深く掘り下げていくと、必要な情報ほど、簡単には共有されないことが理解できると思います。