総務の仕事。「社内コミュニケーション活性化、企業規模による違い」
総務から会社を変えるシリーズ
バックグラウンドを理解する
社内コミュニケーション活性化について回を重ねてきました。最後に、企業規模による違いについて少しお話ししたいと思います。
同一組織内で仕事をする場合、その人間関係から逃れることはできません。嫌な上司、気が合わない同僚、言うことを聞かない部下がいたとしても、会社を辞めない限りは一緒に仕事をせざるをえません。しかし、企業規模が大きい場合は、異動により全く異なる部門に配属され、全く異なる人間関係の中で仕事ができる可能性があります。一方、中小企業の場合、規模が小さくなればなるほど異動がない場合もあり、異動したとしても同じ室内、同じメンバーで仕事をするケースのほうが多いと思います。この人間関係からは、会社を辞めない限り逃れることはできません。
ただ、嫌な人間関係も、実はその人のバックグラウンドを理解することで緩和されることが多いものです。考え方が合わないのは、その人の考え方が理解できずに表に出た言葉だけで判断してしまうから、という場合も少なくありません。
「オフサイトミーティング」。聞いたことがある方も多いと思います。会社を離れ、気軽にまじめな話をする場を通じて、お互いのバックグラウンドを知り、協力できる関係作りを目指すものです。チームビルディングの一環として行うケースも多いと思います。その最初のプログラムで「自分語り」、端的に言えば濃密な自己紹介をするケースも多いと思います。
まずは自分の生い立ちから、現在の仕事に就くきっかけ、自分に影響を与えた出来事など、その人を知る手かがりを、時間をかけて話します。その人の考え方、思考回路のバックグラウンドを知ることのできる場です。バックグラウンドが理解できれば、なぜいつもあのような発言をするのか、その疑問が氷解していきます。相互理解が進み、腹を割って話もできるでしょう。本音で語っても怖くない関係が築けます。
中小企業であれば、全員とオフサイトミーティングが可能です。全員と本音で話せる関係が構築できれば、「全員と協力する関係」も実現できます。経営トップとも濃密な関係が築けるでしょう。トップが積極的にリアルなコミュニケーションを取り、思いを伝えていけば、おのずとベクトルの統一が図られるはず。全員と接触することが可能な中小企業では、このようなオフサイトミーティング的な交わりの場を積極的に開催し、関係強化に努めると良いでしょう。
会話のきっかけを提供
既にご紹介した社内報などの社内コミュニケーションメディアの活用も有効です。こうしたものにはコミュニケーションのきっかけを提供する役割があります。コミュニケーション、平たく言えば会話ですが、会話が成立するには、2人以上の人間とネタが必要となります。話しかけるネタがあれば、その人と会話をしようと思います。ラーメン好きだと分かれば「今度、美味しいラーメン屋さんに行きませんか?」との投げかけから会話が始まるでしょうし、子供が生まれたという情報があれば「おめでとう!」と声をかけられます。ですから、社内報などにはプライベートを紹介する定番コーナーが存在します。この企画を通じて、会話のきっかけを提供しているのです。
このようなプライベートを紹介する企画は、大企業なら「誰、この人?」という結果になりかねません。会話のネタを提供しても、その人を知らない、あるいはその人と出会うことがない、という場合もあります。大企業の社内報担当者と話をすると、人物紹介をする際、なぜその人を紹介するかという大義名分が必ず必要であると言われます。数多い社員の中から、なぜこの人を登場させるのか。一度も社内報に登場することのない社員も多い中、その明確な理由がないと取り上げづらいというのです。
一方、中小企業の場合は「誰、この人?」とはなりにくいでしょう。人物紹介で皆が登場する可能性があるとなれば、特段明確な理由もなく、ただ順番に取り上げるということでも問題ありません。むしろ積極的に人物を取り上げ、会話のネタを数多く提供すべきでしょう。全員と出会う場面があるのですから、その出会いの場がさらに盛り上がるプライベートネタを提供したいものです。
ある関西の不動産会社の社内報。社内報コンクールのゴールド企画賞の常連企業です。社員数は100人ちょっとで、この会社の社内報担当者の悩みは、社員がお互いのことを知りすぎていること。つまり、社内報にみんなが知っているような情報を掲載しても、読んでくれないのです。社員も知らないような情報を提供して初めて「おもろい! よう調べたなあ」と喜ばれるのです。
それはそれで大変でしょうが、それだけお互いのことを知っていれば、先に記した協力できる関係も構築されているはずです。中小企業であれば、組織や体制より個人にフォーカスした企画で、個人の本音やプライベートなどを詳しく社内報に掲載していくことで会話が盛り上がり、さらにお互いの関係性が深まっていく、そんなきっかけとしていきたいものです。
中小企業は、冒頭に記したように、その会社を辞めない限り逃れられない関係ではありますが、逆に深い関係性を築くことのできる組織でもあります。であるならば、個々人の深い情報を提供したり、深い関係性を構築できる場を全員で共有することで、大企業では難しい、社員全員との心地良い関係作りが可能となるはずです。
時代は知識経済社会、新たな着想が必要となります。いわゆるイノベーションです。イノベーションは組み合わせの世界です。それぞれが持っている知識を組み合わせ、掛け合わせて新たな取り組みとして結実させていくのです。であれば、多様な人が多様な人とコミュニケーションを取り、その対話の中で新たなものが生み出されていくのです。そうなると、心理的安全性が担保された中で、多くのコミュニケーションが必要となるのです。ぜひ、社内コミュニケーション活性化施策を実施し、多くのコミュニケーションが生まれるようにしていきたいものです。総務が行う施策が会社を変えていく、まさに戦略総務的な動きにつながっていくのではないでしょうか。