総務の仕事。「社内コミュニケーションでイノベーション」
総務から会社を変えるシリーズ
コミュニケーションからイノベーションへ
前回ご紹介した、コミュニケーションの深化。量とともに質が高まると、次に目指すべきはイノベーションの創発です。イノベーション、新規事業、新たな取り組み。今、会社としても、組織としても求められています。既存事業だけでは売り上げが伸びず、競争が激化しているからです。組織としても、従来通りの方法ではさらなる効率化ができず、生産性を上げない限り利益の確保が難しくなってきているからです。
「両利きの経営」という言葉が、経営の世界では有名です。既存事業の深化とともに、新たな事業の創発です。既存事業で足元を固め、余裕のあるうちに新たな事業に投資する。特に、アイデア勝負の昨今、新たな取り組み、イノベーションが必要とされているのです。そして、イノベーションが生まれる状況を作るのが、総務の重要なミッションとなっています。
今、オフィスの世界では、イノベーションを起こす土壌を作ろうとする「クリエイティブ・オフィス」というコンセプトが主流です。 ホワイトカラーの創造性を高めるオフィス作りです。誰がどこで仕事をしているかが見えるオフィス。会議室もガラス張りとなっています。マグネットポイントと呼ばれるコピーやプリンターを一か所に集めた場所や、コーヒーサーバーが置かれている場所も増えています。このような場で、偶発的なコミュニケーションを生み出そうとしているのです。
イノベーションは、このような偶発的なコミュニケーションにおいて生まれるとされています。ふとしたきっかけで交わした会話からヒントが見つかるのです。ですから、専門分野の違う人たちの間でなされる、インフォーマル・コミュニケーションから得られるインスピレーションを数多く生み出す努力がされているのです。
総務にも必要な社外人脈
専門分野の違う人とのコミュニケーションが必要であったとしても、そのような人たちにどのように出会うか、という問題があります。社内なら、そのような人を探し当てて連絡を取れば出会うことはできるでしょう。しかし社外となると、そう簡単にはいきません。
そこで、自分の武器を作るのです。私の場合、総務に関する知識と経験、社内報、社内コミュニケーションに関する知識と経験が武器となっています。これらの知識や経験を上手にPRすることで、それらを必要としている専門の異なる人たちと出会うことができるのです。
世の中、オリジナルのコンテンツや専門的なコンテンツを持っている人の周りには、他分野の専門家やユニークな人が存在します。これらの人がそれぞれコンテンツの補完をしながらグループを形成していきます。
私は社内報の制作が得意だけれど、会社案内の制作は不案内。こんな場合は、会社案内の専門家と組むことで、二人で社内外の広報媒体に対応できます。あるいは、私は総務が得意だけれど、人事が不得意。それなら人事の専門家と組むことで、二人で総務と人事をカバーできます。
このようにして他の専門分野の方と出会い、双方が双方の人脈となっていくのです。ですから、他の専門分野の方と競い合える専門性があると、それが磁石の働きをして、他の専門家と引き合わせてくれるのです。これが他の専門家と出会う一つの方法です。
総務パーソンも同様です。自らの専門性を磨き、それを武器に人を引き付ける。何にでも対応する一方で、ある分野を深掘りしていく。そして、それを求心力として他の社内の専門家を引き付け、補完し合いながら仕事をしていく。そんな社内コンサルタントになることも、一つの総務のあり方だと思います。そのためにも、自らの武器を磨く必要があるのです。
人脈の意味
「人脈作り」「あの人の人脈はすごい」。このような話をされることも多いかと思います。よくよく聞いてみると、単に名刺交換しただけとか、一度お話ししただけという場合も、人脈というカテゴリーに入れている方がいます。
しかし本当の人脈とは、双方にとって有用な人であり、双方にとって「使える」人である場合です。先の例で言えば、私は社内報、あなたは会社案内。それぞれが専門知識を持っている場合、双方が双方にとって有用な人脈として存在することになります。
ですから、相手を知っているだけでは人脈とは言えず、相手はあなたのことを何とも思っていない、というケースもあるのです。単に知っているだけではなく、何を提供できるのかという視点で見直した場合、どれだけ人脈と言える人が存在するでしょうか。
「自分にはそんなに知識もないし、経験もない」と言う方がいます。しかし真剣に仕事をしていれば、その期間が短かったとしても、何らかのナレッジや知識を持っているものです。その知識や体験が豊富な人と比べると「貧弱」に見えるかもしれませんが、未経験の人にとっては、数年の経験であっても、それは豊富な経験となるのです。
つまり、PRする相手を選べば、自らの知識や経験が専門性を持っているということになり得ます。大事なことは、経験豊富な人と比べるのではなく、客観的に自らの経験や知識を棚卸して、それを持たない人に対してPRするのです。そうすれば、そのターゲットにとっては、あなたは有用なコンテンツを持つ有用な人脈として存在できるのです。
その武器を持って、あなたと畑の違う専門家と補完関係を築いていけば、専門の異なる人との出会いとなって、そこで冒頭に説明した新たな取り組みの「ネタ」を見つけることができるのです。
イノベーションや新たな取り組みには、今までなかった組み合わせというパターンもあります。今回ご紹介したのは、専門が異なる人との組み合わせ、掛け合わせによるイノベーションです。自らの武器を新たに発見して、自らが持たない武器の保有者と出会い、その交わりの中から新たな取り組みを探していく。これが今を乗り切る一つの方法ではないでしょうか。