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総務の仕事。「コロナ禍で変わる、BCP」

総務から会社を変えるシリーズ

総務の仕事。「コロナ禍で変わる、BCP」

この記事の著者
株式会社月刊総務 代表取締役社長   戦略総務研究所 所長 

BCPの実態

パンデミックに大きな地震、台風に大規模水害と、企業を取り巻くリスクは近年その種類と頻度が増えているように感じます。特にパンデミックの体験は、多くの企業でBCPを見直すきっかけとなりました。今まで経験、実施してこなかった在宅勤務。新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの企業が在宅勤務を余儀なくされました。今まで在宅勤務を経験していなかった人も多かった一方で、一度経験してみると案外仕事もでき、生産性も高まった人もいたことでしょう。東京五輪を目指してもなかなか進まなかったテレワークがここにきて一挙に進み、ハイブリッドワークとして定着しそうです。ピンチがチャンスとなって表れた好例ですが、その一方でほころびが見えてきた側面もあります。BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)です。

まずBCP策定の実情ですが、『月刊総務』でアンケートを行いBCPの策定状況を尋ねたところ、「策定済み」は38.9%と約4割にとどまり、「策定中」が25.9%、「まだ策定していないが策定予定である」が24.1%と続いています。また、策定済みの企業に対してどんなリスクを想定してBCP対策をしているか尋ねたところ、「自然災害(地震、水害等)」が97.8%と断トツとなり、新型コロナのようなパンデミック(インフルエンザ、新型ウイルス等)は58.3%と2位となりました。

わが国は地震国であり、近年の台風や夏の豪雨などの自然災害の激甚化が念頭にあり、この点は意識が高いようです。過去に今回のようなパンデミックを経験していないわが国では、今回のコロナ禍のようなことはあまり想定しておらず、自然災害を念頭に置いたBCPの半分よりも大幅に多い結果となりました。経験していないので対処方法も想定できず、結果、BCPとして取り組めていなかったのではないでしょうか。

BCP対策ができていない企業にその理由を尋ねたところ、「策定するノウハウやスキルがない」が62.7%で最多となりました。「策定する時間が取れない」が59.7%、「策定する人材がいない」が46.3%と続いています。BCPの策定は、従来の防災対策だけではなく、全社を巻き込み、経営判断も仰ぎながら作成する“全社活動”となります。当然、知識も必要で、何より社内調整という膨大で煩雑な作業が必要となります。

この点がネックとなり、策定に踏み切れない企業が多いのだと思います。また、BCPは一度策定したら完成というものではなく、環境変化、自社の変化を織り交ぜながら、毎年見直していく必要もあり、終わりのない仕事という点も、なかなか手が付けられていない企業が多い理由でしょう。


BCPの見直し

9割超の企業が、「BCP対策を見直す必要性を感じている」としています。続いて、コロナ禍を経験してBCPに対する意識はどう変わっていったのかを見てみます。BCP策定済み企業において、新型コロナの感染拡大を通じて、自社のBCP対策をどう評価するか尋ねたところ、「見直す必要性を感じた」が91.7%と、ほとんどの企業が自社のBCP対策について改善点を見いだしていることが表れています。先に触れたように、今までこのように大きな被害を招いたパンデミックを経験していないので、あくまで「想定」の中で策定したBCPにほころびがあり、改善の必要性を痛感した結果となりました。

一方で、BCPを策定していなかった企業においては、感染拡大を受けてBCPを策定しておけばよかったと感じたか尋ねたところ、「とてもそう思う」「まあまあそう思う」を合わせて82.6%と、BCP未策定企業のほとんどが新型コロナを機にBCP対策の必要性を感じたようです。

今後、どんなリスクに対してBCP対策が必要だと思うか尋ねたところ、「パンデミック(インフルエンザ、新型ウイルス等)」が87.0%で最多、「自然災害(地震、水害等)」は86.6%と、微妙な差ではありながら断トツだった自然災害を感染症対策が抜く結果になりました。今後はこのような感染症が5年おきに発生するとする専門家もいるくらい、ある意味でパンデミックは自然災害と同じように普通のことだと認識した方がよいでしょう。

では、これまでの自然災害と違い、感染症対策を見据えた場合に有効となるBCP施策はどういったものなのでしょうか? BCP策定済みの企業に、コロナ禍で役立ったBCP対策を尋ねたところ、「テレワーク制度の整備」が51.2%で最多、「従業員の安否確認手段の確立」が36.9%、「緊急時の指揮命令系統の確立」が35.7%と続きました。


テレワークとBCP

一方、新型コロナウイルス感染症拡大に際して「やっておけばよかった」と思うBCP対策について尋ねたところ、「テレワーク制度の整備」が66.4%で最多、「情報の電子化(ペーパーレス化等)」が57.8%、「業務システムのクラウド化」が43.8%と続きました。今回のパンデミックにおいては、何より在宅勤務が必要でした。人との接触を回避する手段として、出社せずに事業継続するには在宅勤務しかありません。いろいろと取材して感じることは、在宅勤務にすんなり入れたところは、日頃からITを使いこなしてそもそもペーパーレスという環境下で仕事をしていた企業と、在宅勤務をBCPの一環として日頃から訓練していた企業でした。一方、介護や育児への対応のために一定の条件の従業員だけが使える制度として在宅勤務制度があった企業は、なかなか苦労したようです。

今回の調査では、自然災害やパンデミックを含め、どこでも仕事ができる状態を構築しておくことが、企業継続に欠かせないことが明確になりました。デジタルトランスフォーメーション(DX)が声高に叫ばれ、日本国政府も脱ハンコを含めDXの推進に本気になってきています。今までなかなか進まなかったわが国のDXを進めれば進めるほど、災害に強い国、企業が構築されていくと思われます。仕事の効率化、生産性向上もさることながら、DXの推進が「災害に強い企業」を作ることを考えれば、攻めと守りの両面からDXを推し進めていく必要が明確となったのが、今回のコロナ禍といえるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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総務の在り方、総務のプロとは

戦略総務の実現の仕方・考え方

総務のDXWithコロナのオフィス事情

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