オペレーティングリースの活用
節税などの対策として「オペレーティングリース」という言葉を聞くことがあるかもしれません。
しかし、内容が良く分からないという事業者の方も多いかもしれません。
今回は「オペレーティングリース」の仕組みや活用方法、利用するメリットとデメリットなどを詳しく解説していきます。
1.オペレーティングリースとは?
オペレーティングリースは、リース取引の一つの形態になります。
リース取引を大別すると「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分けることが出来ます。ここではそれぞれのリースについて説明します。
(1)ファイナンスリース
ファイナンスリースの特徴として、次の2点が挙げられます。
ノンキャンセラブル
ノンキャンセラブルとは「途中解約が出来ない」ことを意味します。
これは「初めから途中解約が出来ない定めになっている」または「途中解約をした場合、相当の違約金がかかり実質的に解約出来ない」状態であることです。
フルペイアウト
企業会計基準第13号リース取引に関する会計基準5項によると、フルペイアウトとは、「借手が、リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引」と定義されています。
具体的に説明すると、リースで借りているものを使って得た収益は全て自分のものであり、故障などの維持費用も自分で払わなければなりません。
(2)オペレーティングリース
オペレーティングリースは、ファイナンスリースのような「ノンキャンセラブル」「フルペイアウト」のような要件はありません。
つまり、途中解約が自由であり、契約期間に応じたリース料を支払い契約期間が終わったらリース資産を返却することが一般的です。
節税対策において日本版オペレーティングリースという表現をされることも多いですが、これはオペレーティングリースの仕組みに匿名組合という契約形態を組み合わせたものになります。
2.日本版オペレーティングリースの活用方法
日本版オペレーティングは節税や株価引き下げのために利用され、スキームは下記の通りです。(今回は航空機を購入するケースを想定します)
- リース会社が匿名組合を立ち上げて、航空機の購入資金を集めるために投資を募る(法人投資家から投資が不足している場合は金融機関から借入を行う)
- 集まった資金にて匿名組合が航空機を購入する
- 購入した航空機を航空会社に貸し出す
- 匿名会社は航空会社からリース料を受け取る
- リース料を出資割合に応じて投資家に分配する(金融機関から借入した場合は支払利息及び元本返済に充当する)
- リース期間満了時に航空会社は航空機を買い上げ、利益が投資家に分配される
日本版オペレーティングリースのスキームにおいて重要な点は以下のようになります。
- 航空機などの対象物件の所有者は匿名組合のままであること
- 対象物件は航空機、船舶、コンテナなど購入に多額の費用を要するものであること
- 貸出先から得られるリース料は毎年かかる減価償却費用よりも少なく設定すること
- 減価償却費計上にあたり定率法にて計上すること
日本版オペレーティングリースが節税対策や株価引き下げに利用される理由は、初年度に多額の減価償却費を損金計上できることです。
日本版オペレーティングリースにて購入する物件は、航空機や船舶、コンテナなど購入費用に多額の資金が必要になることが特徴です。航空機や船舶などは一社で購入するにはあまりにも多額であるために、投資家から資金を集めて対象資産を購入します。
対象となる物件を購入した際には、会計処理において減価償却をする必要があります。
日本版オペレーティングリースにおいては、対象物件はリースされますが、所有者は匿名組合のままになります。
このため、減価償却を実施する必要があるのは、所有者である匿名組合です。ここで一つ疑問が生じます。減価償却を実施するのは匿名組合ですが、節税対策や株価引き下げ対策で利用したい企業は投資家になります。
これについては、オペレーティングリースにおける会計処理を説明する必要があります。
次章で詳しく解説していきます。
3.日本版オペレーティングリースの会計処理
ここでは具体的な会計処理について説明します。
(1)匿名組合におけるオペレーティングリースの流れ
匿名組合は投資家から資金を集めて航空機などの設備を購入しリースを行います。
匿名組合はリース料を受け取り、収益として計上します。
一方、航空機などの設備は匿名組合の資産であり、減価償却は匿名組合にて費用計上します。対象資産は航空機など高額な資産であることから、減価償却も多くなることが通常です。
また、定率法によって減価償却することもポイントになります。定率法で減価償却する場合は、購入初年度が最も減価償却額が大きくなる特徴があります。
よって、購入初年度において匿名組合は大幅な赤字計上することが見込まれます。
(2)匿名組合の特徴
日本版オペレーティングリースの初年度において匿名組合は大幅な赤字計上が見込まれます。
しかし、匿名組合は法人格を持っていないために、匿名組合自体に法人税などが課されるわけではありません。この場合、パススルー課税という制度が適用され、投資家に対して出資割合に応じて課税されます。
具体的な例を挙げ会計スキームを説明します。
- 匿名組合にて100億円の赤字計上
- 匿名組合から投資家に対して、投資割合に応じて損失分配金として通知される
(例 匿名組合から投資家に対して、1億円の損失分配金である旨通知される) - 投資家の決算において、損失分配金1億円が損金として計上される
- 投資家にて損失分配金1億円分の利益圧縮が見込める
4.事業承継における日本版オペレーティングリースの活用方法
日本版オペレーティングリースは、事業承継対策に使われることが多いです。
具体的な事例を挙げて説明していきましょう。
- 業績好調なA社は、毎期黒字計上し潤沢な純資産を保有しています。しかし、現代表者は70歳を超えて、早急に事業承継対策が必要です。
- A社は社長の長男を後継者として考えています。事業承継を行う場合、社長の肩書の変更と共に会社の株式を長男に移す必要があります。ここで、問題となることはA社の株価が高く、株式名義を長男に移した場合、多額の贈与税がかかることです。
事業承継対策としては、A社の株価を引き下げる必要があります。ここで、日本版オペレーションリースが活用されます。
A社は日本版オペレーションリースに投資します。そして、A社決算において匿名組合の損失分配金を損金計上します。
この場合、A社決算において大幅な赤字を敢えて計上させます。これによりA社の純資産は減少し、株価引き下げをすることが出来ます。
このタイミングでA社は代表者変更を行います。A社は大幅な赤字を計上し株価が引き下げられているため、後継者の贈与税を減らすことが可能になります。
またオペレーティングリース終了時にも節税対策として活用することが出来ます。
オペレーティングリース契約は期間を定めて行います。匿名組合はオペレーティング期間終了後には投資物件をリース先に売却を行い、その売却代金も投資割合に応じて投資家に分配します。
この場合、売却代金は投資家の収益として計上されます。
先ほど例に挙げたA社において、代表者変更のタイミングで先代社長を会長職に移行したとします。
オペレーティング終了時に会長職を退任し、役員退職金を受け取った場合は、損金である役員退職金と益金であるリース売却代金の配当を相殺することが出来るため節税効果が十分に見込めます。
5.日本版オペレーティングリース活用の注意点
日本版オペレーティングを活用するメリットを説明してきましたが、デメリットもありますので説明します。
(1)リース先の倒産リスク
日本版オペレーティングリースにおいては、航空機や大型船舶などを扱うためリース先も大手企業になります。投資先としては比較的安定した企業になりますが、倒産するリスクもあるために当初予定していた分配金を得られない可能性があります。
日本版オペレーティングリースは元本保証が無い商品のために、購入時には投資先などに留意する必要があります。
(2)為替リスクがある
リース資産は海外製品のものが多く、ドルなど外貨建てで買い付けします。
リース期間が終了し売却する際に、円高のケースでは資産が目減りしている可能性があります。
日本版オペレーティングリースは契約期間が長いため、売却時の為替相場によって売却価格が大きく変わる可能性があります。
6.最後に
今回は、オペレーティングリースの活用について説明してきましたが、いかがだったでしょうか。現在、銀行などでもオペレーティングリースを節税対策として紹介しており、一般的な投資商品として認識されてきています。
ただし、オペレーティングリースの仕組みやメリット・デメリットを理解しないで投資すると、思わぬ落とし穴があるかもしれません。
この記事がオペレーティングリースを選択する際に、役立つことを願っています。
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