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過労死ラインの残業は何時間まで? 企業が取り組むべき3つの対策

監修者:西岡社会保険労務士事務所 代表  西岡 秀泰

過労死ラインの残業は何時間まで? 企業が取り組むべき3つの対策

過労死ラインとは、健康障害が発生するリスクが高まる時間外労働時間の目安のことです。

厚生労働省の資料によると、過労死ラインといわれる残業時間の目安は、「発症前1か月間におおむね100時間」または「発症前2〜6か月間にわたっておおむね80時間」とされていますが、上限を超えなければ問題ないわけではありません。

出典:過労死をゼロにし、 健康で充実して 働き続けることの できる社会へ

企業には、過労死の原因や種類、過労死を防ぐための対策について理解を深め、従業員を危険な長時間労働から守る義務があります。

本記事では、過労死ラインの残業時間や企業が取り組むべき3つの対策を、わかりやすく解説します。


過労死ラインとは?

まずは、過労死ラインの目安と、長時間労働が健康に及ぼす被害について解説します。限度を超えた残業は、身体・精神の両面で従業員の健康に影響する恐れがあります。

過労死ラインとは、健康に悪影響を及ぼす恐れがある残業時間のこと

過労死ラインとは、過労死などの健康障害が発生するリスクが高まる時間外労働時間の目安です。

過労死は、業務における「過重な負荷による脳血管疾患や心臓疾患(以下、脳・心臓疾患)を原因とする死亡」と「強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺」に大別できます。

長時間労働によって脳・心臓疾患の発生リスクが高まることから、厚生労働省が労災認定の基準として「脳・心臓疾患の認定基準」を設けました。この基準を、一般に過労死ラインと呼びます。

過労死ラインといわれる残業時間の目安

過労死ラインといわれる残業時間の目安は、「発症前1か月間におおむね100時間」または「発症前2〜6か月間にわたっておおむね80時間」です。

「脳・心臓疾患の認定基準」では、上記を超える残業は、脳・心臓疾患の発症と強い関連性が指摘されています。つまり、基準を超えた残業後に、脳・心臓疾患が発症した場合、労災と認定される可能性が高いということです。

また、残業時間は月45時間を超えて長くなるほど、発症との関連は強くなるとされています。そのため、過労死ラインさえ守っていれば問題ないというわけではありません。

長時間労働が原因で起こり得る健康被害の例

長時間の残業によって起こり得る健康被害は、脳・心臓疾患だけではありません。

疲労の蓄積や睡眠不足により注意力が散漫となり、通勤中に交通事故を起こしたり、作業中に誤って事故に巻き込まれたりすることもあります。

また、長時間労働によって、うつ状態になることもあるでしょう。さらに、パワーハラスメントや仕事の失敗といった業務上の心理的負荷に長時間労働が重なり、精神障害を引き起こすこともあります。

厚生労働省の「精神障害の労災認定基準」においても、長時間労働が精神障害発病の原因になり得るとしています。


過労死ラインは2021年9月から改正

ここでは、2021年9月に改正された過労死ラインの詳細を見ていきましょう。改正により、不規則な勤務や過酷な作業環境といった、労働時間以外の負荷要因と労災の関係性が認められるようになりました。

過労死ラインの改正ポイント

「脳・心臓疾患の認定基準」は、最新の医学的見地を踏まえて2021年9月に改正されました。主な改正点は次の通りです。

1. 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して、労災認定することを明確化

労働時間以外の負荷要因とは、不規則な勤務や過酷な作業環境などのことです。

過労死ライン未満の残業でも、これに近い残業がある場合や、労働時間以外の負荷要因がある場合に労災が認められやすくなりました。

2. 労働時間以外の負荷要因の見直し

休日のない連続勤務や勤務間インターバルが短い勤務、心理的負荷を伴う業務などが、労働時間以外の負荷要因に加わりました。

3. 業務と発症との関連性が強いと判断できる場合の明確化

発症直前の「短期間の過重業務」や、人身事故などの「異常な出来事」などが、発症と関連性が強いと判断できるケースとして明確化されました。

これらの改正により、労災認定される範囲が広がるとともに、認定基準がより明確になりました。

過労死ラインを超えた場合の企業に対する罰則

過労死ラインを超えて従業員に残業をさせた場合、企業には労働基準法違反で6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。さらに、従業員が過労死した場合、遺族に対する損害賠償金額が数千万円になるケースもあります。

また、従業員に残業させるには法律上、一定の手続きが定められています。それが「36協定」と「特別条項」です。

36協定とは、従業員に「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超える労働をさせる場合、事前に労働者の代表と締結する労使協定のことです。残業が必要な理由や1日当たりの残業時間などを定めて、労働基準監督署長に届け出なければならないと定められています。

36協定で定める残業時間には「1か月45時間、1年360時間」などの限度があり、これを超えると労働基準法違反になります。

また、臨時的な特別の事情と労使の合意があり、特別条項付きの36協定を締結すれば、上記の限度を超える残業も可能です。

ただし、特別条項があっても残業できるのは「月100時間未満」または「2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月当たり80 時間以内」で、それを超えると労働基準法違反になります。


過労死および健康被害を防ぐために、企業ができる対策

過労死から従業員を守るために、企業はどのような対策をするべきなのでしょうか。ここでは、具体的な対策を3つ紹介します。

1. 長時間労働をさせない

月45時間を超えて長くなるほど発症との関連は強くなることや、労働時間以外の負荷要因も関連することを考慮して、極力残業を抑えましょう。過労死ラインを守っていれば良い訳ではありません。

また、労働時間を正しく把握することも重要です。上司の指示または従業員自身の判断による隠れ残業があれば、残業の実態が把握できなくなります。そうなると、長時間労働防止対策自体が無意味なものになります。

2. 異常を早期に発見する体制を整える

定期的にメンタルヘルスチェックを行い、従業員が体調に異変を感じたときにすぐに相談できる窓口(人事・総務の担当部署や産業医など)を設けるなど、異常を早期に発見する体制を整えましょう。

また、36協定による残業の上限や会社の長時間労働防止対策、健康管理対策などを周知徹底することによって、従業員の健康に対する意識が高まります。

3. 休暇・休養が取れる体制を整える

2019年4月から、「年5日以上の年次有給休暇(以下、有給)の取得」が企業に義務付けられましたが、この基準は法律上の最低ラインです。企業は、可能な限り有給を取りやすい環境を整備しなければなりません。

また、毎日一定時間の休養を確保するためには、「勤務間インターバル制度」が有効です。勤務間インターバル制度とは、終業から翌日の始業までの間隔を一定時間以上空ける勤務体制です。


過労死ラインについてのまとめ

過労死ラインの残業時間や、企業が取り組むべき3つの対策をわかりやすく解説しました。

過労死から従業員を守るために、厚生労働省は企業に対して、労働基準や労働安全管理に関する法令の遵守に取り組むことを求めています。

法改正も実施されていますが、厚生労働省の「令和2年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」によると、近年、脳・心臓疾患は減少傾向にありますが、精神障害は増加傾向にあるといいます。

従業員が心と身体のバランスを取りながら活き活きと働けるよう、企業は常に仕組みを整え、現状に合わせて制度を改善していくことが大切です。

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監修者プロフィール

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西岡 秀泰

西岡社会保険労務士事務所 代表

生命保険会社に25年勤務し、FPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。
2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
得意分野は、人事・労務、金融全般、生命保険、公的年金など。

【保有資格】社会保険労務士/2級FP技能士

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