財形貯蓄制度とは? 種類や導入メリット、デメリットをわかりやすく紹介
財形貯蓄制度は企業の福利厚生のひとつです。求人募集の福利厚生欄にもよく記載されているので、ご存じの方が多いでしょう。
この記事では、財形貯蓄制度の概要と3種類の制度について紹介します。
企業が財形貯蓄制度を導入した場合に、どんなメリットやデメリットがあるのかをわかりやすく解説します。
財形貯蓄制度とは
財形貯蓄制度とは、勤労者の給与から一定額を天引きし、事業主から金融機関へと送金する制度のことです。
国と事業主が勤労者の計画的な資産形成を支援するためにつくられた、勤労者財産形成促進制度の一部です。
この制度の根拠となるのは勤労者財産形成促進法です。第7条において、事業主は勤労者が勤労者財産形成貯蓄契約等を締結しようとする場合に、協力する必要がある旨が記されています。
なお、この制度が利用できるのは、財形貯蓄制度を導入中の事業主が雇っている勤労者であれば、その雇用形態は問いません。正社員に限らず、アルバイトや契約社員など非正規雇用であっても利用できます。
ただし、最低積立期間が満たされなければならないので、長期的に雇用される予定のある勤労者に限定されます。また、会社員だけでなく、公務員や船員もこの制度の対象になります。
一方、この制度を利用できないのは、自営業や自由業で働く人々、法人の役員、制度を導入していない会社で雇われている人です。
財形貯蓄制度の3つの種類
財形貯蓄制度は、資金を積み立てる目的別に一般財形貯蓄、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄という3種類があります。
制度ごとに最低積立期間や加入条件が定められていますので以下で確認しましょう。
一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)
一般財形貯蓄は、積み立てたお金の使い道が自由な貯蓄のことです。
最低でも3年の積立期間が必要で、加入・契約できるのは財形貯蓄制度を導入している事業主が雇用している人です。残りの2種類と異なり、契約数については特に制限がないので、複数の金融機関と契約できます。
財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)
財形年金貯蓄は、積み立てたお金の使い道が老後の資金に限定される貯蓄のことです。
貯めたお金は、60歳以上になったときに5年以上の期間にわたって年金として受け取れます。最低でも5年の積立期間が必要で、加入・契約できるのは55歳未満の人です。
ほかの財形との併用は可能ですが、1人1契約なので複数の金融機関とは契約できません。
財形住宅貯蓄(勤労者財産形成住宅貯蓄)
財形住宅貯蓄は、積み立てたお金の使い道が、自分が住む家の購入やリフォームのための資金に限定される貯蓄のことです。貯蓄したお金を頭金に使用すれば、住宅ローンの負担を軽減できるでしょう。
積立期間として5年以上が求められ、55歳未満の人が加入・契約の対象です。1人1契約なので複数の金融機関とは契約できません。
財形貯蓄制度導入のメリット
財形貯蓄制度を自社に導入したときのメリットは、事業主の立場と勤労者の立場で異なります。
事業主のメリット
事業主のメリットとしては、主に以下の3つがあげられます。
人材確保や勤労者の定着率向上
財形貯蓄制度を導入すれば、福利厚生をパワーアップできます。求人情報サイトや求人情報誌、ハローワークなどを用いて人材を募集する際のアピールポイントとなるでしょう。
福利厚生を手厚くすることは、優秀な人材を確保するのに効果的です。勤労者が転職せずに、自社に定着する割合を高めることにもつながります。
業務生産性の向上が期待できる
勤労者が貯蓄意識を持つことによって、お金をたくさん貯めるためにもっと頑張って働こうと、勤労意欲が高まります。
それにより業務生産性の向上が期待できます。
事業主への負担が少ない
導入する際に事務手続きをする必要はあるものの、基本的に事業主への費用負担は発生しません。事業主が貯蓄の一部を負担する必要はなく、手数料も不要です。
事業主は少ない負担で、費用をかけずに福利厚生を充実させられます。
勤労者のメリット
勤労者のメリットとしては、主に以下の3つがあげられます。
貯蓄を自動化でき、目的外でも引き出し可能
勤労者は確実に、無理なく貯蓄できます。賃金から天引きされるので貯蓄を自動化でき、貯蓄のためにわざわざ銀行に足を運ぶ手間などもいりません。
また、一般財形貯蓄については使い道が自由なので、必要なときには目的を問わず貯まったお金を引き出すことができます。
その他の財形貯蓄については、使い道が決められていますが、目的外でも引き出し自体は可能です。
ただし、その場合には、以下に述べる利子の優遇措置がなくなることを覚えておきましょう。
一部、利子が非課税となる措置がある
財形貯蓄制度には、一部、利子が非課税となる措置があります。
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄は、決められた使い道で利用する場合に、2つの貯蓄を合わせた預け入れ額と利子の合計が550万円まで、利子等にかかる税金が免除されます。
ただし、財形年金貯蓄で保険型の商品を選択した場合には、払い込みベースで385万円までが非課税枠となります。
使い道が自由な一般財形貯蓄には、利子の非課税措置はありません。
住宅ローンが使用できる
1年以上、いずれかの財形貯蓄を行って50万円以上貯蓄し、要件を満たせば、住宅の購入やリフォームの際に財形持家転貸融資を利用できます。
財形持家転貸融資とは、財形貯蓄を行っている勤労者が使える長期低金利の住宅ローンです。融資利率が借入日から5年経過ごとに見直される5年間固定金利制で、4,000万円かつ実際にかかる費用の90%相当以内を限度に貯蓄額の10倍まで借りられます。
中小企業の勤労者、自然災害で被災した勤労者、18歳未満の子供がいる勤労者であれば、はじめの5年間はさらに低金利で利用できるという特例もあります。
財形貯蓄制度導入のデメリット
事業主側には、特に大きなデメリットはありません。しかし、勤労者側は以下のようなデメリットがあるので、加入前に理解してもらう必要があります。
まず、財形貯蓄制度は全ての会社で利用できるわけではありません。
財形貯蓄を行っている勤労者が退職した場合、2年以内に財形貯蓄制度を導入している会社に転職したうえで継続手続きを取らないと解約になってしまいます。そうすると目的外の引き出しとして扱われ、せっかく非課税措置を受けていても、過去5年にさかのぼって課税されることになります(一般財形は除く)。
また、保険や投資信託のようにリスクのある商品を選ぶと、預けた金額よりもお金が減ってしまう元本割れの可能性があります。そもそも利率が低いと利子がほとんどつかないため恩恵を受けにくいのもデメリットでしょう。
財形貯蓄制度の導入方法
制度の導入手順を簡単に述べると、まず取扱金融機関を選定し、労使協定を締結して社内規定を作成した後、勤労者へ説明して募集を行うという流れになります。
導入時の注意点としては、目的外の引き出しや転職時の取り扱いなどの仕組み・デメリットについて、事業主から勤労者によくアナウンスしておくことです。
また制度を利用中の人が退職した場合には、退職後半年以内に事業主が「退職等に関する通知書」を金融機関に提出する必要があります。
制度を廃止する場合には、事業主の都合で勝手に廃止すると、法律で禁止されている不利益変更にあたる可能性があるので、不利益を埋め合わせる代替案の提示などを行わなければなりません。
まとめ
財形貯蓄制度は、費用をかけずに福利厚生をパワーアップできる、事業主へのメリットが大きな制度です。
一方、勤労者にも、自動的に貯蓄ができて長期低金利の住宅ローンが借りられる、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄では利子の非課税措置を受けられるなどのメリットがあります。
仕組みをよく理解したうえで制度の導入を検討しましょう。