財形貯蓄とは? 会社側のメリット・デメリットや制度を解説
財形貯蓄(制度)とは、従業員の財産づくりを支援する福利厚生の一種です。
従業員の給与やボーナスから企業が決まった金額を天引きし、提携する金融機関に払い込む制度のことで、従業員の財産形成を目的としています。財形貯蓄(制度)には、いくつかの種類があり、場合によっては利子が非課税になるなどのメリットがあります。
本記事では、財形貯蓄の制度や種類、従業員側と会社側のメリットをわかりやすく解説します。
財形貯蓄(制度)とは?
財形貯蓄(制度)とは、従業員の財産づくりを支援する福利厚生の一種です。
1971年に制定された「勤労者財産形成促進法」に基づき、事業主が従業員の毎月の給与やボーナスから一定額を天引きし、提携する金融機関に払い込むことで、従業員の財産形成を支援する制度です。
貯蓄目的が住宅取得、老後資金である場合には、利子が非課税となる税制上の優遇処置があります。
この制度で利用する主な金融商品は「定期預金」ですが、低金利の現在は、「普通預金」の金利と同じくらいになっています。
財形貯蓄の税金は、550万円まで利息が非課税
通常、預金の利息には20.315%(国税15.315%、地方税5%)の税金がかかりますが、後述する「財形年金貯蓄」と「財形住宅貯蓄」の元利合計550万円までは、利息に税金がかかりません。
財形年金貯蓄のうち、生命保険または損害保険の保険料、生命共済の共済掛金などは、払込保険料累計額385万円までの利息などが非課税となります。
なお、目的以外の払い出しを行う場合は非課税にならないため、注意が必要です。
財形貯蓄制度の対象
財形貯蓄制度を受けられるかは、労働者や貯蓄商品が制度の対象かどうかで決まります。
労働者や貯蓄商品において、対象となる条件を詳しく説明します。財形貯蓄制度の導入を考えている際は、ぜひ参考にしてください。
労働者
財形貯蓄制度の対象となるのは、制度を導入している会社で働く全ての労働者です。継続して一定期間雇用される見込みであるなど条件を満たせば利用することができます。
適用されるのは、以下のような職種や雇用形態です。
- 正社員
- 公務員
- アルバイトやパートタイマー
- 派遣社員
一方、自営業者やフリーランス、労働者に該当しない法人の役員は利用できません。これは「制度を導入する会社で働く労働者」に該当しないためです。
しかし、取締役兼工場長など、労働者としての地位を持つ法人の役員は対象となります。
財形貯蓄制度への加入は労働者の自由意志に基づくもので、事業主による強制貯蓄は禁じられています(労働基準法第18条第1項)。
会社が強制的に加入させることはできないので、必ず労働者の意向を確認するようにしましょう。
参照:e-GOV(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)
貯蓄商品
財形貯蓄制度では、労働者は銀行、保険会社、証券会社などの金融機関が提供する様々な貯蓄商品を選んで、お金を積み立てていきます。
この制度で利用できる貯蓄商品は、以下のとおりです。
- 定額貯金・定期預金
- 生命保険・損害保険(貯蓄型)
- 合同運用信託
- 有価証券(国債、地方債、社債、政府保証債、利付金融債、株式投資信託など)
このように、労働者は自分のリスク許容度や投資目標に応じた最適な商品を選ぶことができ、柔軟な資産形成が可能となります。
財形貯蓄制度は、多様な商品選択を通じて、労働者の幅広いニーズに対応しています。
財形貯蓄の種類
財形貯蓄制度には、下記の3つがあります。
- 一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)
- 財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)
- 財形住宅貯蓄(勤労者財形住宅貯蓄)
以下の表は、各制度の内容をまとめたものです。
|
一般財形貯蓄 |
財形年金貯蓄 |
財形住宅貯蓄 |
労働者の加入年齢 |
制限なし |
満55歳未満 |
満55歳未満 |
利用する目的 |
制限なし |
老後に向けた年金資金 |
・新築 |
積立期間 |
3年以上 |
5年以上 |
5年以上 |
複数契約の可否 |
可能 |
不可(1人1契約) |
不可(1人1契約) |
非課税の措置 |
なし |
財形住宅貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は振込額385万円まで) |
財形年金貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は振込額550万円まで) |
一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)
一般財形貯蓄とは、使用目的が自由な財形貯蓄です。
車の購入、旅行代金など、楽しむためのお金を貯めるほか、結婚・出産、子供の教育費など、将来のライフイベントで必要なお金を準備する目的で利用できます。
一般財形貯蓄は、財形貯蓄制度を導入している企業に勤めている人であれば利用可能で、年齢制限はありません。原則3年以上の積み立てが必要ですが、1年を経過すると自由に引き出せます。
1人で複数の契約をすることも可能で、積立限度額は原則としてありません。ただし、貯蓄商品によって制限が設けられているものもあります。
比較的、条件に縛りが少なく自由なところが一般財形貯蓄の魅力ですが、税制優遇はありません。使用目的が老後の資金や住宅の購入費用ならば、利息などが非課税になる「財形年金貯蓄」や「財形住宅貯蓄」の利用が最適です。
財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)
財形年金貯蓄とは、老後の資金を貯めることが目的の財形貯蓄です。
財形貯蓄制度を導入している企業に勤める満55歳未満の従業員が利用できます。ほかの財形貯蓄と併用できますが、年金の契約は1人1つだけに限定されており、積立期間は5年以上必要です。
また、積み立ての終了から年金受け取りの開始まで、5年以内の据え置き期間を設定できます。
財形年金の受け取りは、満60歳以上から5年以上20年以内です(保険商品の場合、終身受け取りできるものもあり)。
「財形住宅貯蓄」と合わせて貯蓄残高550万円まで(保険商品の場合は払込額385万円まで)、利子などに税金はかかりませんが、一括払いなど、年金以外の払い出しを行うと非課税措置はなくなり、残額は全額解約となります。
財形住宅貯蓄(勤労者財形住宅貯蓄)
財形住宅貯蓄とは、自宅の購入・リフォームといった住まいの資金を貯める目的の財形貯蓄です。
財形貯蓄制度を導入している企業に勤める満55歳未満の従業員が利用可能で、ほかの財形貯蓄との併用もできますが、複数の金融機関との契約はできず、1人1契約のみとなります。
積立期間は5年以上で、資金の使い道は、住宅の建設、住宅の購入(新築・中古・一戸建て・マンション問わず利用可能)、工事費が75万円を超えるリフォームなどに限られています。
また、従業員本人が住むことや、床面積が一定以上であることなどの条件を満たす必要があります。
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄、合わせて元利合計550万円から生ずる利子などが非課税ですが、目的外の払い出しをする場合には、非課税になりません。
財形貯蓄(制度)が事業主にもたらすメリット
財形貯蓄(制度)は、従業員だけでなく、事業主にもさまざまなメリットがあります。
具体的には、以下のようなことが挙げられます。
- ほかの福利厚生に比べて導入しやすい
- 社員の生活を安定させられる
- 人材確保や定着をもたらす
- 財形給付金制度の対象となる
財形貯蓄制度を導入する際は、事前にメリットについて理解を深めておきましょう。
ほかの福利厚生に比べて導入しやすい
保養所やスポーツジムの費用補助、企業内カフェテリアなどの従業員に人気の福利厚生は、企業側に大きな負担がかかります。
老後の資産づくりのための企業型確定拠出年金も、コストが高く、制度設計や手続きも煩雑であるため、容易には実現できません。
一方、財形貯蓄制度は企業側の費用負担もなく、比較的負担が少ない福利厚生制度といえます。全国のほとんどの金融機関で取り扱っており、取引のある金融機関で導入の手助けをしてもらえるでしょう。
社員の生活を安定させられる
給与から毎月天引きして貯蓄ができる財形貯蓄制度を導入することは、従業員の貯蓄意識を喚起することにつながります。
強制的に先取り貯蓄をすることになるため、残った給与で生活する習慣が身に付き、働く人の暮らしが豊かになって、生活の基盤が安定します。
お金の不安が減り、従業員の勤労意欲が高まって、労使関係も安定するでしょう。離職率が低い企業は、離職率の高い企業と比べて、財形貯蓄を導入しているところが多いのが、その証拠です。
人材確保や定着をもたらす
財形貯蓄(制度)をはじめとした福利厚生制度は、企業が従業員を大切にしている姿勢の現れともいえるでしょう。
財形貯蓄制度はハローワークの求人票に表示することで、福利厚生が充実している会社としてアピールできます。
また、正社員だけでなく、パートやアルバイト、再雇用の従業員も対象にすることが可能で、従業員の定着性を高めることにもつながります。
財形給付金制度(財形基金制度)の対象となる
企業は財形貯蓄をしている従業員に対して、一人につき毎年10万円を上限とした拠出を行い、従業員の資産形成を支援できます。この制度は、財形給付金制度(財形基金制度)です。
拠出金は7年経過毎に運用益と共に財形給付金として従業員に支給されます。この仕組みにより、従業員は給料から天引きされる財形貯蓄とは別に、企業からの給付金を受け取る可能性があるため、長期的な貯蓄意欲が高まるでしょう。
企業側にとっては、従業員の福利厚生が充実することで、従業員の満足度や忠誠心が向上し、離職率の低下が期待できます。また、企業の拠出金は損金や必要経費として認められる点も、税務上におけるメリットです。
財形貯蓄(制度)は意味がない?事業主にデメリットはあるのか
事業主が財形貯蓄(制度)を導入するには、事前の準備や手続きが必要です。
具体的には、以下のようなことが挙げられます。
- 財形貯蓄の規程の作成
- 給与天引きに関する労使協定の締結
- 取扱金融機関との財形事務分担の取り決め
- 従業員への説明と募集
導入のハードルという点においては、事業主側から見たデメリットは、それほど大きくありません。財形貯蓄(制度)が制定されてからすでに50年以上が経過し、金融機関も取り扱いに慣れているため、適切なサポートが受けられるでしょう。
あえてデメリットを挙げるとするなら、目新しさに欠ける点です。特に若い世代の従業員は、貯蓄よりも投資への興味が強いかもしれません。
しかし、投資をする以前に、貯蓄を習慣化することも必要です。長く愛用されている制度ということは、それなりに実績がある、信頼できる制度といえるでしょう。
従業員に財形貯蓄(制度)のメリットをしっかりと伝えて、興味を持ってもらう取り組みも必要です。
企業が財形貯蓄を導入する方法
財形貯蓄制度を導入する際の手順は、以下のとおりです。
- 社内規程・実施細目の検討
- 取扱い金融機関の決定
- 社内規程の作成
- 労使協定の締結
- 金融機関との取り決め
- 従業員への説明と希望者の募集
従業員の貯蓄意識を高めることで、従業員の経済的安定をサポートし、従業員の安心感を向上させることができます。これにより、離職率の低減や社員の長期的な定着を促進し、企業全体の安定性にも繫がるでしょう。
また、財形貯蓄制度を導入することで、企業は福利厚生の充実をアピールでき、優秀な人材の採用にも有利に働きます。財形貯蓄にかかる運営コストは、一般的に企業の負担が少ないため、効率的な資金運用が可能です。
財形貯蓄に関連する税制優遇措置を活用することで、企業の税負担を軽減することもできます。さらに、従業員が財形貯蓄制度を通じて積み立てを行うことで、企業の金融機関との関係強化や、金融機関からの優遇措置を受ける機会が増えるかもしれません。
財形貯蓄(制度)についてのまとめ
財形貯蓄の制度や種類、従業員側と会社側のメリットをわかりやすく解説しました。
従業員は、自らの意思に頼ることなく貯金ができ、残ったお金で生活することで生活の基盤が整います。また、一般財形貯蓄であれば、1年経過した後は引き出しも可能です。
一方の企業側は、福利厚生制度の一環として財形貯蓄(制度)を導入することで、採用面で有利に働く可能性もあります。ただし、貯蓄よりも投資に興味を持っている若い世代がいる場合は、財形貯蓄(制度)のメリットをしっかりと伝える必要があるでしょう。
財形貯蓄(制度)をうまく活用して、従業員が公私ともに充実した生活を送るためのサポートを行いましょう。