社宅とは? 制度の基本的な知識や住宅手当との違いを解説!
社宅制度は福利厚生制度の一つであり、節税や人材確保のための方法としても効果的です。ただし、デメリットや注意点もあるため、導入するかどうかは慎重に判断すべきです。
この記事では、社宅制度とはどういったものなのか、基礎知識から具体的な導入方法まで詳しく解説します。導入を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
社宅制度とは?
「社宅制度」とは、企業が従業員のために住居を貸与する福利厚生制度のことです。企業側が家賃の一部を負担するため、従業員は比較的安い価格で住居に住むことができます。
よく社宅と似たものとして挙げられるのが「寮」ですが、明確な違いは定められていません。
ただ世帯向けに提供された住居のことを「社宅」、単身の従業員向けに提供された住居を「寮」と線引きすることが多いようです。
社宅は2種類ある
社宅は大きく分けて「借り上げ社宅」と「社有社宅」の2種類あります。それぞれの特徴を解説します。
借り上げ社宅
借り上げ社宅とは、企業が一般の賃貸物件を契約して従業員へ貸与することです。
1棟丸ごとや必要な数部屋のみなど、借り上げる範囲を自社で選べます。
借り上げ社宅を導入することで、企業にとっては以下のようなメリットがあります。
- 物件を保有するよりも初期費用を抑えられる
- 建物の管理費や維持費、修理費が発生しない
- もし企業を移転することになっても物件ごと移動できる
また、従業員の家賃負担を軽減できる点も見逃せません。社宅の家賃は、通常の賃貸物件の1~2割を目安に定められることが多いためです。
社有社宅
社有社宅とは、企業がもともと所有している物件を社宅として従業員に貸与することです。寮は社有社宅として扱われることが多いです。
社有社宅を導入することで、企業にとっては以下のようなメリットがあります。
- 地価の高騰などで賃料の影響を受けにくい
- 契約ごとの手続きの手間を削減できる
- 企業の資産となるため、空室があれば従業員以外に部屋を貸し出すことができる
社有社宅には備え付けの家具があったり、食堂が完備されたりしている場合が多く、従業員にとっても生活上の手間やコストの削減が期待されます。
社宅制度と住宅手当の違い
福利厚生制度の一つとして、「住宅手当」もあります。
住宅手当は、従業員自身が個人で契約している物件の賃料の一部を、企業側が負担する仕組みです。物件を貸し出すことはなく、一定の金額を給与に上乗せする形で支払います。
住宅手当の場合、住む場所は従業員が自由に選べます。ただし、給与所得に含まれることで社会保険料や所得税なども増えるので、企業と従業員の双方に経済的負担が大きくなる点は注意しましょう。
社宅制度では、従業員は住む場所を選ぶことが難しくなります。しかし、企業が賃料相当を従業員の給与から天引きするので、結果的に給与所得額が減って税負担が減らせるという良さもあります。
社宅制度のメリット
社宅制度は、企業側と従業員側それぞれにメリットがあります。
企業側のメリット
企業側のメリットとしては以下のとおりです。主な3つのメリットについて解説していきます。
- 従業員の満足度が向上する
- 節税効果がある
- 人材確保につながる
従業員の満足度が向上する
従業員にとって、家賃や初期費用などの金銭的負担が減るため、自社への満足度が高くなります。また、金銭負担が減ることで、プライベートに使えるお金や時間が増えるでしょう。
従業員の生活と心にゆとりができることで、仕事に対するモチベーションの向上が期待できます。その結果、従業員一人ひとりの生産性やクオリティが上がり、自社のイメージアップや業績にも結びつく可能性があります。
節税効果がある
社宅制度を導入することで、企業にとって節税対策になります。
企業が賃貸物件を社宅として借り、従業員の代わりに賃料の一部を支払った場合、その費用は「地代家賃等」として計上できるのです。
また、企業が社有住宅として物件を購入した場合には、建物を減価償却費として計上できます。一度に経費として計上するのではなく、長期間にわたり経費を計上しつづけられるため、長期間の節税効果があります。
人材確保につながる
社宅制度を取り入れることで、採用希望者が増える可能性もあるでしょう。特に地方から都市部に就職する人は、金銭面で不安を感じやすいものです。
社宅制度があればそうした不安を払拭できます。現在の住まいや所得などを問わず、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
社宅制度の有無は通常、求人情報に記載されます。「この企業は働く人を大事にしてくれるだろう」と企業のイメージアップにも繋がりやすくなります。
従業員側のメリット
従業員側の主なメリットは、以下のとおりです。それぞれ見ていきましょう。
- 物件探しや契約の手間がかからない
- 家賃の負担が軽減する
- 従業員同士のつながりができる
物件探しや契約の手間がかからない
社宅制度のある企業に就職した従業員は、物件探しや契約手続きの手間がかかりません。
通常、就職に伴って引っ越しをする場合は、従業員自ら不動産会社に問い合わせをし、物件を見学してから契約手続きの手順を踏むなど、いくつもの工程があります。
一方で、企業が社宅を保有していれば、部屋に空きがある場合、すぐに入居手続きに入れます。遠方から転居する従業員にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
また、給与や貯金額などを理由に入居審査で落とされる心配がないのも、うれしいポイントです。
家賃の負担が軽減する
社宅は通常の賃貸物件より家賃が低いことが多いため、従業員の負担を軽減できるでしょう。
特に借り上げ社宅の場合、企業側が家賃の一部を負担するため、従業員が個人で賃貸借契約を結ぶより安く抑えられます。
家具や家電も備え付けのところにすれば、従業員の金銭的な負担はさらに軽くなります。
家賃は給与から天引きとすれば、「お金を使いすぎて家賃が払えない」といったトラブルも避けられます。
従業員同士のつながりができる
社宅が同じ会社の従業員のみの場合、従業員同士の親睦も深められるでしょう。特に初めて一人暮らしをする場合や就職のために遠方から引っ越してきた場合は、家事や防犯面、近隣トラブルなどに対する心配や不安を感じやすいものです。
社宅の場合、部署や年代が異なる様々な方とのコミュニケーションをとる機会もあり、すぐに相談ができる環境です。孤独感も感じにくく、安心して住めるでしょう。
社宅制度のデメリット
社宅制度にはデメリットも存在します。メリットデメリットの両方を理解した上で、社宅制度の導入を検討しましょう。
企業側のデメリット
企業側の主なデメリットは、以下のようなものが挙げられます。それぞれについて解説します。
- 導入手続きの手間がかかる
- 導入や継続にコストがかかる
導入や支払い手続きの手間がかかる
社宅の導入や契約、支払いなどの対応をする部署の従業員に、負担が集中する可能性があります。
借り上げ社宅の場合、契約手続きは企業側が全て負担しなくてはなりません。契約後も毎月家賃を支払う必要があります。
また、このような手続きや支払いをそれぞれの契約ごとに行う必要があるのです。
自社に社宅関連の対応を専門的に行う部署がない場合は、総務部や人事部が兼任しなくてはならなくなります。他の業務と並行して対処しなければならず、従業員の負担も増えるでしょう。
導入や継続にコストがかかる
社宅導入にあたって、初期費用や、継続コストが必要です。
特に社有社宅の場合、初期費用の負担が大きいです。
さらに、購入後も建物の維持費や管理費、老朽化対策による補修費などのコストがかかります。
また借り上げ住宅の場合は、従業員が転職や退職で退去した後、すぐに次の入居者が決まるとは限りません。空室の期間も企業側が家賃を支払う必要があるため、時期によって無駄なコストが発生する可能性があります。
従業員側のデメリット
従業員側の主なデメリットは、以下のとおりです。
- 物件が選べない
- プライバシーが制限される可能性がある
- 将来の年金が減る可能性がある
物件が選べない
従業員は基本的に、物件を自由に選べません。建物の築年数が古かったり設備が使いにくかったりしても、そこに住まざるを得なくなります。勤務地が都市部にあったとしても、家賃相場の関係で社宅が離れた場所になることがあります。
また退職時には社宅を退去する必要があり、引っ越し金や準備は全て自分でまかなう必要があるため、退職をためらってしまうかもしれません。
プライバシーの確保が難しい場合がある
社有社宅の場合、住人が同じ企業の方のみになるため、休日でも従業員同士が顔を合わせるケースもあります。「休日は会社の人と会わずに自由に過ごしたい」と考える従業員にとっては、窮屈に感じられるかもしれません。
また企業によっては、社有社宅に門限や共有部分の掃除分担など決まりごとがある場合があります。そのため、従業員の私生活の自由度が限られてしまうことがあるでしょう。
将来の年金が減る可能性がある
基本的に社宅の家賃は給与から天引きするため、所得額が減り節税効果があります。一方で社会保険料の支払いも少なくなるため、将来受け取れる年金額も減る可能性が高くなります。
そのため、自身で将来のために投資や貯金に回すなどの対策をしておく必要があるでしょう。
企業が社宅制度を導入する流れ
実際に社宅制度を導入する場合、企業側は以下のような流れで手続きを進めます。
- 社内規定を決める
- 内見して物件を決める
- 物件に申し込む
- 契約完了・入居
それぞれの工程で行うことを、詳しく解説します。
1.社内規定を決める
まず社内規定を取り決めましょう。社内規定として決められることが多いのは、主に以下の項目です。
- 社宅制度の目的
- 入居資格
- 入居申し込みの方法
- 賃料の負担額
- 費用の負担範囲
- 入退去手続き
- 規定違反の対処法
社宅制度の目的は、規定の第1条にわかりやすく明記しましょう。またそれぞれの規定項目について、後にトラブルにならないよう、詳細を記載しておく必要があります。
特に入居資格については、従業員の中で不公平感が出ないように配慮しながら決めましょう。
2.内見して物件を決める
社内規定を定めたら、社内で物件の条件を検討します。条件はできるだけ、従業員にとって利便性の高いものに設定しましょう。
具体的な条件が決まったら、不動産会社に相談しながら、いくつかの物件を実際に内見します。その際の比較材料として、最寄り駅や病院、スーパーの有無など周辺環境の様子も一緒に確認しておきましょう。あとで社内で比較しやすいよう、写真を撮っておくことを推奨します。
3.物件に申し込む
希望条件に一致する物件が見つかったら、不動産会社に申し込みを行います。この際の契約内容は、社内規定に沿って、不動産会社に積極的に相談し調整を行いましょう。
また契約の際には、一般的な賃貸契約とは異なり、入居者全員分の転居前住民票などが必要になります。できるだけ早めに従業員に準備を進めてもらい、スムーズに手続きを行いましょう。
4.契約完了・入居
契約について企業側と不動産側の双方で合意がなされたら、契約を締結しましょう。敷金や礼金など契約に関する諸費用は、企業側が負担することが一般的です。ただし、火災保険料や町内会費等は個人負担となる場合もあります。
入居審査に問題がなければ、法人用の契約書に署名し賃貸契約が完了します。入居する際は従業員の情報管理や引っ越しなど煩雑な作業が増えるため、時間に余裕をもって行いましょう。
社宅制度を導入する際に注意すること
社宅制度の導入の際に気を付けなければならない点は、以下のとおりです。
- 費用の負担先を明確にしておく
- 経費にする際は賃料相当額を確認する
- 入居する従業員に原状回復の負担について説明する
事前に把握し対策をしておけば、トラブルを未然に避けやすくなります。
費用の負担先を明確にしておく
社宅制度では、契約から維持まで様々な費用がかかります。そのため、企業側と従業員側でどちらが何をどのくらい負担するのか、前もって決めておくと安心です。社宅の保有にかかる費用は以下のとおりです。
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借り上げ社宅 |
社有社宅 |
発生する費用の例 |
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経費にする際は賃料相当額を確認する
借り上げ社宅では、企業側が従業員から賃貸料相当額の50%以上を受け取っている場合、家賃を経費として扱えます。
賃貸料相当額は、以下の1~3の結果を合算した数字となります。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額× 0.2%
- 12円×{その建物の総床面積(平方メートル)÷ 3.3(平方メートル)}
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額× 0.22%
固定資産税の課税標準額を知るには、固定資産評価証明書が必要となります。証明書のありかが分からない場合は、建物を所有しているオーナーか不動産会社に問い合わせましょう。
入居する従業員に原状回復の負担について説明する
入居する従業員には、事前に退去時の原状回復のボーダーラインを説明しておきましょう。
国土交通省によると、賃借人負担となるものは、以下のような過失の修復費用です。
- 引っ越し作業等で生じた引っかき傷
- 賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによる、フローリングの色落ち
- 冷蔵庫下のサビを放置したことによるサビ跡や汚損
- タバコ等のヤニ・臭い
一方で賃貸人負担は、以下のような日常生活で生じる自然的な劣化の修復費用です。
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- 日照や建物構造欠陥による雨漏りなどで発生した、畳の変色やフローリングの色落ち
- 壁等の画鋲、ピン等の穴
- テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の電気ヤケ
参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
賃借人負担の中で、会社負担と従業員負担の項目や割合をあらかじめ決めておきましょう。それらを社内規定に入れ込むことで後のトラブルを防ぐことができます。
まとめ
社宅制度は、福利厚生制度の一つです。初期費用や維持費用などの負担はかかりますが、社宅制度があることを幅広い人材にアピールでき、全国から優秀な人材を確保しやすいでしょう。
うまく活用すれば節税対策にもつながります。家賃が安くなったり、契約の手続きの手間がかからなかったりと、従業員にとっても大きなメリットがあります。会社のイメージアップ戦略として、社宅制度の導入を検討してはいかがでしょうか。
企業の福利厚生について、もっと知りたいという方はこちらのページも参考にしてください。