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【会社法改正】株主総会資料の電子提供制度

【会社法改正】株主総会資料の電子提供制度

この記事の著者
日本大学商学部  教授 

1 はじめに

今回は、令和元年会社法改正によって導入された、株主総会資料の電子提供制度について解説します。

会社法は、取締役会設置の有無、書面投票制度の採用の有無に従い、株主総会招集通知に添付すべき書類を区分けしています。

まず、取締役会設置会社においては、定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対し、計算書類および事業報告を提供しなければなりません(会社法437条)。

一方、取締役会が設置されていない会社においては、株主総会の招集通知に事業報告等を添付する必要はありません。

また、書面投票制度を採用している会社は、招集通知に株主総会参考書類および議決権行使書面を交付しなければなりません(同法301条1項)。

書面投票では、株主は実際に株主総会に出席することなく議案の可否を判断できる必要があるため、招集通知に加えて議決権の行使について参考となる事項を記載した株主総会参考書類を送付する必要があります。

ただ、株主総会参考書類の印刷などにはコストがかかるため、企業側としてはかかるコストを削減したいところです。

そこで、令和元年会社法改正によって、会社は定款に定めることによって株主総会参考書類を電子提供することができるようになりました。


2 株主総会資料の電子提供制度とは

株式会社は、取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続きを行うときは、電子提供措置をとる旨を定款で定めることができます(会社法325条の2前段)。

この場合において、定款には、ウェブサイトのアドレスなどを定める必要はなく、単に電子提供措置をとる旨を定めれば足ります(同条後段)。

電子提供措置とは、電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいいます。

法務省令において電子提供措置は、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用するものによる措置とされ(会社法施行規則95条の2)、具体的には、株式会社が自社のホームページなどを通じて株主総会資料の情報データをアップロードし、株主が同データをウェブサイト上で入手することができるような措置となります。

電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、書面投票もしくは電子投票を採用するか、または当該株式会社が取締役会設置会社である場合には、株主総会の日の3週間前の日または株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3か月を経過する日までの間、以下①~⑦に掲げる事項にかかる情報について継続して電子提供措置をとらなければなりません(会社法325の3①)。

  • ① 株主総会の日時・場所、株主総会の目的事項があるときは当該事項、書面投票または電子投票を採用する場合はその旨、その他法務省令で定める事項
  • ② 書面投票を採用する場合、株主総会参考書類および議決権行使書面に記載すべき事項
  • ③ 電子投票を採用する場合、株主総会参考書類に記載すべき事項
  • ④ 少数株主による議案要領通知請求がある場合、株主提案議案の要領
  • ⑤ 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、計算書類および事業報告(監査報告、会計監査報告を含む)に記載されまたは記録された事項
  • ⑥ 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、連結計算書類に記載されまたは記録された事項
  • ⑦ ①~⑥までに掲げる事項を修正したときは、その旨および修正前の事項

取締役が招集の通知に際して、株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項にかかる情報については、電子提供措置をとる必要はありません(同条2項)。

これは、議決権行使書面の記載事項をすべて電子提供措置の対象としてしまうと、会社はかかる事項をすべての株主につき個別にウェブサイトなどに掲載しなければならなくなり、手続きが煩瑣となるため電子提供措置を不要としています。

また、その発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日までに前記①~⑦に掲げる事項(定時株主総会に係る事項に限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く)を記載した有価証券報告書の提出の手続を、開示用電子情報処理組織(いわゆるEDINET)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、電子提供措置をとる必要はありません(同条3項)。

これは、金融商品取引法に基づく有価証券報告書の開示と会社法に基づく事業報告および計算書類による開示を実務上一体的に行い、かつ、株主総会の前に有価証券報告書を開示する取り組みを促進するためとされています。

以下では、いくつか要点をピックアップして解説をします。


3 株主総会の招集の通知等の特則

電子提供措置をとる場合、株主総会の招集通知は、公開会社かどうかを問わず、株主総会の日の2週間前までに行わなければなりません(会社法325条の4第1項)。

4で後述する書面交付と時期を(公開会社の招集通知の時期に)揃えることに合理性があるとされたためです。

また、その場合の株主総会の招集通知には、以下の事項を記載または記録しなければなりません(同条2項、298条1項1~4号、会社法施行規則95条の3第1項)。

  • ① 株主総会の日時および場所
  • ② 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
  • ③ 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
  • ④ 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
  • ⑤ 電子提供措置をとっているときは、その旨
  • ⑥ 有価証券報告書記載内容を開示用電子情報処理組織(EDINET)を使用して行ったときは、その旨
  • ⑦ ⑤⑥のほか、法務省令で定める事項(ウェブサイトのURLなど)

4 書面交付請求

電子提供措置をとる株式会社の取締役は、招集の通知に際して、書面交付請求をした株主(電磁的方法による通知の承諾をした株主を除く)に対し、電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければなりません(会社法325条の5第1項・2項)。

株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部または一部については、交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができます(同条3項)。

法務省令では、株主総会参考書類・事業報告・計算書類・連結計算書類にそれぞれ記載または記録された事項(いわゆるみなし提供制度の対象となる事項と同様の事項)とされています(会社法施行規則95条の4第1項)。

なお、事業報告・計算書類・連結計算書類にそれぞれ記載され、または記録された事項の全部または一部を電子提供措置事項記載書面に記載しないときは、取締役は、それらに定める事項を株主に対して通知しなければなりません(同条2項)。

電子提供措置をとる株式会社の取締役は、書面交付請求をした株主に対し、当該株主総会にかかる電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければなりません。また、書面交付請求は、株主総会における議決権行使の基準日を定めた場合には、基準日までに行わなければなりません(会社法325条の5第2項)。

したがって、基準日が定められない場合は、書面交付請求は、株主総会の招集通知の発出までに行う必要があります。

書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日から1年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、電子提供措置事項を記載した書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議ある場合には一定の期間(催告期間:1か月を下ることができない)内に異議を述べるべき旨を催告することができます(会社法325条の5第4項)。

また、当該株主がした書面交付請求は、催告期間を経過したときにその効力を失います(同条5項)。

これらの規定は、過去に書面交付請求をした株主が、書面を必要としなくなったにもかかわらず撤回まではしないという状況が発生しうるところ、かかる状況においては電子提供制度を設けた意義が減殺されてしまうため設けられています。


5 電子提供措置の中断

サーバーのダウンなどによって電子提供措置事項を株主が閲覧できない、すなわち電子提供措置に中断が生じている場合であっても、以下①~④のいずれにも該当するときは、当該中断は、当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさないとしています(会社法325条の6)。

  • ① 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないことまたは株式会社に正当な事由があること
  • ② 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと
  • ③ 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと
  • ④ 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間および電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと

これは、会社法が定める電子公告の中断に関する規定(会社法940条3項)と平仄を合わせたもので、サーバーダウンやウィルス感染などによって公告に中断が発生した場合に、常に当該公告が無効とされてしまうとすると株式会社にとって酷であり、かかる状況を回避する必要があるために設けられています。


6 その他の実務上の注意点

(1)上場会社における電子提供措置

振替株式を発行する会社(上場会社)は、電子提供措置をとる旨を定款で定めなければなりません(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律159条の2第1項)。

なお、今回の改正によって施行される会社法の施行日(2022年9月1日)に振替株式を発行している会社は、同施行日をその定款変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更決議をしたものとみなされます(同法10条2項)。

これは、上場会社においては株式売買が頻繁になされ不特定多数の株主がいるといった理由から、それら株主に対して情報提供を高度化し積極的に行うべきであるという考え方に基づいています。

(2)登記と過料

会社法325条の2の規定に基づき電子提供措置をとる旨の定款の定めを置いているときは、その定めを登記しなければなりません(会社法911条3項12号の2)。

これは、電子提供措置があるかどうかは、株式を取得しようとする者にとって重要な事項であり、登記によって公示される必要があると考えられたためです。

なお、ウェブサイトのアドレスについては、変更のたびに変更登記が必要となると煩雑であることから、登記事項とはされていません。

電子提供措置をとる株式会社の取締役は、会社法325条の3第1項の規定に違反して電子提供措置をとらなかった場合には、100万円以下の過料が処せられることとなります(会社法976条19号)。


7 おわりに

以上、令和元年会社法改正によって導入された株主総会参考書類の電子提供制度について解説しました。

同制度を活用することで企業は各種コストの削減や充実した情報開示(IR)を果たすことができ、一方、株主は提供された各種情報をもとに、株主総会の議案の検討により多くの時間を割くことなどができるようになります。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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