[契約書の書き方]第12回 業務委託契約書〔請負型②〕
前回に引き続き、請負型の業務委託契約書について解説します。
再委託
第6条(再委託)
1 乙は、甲の書面による事前の承諾がない限り、本業務の全部又は一部を第三者に委託してはならない。
2 乙は、本業務の全部又は一部を第三者に委託する場合、当該再委託先に対し、本契約により乙が負担する義務と同等の義務を課し、当該再委託先の義務の履行その他の行為について一切の責任を負う。
本条は、委託業務の再委託について定める規定であり、本コラムの第10回で準委任型の業務委託契約書の規定例として挙げたものと同じです。
請負契約の場合、民法上、委任契約において復委任を制限する644条の2のような規定はなく、下請負(再委託)は制限されていません。
しかし、請負型の業務委託契約においても、準委任型と同様に再委託を制限する規定を設けるのが一般的です。委託者は、受託者の仕事完成能力や経済的な信用状況に基づいて受託者に仕事を依頼していますので、受託者が勝手に第三者に下請に出すことを禁止する必要があるからです。
第1項では、委託者である甲が事前に書面で承諾した場合に限り、再委託を認めることとしています。
第2項では、例外的に再委託が許される場合、受託者である乙が、その再委託先に対し本契約と同等の義務を負わせることと、再委託先の行為について甲に対する責任を負うことを約する規定です。
本契約では、再委託を原則として禁止していますので、再委託が許された場合であっても、何か問題が生じたときは、再委託を行った乙に責任を取らせることを予定しています。
製品の納入
第7条(納入)
1 乙は、甲に対し、個別契約に定めるところに従い、製品を納入する。
2 乙は、納期に製品の全部若しくは一部を納入することができない事由が生じたとき又はそのおそれがあるときは、直ちに甲に通知し、甲及び乙は、商品の納入時期等について協議する。
3 乙は、その責めに帰すべき事由により商品の納入を遅延したときは、甲に対し、これによって甲が被った損害を賠償しなければならない。
本契約では、第3条において、個別契約で納期及び納入場所を定めることととしていますので、本規定例の第1項では、その個別契約での約定どおり納品することを確認しています。
第2項及び第3項は、納品の遅延に関して、事前の協議によって解決を図ること、及び、受託者(乙)の帰責事由によって納品が遅延した場合の委託者(甲)に対する損害賠償責任について規定するものです。
製品の検収
第8条(検収)
1 甲は、製品の納入を受けた後○○日以内に、個別契約で定めた仕様及び法令その他の公的な規格における仕様又は基準に従って、受入検査を行い、合格したもののみを受領する。
2 甲は、前項の受入検査の結果、製品の種類、品質又は数量が本契約に適合しないものであることを発見したときは、発見してから△△営業日以内に乙に通知する。
3 乙は、前項の通知を受けたときは、甲の指示する期限までに、甲に対し、製品の代替品を納入し、数量不足の場合には不足分を納入するものとし、数量超過の場合には乙が超過分を引き取るものとする。
本条は、第7条の規定に従って納入された製品の検収(検査と受入れ)について規定するものです。
① 検査の基準
第1項は、検査の基準を「個別契約で定めた仕様及び法令その他の公的な規格における仕様又は基準」としています。本契約では、第3条⑴で製品の仕様を個別契約で定めることとなっていますので、これがまず検査基準となります。また、製品によっては法令やJIS規格(日本産業規格)などの公的な規格が制定されている場合がありますので、これらも検査基準となり得ることを規定しています。
マスクのJIS規格
令和2年(2020年)より急速に拡大した新型コロナウィルス(COVID-19)感染の予防のため、国民のマスク着用が一般化しています。従前はマスクに関する公的規格・基準はなかったのですが、令和3年(2021年)6月、マスクの性能及び試験方法について標準化を図り、使用者が安心して購入できるように、医療用及び一般用のマスクを対象としたJIS T9001(医療用及び一般用マスクの性能要件及び試験方法)、コロナ感染対策に従事する医療従事者用のマスクを対象としたJIS T9002(感染対策医療用マスクの性能要件及び試験方法)が制定され、経済産業省と厚生労働省により公表されました。
② 検査及び通知の期限
検査とその結果を通知する期限を定めておくことによって、受託者(乙)は、納品に際して製品に契約不適合が発見された場合に委託者(甲)から契約不適合責任の追及を受ける期限が概ねいつまでとなるかについて、予測できることになります。
本規定例では、甲が製品の納入を受けた後○○日以内に検査を行うこと(第1項)、検査の結果、甲が契約不適合を発見してから△△営業日以内に乙に通知すること(第2項)が定められていますので、「○○」と「△△」の具体的な日数から、上記の予測が可能となります。
③ 契約不適合の場合の対応方法
第3項は、受入検査段階において、甲が製品の契約不適合を発見して乙に通知したときの乙の対応方法について規定するものです。
具体的には、代替品の納入(履行の追完)、数量不足の場合の不足分の納入、数量超過の場合の引取義務をそれぞれ定めています。
受入検査終了後に契約不適合が発見された場合の規律については、次の第9条において定めることとしています。
請負契約における契約不適合責任(担保責任)
令和2年(2020年)4月より施行された現行民法は、改正前の請負人の担保責任に関する規定を大幅に削除し、559条により、売買契約の契約不適合責任の規定を準用することとしました。
これにより、請負契約においても、履行の追完の請求(562条)、報酬減額請求(563条)並びに損害賠償請求及び解除権の行使(564条)が可能となっています。
こうして、現行民法は、契約法全体の整合性を図っています。ただし、請負に特有の問題として、注文者の供した材料の性質又は注文者の指図によって契約不適合が生じた場合の担保責任の制限(636条)と、目的物の引渡しを要しない場合の担保責任の期間の制限(637条2項)の規定が設けられています。
受託者の担保責任
第9条(担保責任)
甲が、製品の種類、品質又は数量が本契約に適合しないものであることを前条の検収時に発見することができなかった場合、検収後6か月以内にその契約不適合を乙に通知したときは、乙は、甲乙間の協議により、製品の代替品の納入、製造代金の減額、又は数量不足によって甲に生じた損害の賠償をしなければならない。
受入検査において不合格となった製品については、第8条の規定に従って処理することになりますが、その時に発見できなかった契約不適合については、甲が検収後6か月以内に乙に通知した場合に、乙が履行の追完、代金減額、又は数量不足による損害の賠償に応じることを本条で定めています。
「6か月」という期間は、本コラムの第3回で説明した商法526条のうち、2項後段の、「売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。」という規定を参考にしたものです。しかし、契約不適合責任を追及し得る期間は、当該製品の性質や耐用年数などの事情に照らして検討すべきであり、必ずしも6か月としなければならないものではありません。
また,受託者(乙)の立場からすれば、そもそも検収時に契約不適合が発見されずに合格となった製品については、以後一切担保責任を負わないと定めることも検討すべきです。
次回は、引き続き業務委託契約書(請負型)に関する規定の解説を行い、同契約書の解説を終了する予定です。