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建設工事請負契約約款の内容・種類のポイント

著者: 弁護士・法務博士(専門職)  平 裕介

建設工事請負契約約款の内容・種類のポイント

〔建設工事請負契約の約款の内容と建設業法との関係〕

当社はこのたび建設工事の請負契約を締結することを検討していますので、今日は、建設工事の請負契約の要点について教えてもらいたいと思っています。建設工事請負契約では「約款」を用いるのが普通だという印象ですが、これは法律で決まっているからでしょうか。そもそもの質問ですが…。

はい。もちろん多数の条項が想定される契約書を一から作るのは効率的ではないからという理由もあるのですが、建設業法(以下「法」ということがあります。)が建設工事の請負契約の内容(内容上の規制)について詳細に規定しているので(建設業法18条、法19条1項等)、建設業法の規定の内容に適合する約款を作る必要性が高いのです。

また、このように建設業法上の規定を書面化する必要があることを受けて、法34条により国土交通省に設置されている「中央建設業審議会」(以下「中建審」といいます。)が「建設工事の標準請負契約」の「約款」を作成しており、さらに、この約款を用いるよう「勧告」しています。

ですから、お見込みのとおり、実務上も、約款を用いて契約をするのが普通です。

建設業法(抜粋)

(建設工事の請負契約の原則)

第18条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。

(建設工事の請負契約の内容)

第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項
2~3 (略)

(中央建設業審議会の設置等)

第34条 この法律、公共工事の前払金保証事業に関する法律及び入札契約適正化法によりその権限に属させられた事項を処理するため、国土交通省に、中央建設業審議会を設置する。

2 中央建設業審議会は、建設工事の標準請負契約約款、入札の参加者の資格に関する基準、予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費に関する基準並びに建設工事の工期に関する基準を作成し、並びにその実施を勧告することができる。

なるほど。国交省に置かれる審議会が標準的な約款を作っているわけですね。ところで、建設工事の請負契約の当事者は「対等な立場」で「公正な契約」を締結するとわざわざ規定していますが、これは要するに受注者側が不当に不利にならないようにするためのものですかね。

そういう面があることは間違いありません。建設工事の請負契約は、本来は、契約当事者の合意によって成立するもの(諾成契約、民法632条)ですが、合意内容が不明確だと、民法の請負契約の規定だけは十分な解決が図れず、それが紛争の原因になってしまいます。

また、建設工事の請負契約を締結する当事者間の力関係が一方的であることにより、契約内容が一方にだけ有利に定められてしまいやすいという、いわゆる請負契約の「片務性」の問題が生じ、建設業の健全な発展と建設工事の施工の適正化が妨げられることになるおそれもあります1

現在でも、受注者側の建設業界から、この「片務性」の問題がなおあると指摘されており、「請負け」状態は変わっていないといった声もありますので2、法18条は、事業者同士の契約の場合には、主に受注者側が不当に不利にならないようにするための規定だといえる面があるでしょう。

とはいえ、注文者(発注者)が事業者ではなく個人(消費者)のような場合3には、逆に注文者の方が情報量や交渉力がないことが多いでしょうから、このような場合には注文者の利益のためにも契約内容の適正化を図る必要があり、そのための法規制があるわけです。

なるほど。契約内容の適正化のための規制は、ほかにどのようなものがありますか。

ほかの主要な法規制としては、不当に低い請負代金の禁止(法19条の3)、不当な使用資材等の購入強制の禁止(法19条の4)、著しく短い工期の禁止(法19条の5)、建設工事の見積りの努力義務(法20条1項)、請求があった場合の見積書交付義務(法20条2項)、請負代金の前金払の定がなされた場合の保証(法21条)、一括下請負の禁止(法22条)、下請代金の支払方法に関する規制(法24条の3)、検査及び引渡しの方法に関する規制(法24条の4)などがありますね4


〔建設工事請負契約の約款の種類〕

建設工事請負契約の約款の内容と建設業法の規定の要点は大体わかりました。次に、約款の種類のことについて聞きたいのですが、工事の性質や大きさなどによって、いくつか種類があるのではないかと思いますが、こういったことも、法律で決まっているのでしょうか。

建設業法(法律)で約款の種類が規定されているわけではないのですが、中建審が定めた約款が国土交通省のウェブサイト5で公表されています。工事の性質や工事の規模に応じて異なる種類の約款が公表されていますね。

どのような種類があるのでしょうか。

大別して、

①公共工事用の約款である「公共工事標準請負契約約款」、
②民間工事用の約款である「民間建設工事標準請負契約約款」、
③下請工事用の約款として「建設工事標準下請契約約款」

の3種類があります。そして、②は、さらに「(甲)」と「(乙)」の2種類に分かれます。

②の「(甲)」と「(乙)」は、何が違うのでしょうか。

「民間建設工事標準請負契約約款(甲)」は、民間の比較的大きな工事を発注する者と建設業者との請負契約についての標準約款であり、
「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」は、個人住宅建築等の民間小規模工事の請負契約についての標準約款であるとされています。

このように、民間企業の工事の標準請負契約約款のうち、比較的大きな工事の場合が「(甲)」で、小規模の場合が「(乙)」です。ただし、「(甲)」の方については、民間企業の場合であっても、常時工事を発注する者は「公共工事標準請負契約約款」によるとされています。

「公共工事標準請負契約約款」は、国の機関、地方公共団体等の公共発注者だけではなく、民間企業の工事についても用いることができるように作成されたものということでしょうか。

そうです。電力、ガス、鉄道、電気通信等の、常時建設工事を発注する民間企業の工事についても用いることができるように作成されたもので、請負契約の「片務性」の問題が比較的生じにくい内容となっています6。また、実際に、公共工事標準請負契約約款の実施については、各省庁等の国の全ての機関、都道府県、政令指定都市、公共法人等に加え、電力会社、ガス会社、JR各社、NTT等の民間企業に対しても、中建審から勧告が行われており、地方公社、市町村等には、都道府県を通じて勧告がなされています7

中建審が作成した約款以外の約款はあるのでしょうか。

はい。「民間(七会)連合協定 工事請負契約約款」というものがあり、広く利用されています。建築に関連する7団体の選出メンバーによる「民間七会連合協定 工事請負契約約款委員会」のもとで、構成7団体の協定、協働による作成され、発行されたものです8

建設工事請負契約約款の内容や種類のポイントが大体わかってきました。

何よりです。またいつでも聞いてください。


1 国土交通省ウェブサイト参照。
2 草柳俊二『詳説「公共工事標準請負契約約款」建設契約の管理の理論と実践(上)』(日刊建設工業新聞社、2019年)73頁参照。
3 建設工事請負契約についても、発注者が消費者(消費者契約法2条1項)に当たる場合には、消費者契約法が適用される(東京弁護士会 法友全期会編著『新債権法に基づく建設工事請負契約約款作成の実務』(日本法令、2021年)10頁〔阿久津透〕)。
4 法友全期会・前掲注(3)『新債権法に基づく建設工事請負契約約款作成の実務』9頁〔山崎岳人〕参照。

5 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html
6 草柳・前掲注(2)『詳説「公共工事標準請負契約約款」建設契約の管理の理論と実践(上)』73~74頁参照。
7 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html
8 民間(七会)連合協定 工事請負契約約款委員会編著『令和2年(2020)4月改正 民間(七会)連合協定 工事請負契約約款の解説』(第6版、大成出版社、2020年)2頁。

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著者プロフィール

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平 裕介

弁護士・法務博士(専門職)

永世綜合法律事務所、東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。

行政事件・民事事件を中心に取り扱うとともに、行政法学を中心に研究を行い、大学や法科大学院の講義も担当する。元・東京都港区建築審査会専門調査員、小平市建築審査会委員、小平市建築紛争調停委員、国立市行政不服審査会委員、杉並区法律相談員、江戸川区法律アドバイザー、厚木市職員研修講師など自治体の委員等を多数担当し、行政争訟(市民と行政との紛争・訴訟)や自治体の法務に関する知見に精通する。

著書に、『行政手続実務体系』(民事法研究会、2021年)〔分担執筆〕、『実務解説 行政訴訟』(勁草書房、2020年)〔分担執筆〕、『法律家のための行政手続きハンドブック』(ぎょうせい、2019年)〔分担執筆〕、『新・行政不服審査の実務』(三協法規、2019年)〔分担執筆〕等多数。

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