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ベンチャー企業が投資を受ける際の投資契約・株主間契約について③

著者:しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士  曽根 圭竹

ベンチャー企業が投資を受ける際の投資契約・株主間契約について③

1 株主間契約の構造及び各条項

(1)構造

株主間契約は、以下の3つの内容から構成されることが多くなっています。

投資契約の内容

具体的な規定

投資家によるガバナンスに関する事項

取締役指名権・事前承諾事項・情報開示等の投資家が対象会社を監視・監督する規定

対象会社株式の譲渡に関する事項

優先引受権・先買権・売却参加権・強制売却権・みなし清算等の契約当事者が株式を譲渡(処分)する際の規定

その他一般事項

目的・経営専念義務・補償・一般条項などの規定

その中でも、後述するとおり「対象会社株式の譲渡に関する事項」のうち、強制売却権やみなし清算条項については、全ての株主との間で契約締結することが望ましいですが、「投資家によるガバナンスに関する事項」については、持株比率の高い投資家が特に保護を求める内容であり、エンジェル投資家や一部の個人投資家などはそこまで契約締結を望むものではないことから、株主間契約の当事者としては、持株比率の高い投資家を中心に、会社及び経営株主との間で締結すればよく、全ての株主を対象とする必要はありません 1


(2)各条項

①投資家によるガバナンスに関する事項

投資家によるガバナンスに関する事項とは、資金提供をした対象会社について投資家が情報収集を行う観点から必要となる内容をいいます。主要な内容としては、以下のものが想定されます2

(ア) 取締役(オブザーバー)指名権
(イ) 投資家の事前承諾事項
(ウ) 投資家への通知事項
(エ) 財務情報の提供(情報開示)


(ア) 取締役(オブザーバー)指名権

取締役の指名権については、会社法においても、取締役(又は監査役)の選任に関する種類株式を発行することで当該種類の株主のみに取締役の指名権限を与えることも可能ではあります(会108条1項9号)。ただし、種類株式を発行した場合、種類株主総会の開催が必要となることから、対象会社にとっては管理が複雑となり、また投資家の中には登記(公示)されることを嫌がるものも存在するため、種類株式を活用せずに、株主間契約のみで定める場合も少なくありません。

また、投資家にとっても、取締役の派遣とまで行かなくても取締役会への出席が認められれば、情報収集は一応可能となりますので、取締役会へのオブザーバーとして参加することを望む場合もあります。これらを具体化するために、一定以上の議決権を有する株主に対しては、取締役又はオブザーバーの指名権を与える場合があり、条項例は以下のようになります。

【条項例】

第●.●条(取締役の指名権) 

1.発行会社の議決権総数のうち、●●%以上を保有する単独又は複数の投資家は、発行会社の取締役1名を指名することができるものとする。
2.前項の規定に基づき、投資家が取締役を指名した場合には、本契約の当事者は、投資家が指名した者が発行会社の取締役として選任されるために必要なあらゆる措置を執らなければならない。
3.~以下、略~


(イ) 投資家の事前承諾

文字通り発行会社が一定の重要事項を決定しようとする場合に、事前に投資家の承諾を得ることを求める規定となります。実務上は、「投資の前提となる事項(株式・新株予約権の発行、他の投資契約・株主間契約の締結、株式の譲渡承認、事業計画・予算案・資金調達計画の変更、代表者の変更、IPOの時期・公開市場・主幹事証券会社の変更等)」や「ベンチャー企業の財務状況に重要な影響を及ぼし得る事項(剰余金の配当、自己株式の取得、重要な資産の取得・売却、借入れ、キーパーソンの選解任等)」について事前承諾の対象とすることが求められているとされています3


(ウ) 投資家への通知事項

また、投資家から事前承諾を得ることまではせずに、事前通知や事後通知とする場合もあります。ベンチャー企業の経営者は、経営に対し機動的な判断ができるようにしておきたいと考えており、投資家側としても、事前承諾事項が多岐にわたると検討しなければならない内容が増えるため、いくつものベンチャー企業に対し、投資を行っているような場合には、投資家側も事務負担が増えてしまうことから、事前承諾を原則とするのではなく、事前承諾事項は最小限に絞り、その他重要な事項については、事前通知(又は事後通知)とし、投資家が情報共有できるような制度設計にすることでスピード感をもったベンチャー企業の経営が望ましいと言えるでしょう。


(エ) 財務情報の提供(情報開示)

株主であれば、決算期にかかる計算書類は開示されることになります(会438条)。ただし、投資家への情報提供として、年に1度では情報開示の回数は少なく、また、提供される書類についても、財務状態の結果や成果を表すもののみで、月次の財務情報が開示されることは予定されていません。しかし、月次の財務情報は、対象会社の経営状況を知る上で重要な基本情報となりますので、経営株主に対し、株主間契約で提供する義務を課すのが一般的となっています。


②対象会社株式の譲渡に関する事項

対象会社株式の譲渡に関する事項とは、対象会社株式を譲渡する際の取り決めを指します。

それらの取り決めは、純粋に投資家のために存在するものとベンチャー企業をよりEXITしやすくために存在するものに大別することができます。具体的には、以下の内容が主たる規定となりますが、ベンチャー企業をよりEXITしやすくするために存在する(エ)及び(オ)の規定については、全ての株主との間で契約締結しなければそれら本来の効果を得ることができなくなってしまいますので、その部分だけ抜き出して株主間契約としてではなく、「財産分配契約」のように別契約として締結する場合もあります。

(ア) 新株発行等における優先引受権
(イ) 先買権
(ウ) 売却参加権
(エ) 強制売却権
(オ) みなし清算

(ア) 新株発行等における優先引受権

投資家の出資後に、新たに第三者に対して新株発行等をする場合、当該投資家が追加出資を行わない限り、当該投資家の持株比率は希釈化し、対象会社に対する影響力は低下することになります。この状況を避けるために、投資家の持株比率を維持するための規定として、新株発行等における優先引受権が規定されることになります。

【条項例】

第●.●条(新株発行等における優先引受権) 

1.投資家は、発行会社が株式、新株予約権、新株予約権付社債又はその他株式の交付の請求若しくは取得が可能な証券又は権利(以下、「株式等」という。)の発行等をする場合、当該株式等の発行時における投資家の発行会社に対する株式保有比率に応じ、当該発行される株式等を優先的に引き受けることができる権利を有する。
2.~以下、略~


(イ) 先買権

先買権(さきがいけん)とは、一般には、対象会社の株主のいずれかが、その保有株式を第三者に譲渡しようとする場合に、先買権を有する株主がそれらの株式等を優先的に全部又は一部買い取ることができる他の株主の権利をいいます。

先買権は、①他の株主にその持株比率を増加させる機会を与えるとともに、②好ましくない者に株式が譲渡されることを防止することが主な目的となります4


(ウ) 売却参加権

売却参加権とは、対象会社の株主がその保有株式を第三者に譲渡しようとする場合に、売却参加権を有する当該投資家に対しても、その持株比率に応じて、譲渡希望株主と共同してその保有株式等を第三者に譲渡することができる権利をいい、「共同売却権」や「タグ・アロング権」と呼ばれることもあります。売却参加権は、株主間で株式等の売却機会を共有することで、株主に平等な投資回収の機会を与えることを目的としています5

先買権と売却参加権はあわせて規定されることが多いのですが、実務上、両者の関係性が明確にされていない株主間契約書が散見されていると指摘するものもあります6ので、これらを規定する場合には、両者の先後関係や適用についての関係性を明確に定めておくことが望ましいです。


(エ) 強制売却権

強制売却権とは、一定の条件に達した場合に、発行会社の株主全員に対して株式の売却その他M&Aへの参加を強制することができる権利をいい7、「一斉売却請求権」や「ドラッグ・アロング権」と呼ばれることもあります。このように強制売却権は、ベンチャー企業の株主の足並みを強制的にそろえる効果を生じさせますので、結果として、IPO以外の方法によるEXITの可能性を高めることにつながります。

ただし、経営者株主としては、強制売却権が発動されれば、事業機会を奪われることにもつながりますので、この規定を設けることに抵抗するのも無理はありません。そのため、強制売却権の発動要件は少しでも経営株主の要望に沿うように設計することが、株主間契約をとりまとめる点からも望ましいと言えます。また前述のとおり、強制売却権は全ての株主と間で契約締結をしなければ、強制売却権が掲げる目的を達成すること難しいと言えますので、株主間契約から独立して別の契約(財産分配契約)として定める場合も増えてきており、実務においては柔軟な対応が求められます。


(オ) みなし清算

みなし清算に関する規定は、発行会社の支配権が移転するようなM&A取引が行われた場合にその対価の合計額を残余財産として分配する規定です。IPOだけではなく、M&Aもベンチャー企業にとって有力な出口の選択肢の1つになっていることがみなし清算規定の存在感を増大させていますが、合併、株式交換及び株式移転のいずれかとは違い、発行会社の定款においてみなし清算の規定を直接的に定めることは難しいと解されており、定款のほかに株主間契約でも定めておくのが一般的な対応となります。先の強制売却権同様、全ての株主が当事者とならなければ、有効に機能しないことから、強制売却権同様に別契約の財産分配契約として締結される場合も少なくありません。


③その他一般事項 

株主間契約におけるその他一般事項として、株主間契約の目的を定める「目的規定」や経営株主に対し発行会社の経営に専念することを求める「経営専念義務」を定めるほか、株主間契約に違反した場合等の「補償規定」やその他契約の一般的な条項が規定されることが多くなっています。また、補償の一環として、投資契約と同様に、本契約違反に伴い生じる株式買取請求権に関する条項を定めることが多いことから、これらの規定に対しては、厳しすぎる旨を指摘するものもあります8。過度な補償規定は、投資家がダウンサイドリスクを負わないことにつながってしまいますので、濫用的な取扱いにならないよう、注意が必要です。


1 同じような指摘として小川周哉=竹内信紀『スタートアップ投資ガイドブック』229頁(日経BP、2019年)
2 詳細な解説としては、宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム編『スタートアップ投資契約-モデル契約と解説』227頁(商事法務、2020年)や桃尾・松尾・難波法律事務所編『ベンチャー企業による資金調達の法務』(商事法務、2019年)が参考になります。なお、本稿で記載している条項例も同書籍を参考に作成しています。
3 前掲注1・小川=竹内210頁
4 前掲注2・桃尾・松尾・難波法律事務所154頁
5 前掲注2・桃尾・松尾・難波法律事務所155頁
6 前掲注2・桃尾・松尾・難波法律事務所156頁
7 前掲注2・桃尾・松尾・難波法律事務所158頁
8 前掲注2・宍戸=VLF200頁

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著者プロフィール

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曽根 圭竹

しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士

一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻修士課程修了。
不動産に関する法務を中心に業務を展開しながらも、自身の研究テーマであるスタートアップ企業の法務支援や医療機関の法務支援も行うマルチプレイヤー。
著書に、『医院開業から法人化,経営・継承まで弁護士,税理士,司法書士,行政書士,社労士が答えました!(共著)』『実務が変わる!令和 改正会社法のまるごと解説(共著)』がある。

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