わかりやすい! 譲渡契約書の書き方の実務
譲渡契約書とは
権利や財産、株式、法律上の地位などを他人(他社)に譲り渡すことについて記載した契約書です。譲渡の対象となる、権利についての具体例としては債権、著作権、特許権、意匠権などが、財産については不動産や自動車などがあります。ここでは、株式を譲渡する際の契約について触れさせていただきます。
株式譲渡は、M&Aの手法の1つとして広く利用されています。例えば、ある会社の経営権を手に入れたい、と考えたときに、その会社の株式を保有している株主からその株式を買い取る交渉をし、お互いが交渉内容に合意したときに交わすのが株式譲渡契約書です。
また、中小企業の事業承継を行う際にもよく用いられています。これは、多くの中小企業では、筆頭株主と取締役が一致しているケースがほとんどなので、このような場合、筆頭株主は実質的に会社を所有し、経営していることになります。その株式を後継者に譲渡することによって事業承継が行われることになります。
株式譲渡については、一般的な「物」の譲渡に比べると独特な取り決めが必要となります。そこで、ここでは契約書へ記載すべき内容についての注意点などについて触れさせていただこうと思います。
1.目的
最も基本となる事項ですが、大切な事項ですので、会社の登記事項証明書などを参考にし、正確に記載しましょう。
譲渡するのは、どの会社の株式か(会社名、住所)
譲渡対象となる株式の数
譲渡の対価の額(通常、総額と1株あたりの金額を記載します。)
譲渡代金の額については、当事者双方が合意した金額であれば、いくらで譲渡しても問題ありませんが、株価の算定方法としては、決算書の純資産額をもとに算定する方法、公認会計士などに株式の価値を算定してもらう方法などがあります。
株式の種類(普通株式、譲渡制限株式といった株式の種類)
「株式は自由に譲渡することができる」というのが原則です。しかし、株式の種類が譲渡制限株式である場合は、会社の承認が必要となります(会社法127条、107条1項1号)。そのため、この譲渡制限株式を譲渡する場合は、会社の承認を得ることを契約の内容に盛り込む必要があります。この手続きを怠り株式の譲渡を行った場合は、契約が無効になりますので注意しましょう。
2.譲渡の実行
株式の譲渡の実行日を特定し、この実行日に売主、買主、そして対象の会社が行うべき事項を規定する必要があります。
株券発行会社の場合
売主は、買主からの支払いと同時に株券を交付しなければなりません。会社法128条1項には、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。」と規定されております。そのため、当事者間で合意があったとしても、株券の交付がなければ譲渡は無効になります。
買主は、売主から株券の交付を受けていれば、株主名簿の書き換え請求を単独で行うことができます(会社法施行規則22条2項1号)。
株券不発行会社の場合
対象会社が株券不発行会社の場合は、支払と同時に、会社に対し株主名簿の書き換え請求を行います。この請求は、買主と売主が共同で行わなければならないことが原則です(会社法133条2項)。
対象会社
株式譲渡につき、取締役会又は株主総会の承認が必要となっている場合は、取締役会又は株主総会で株式譲渡を承認した旨の記載がある議事録を作成します。
このように、株券発行会社か株券不発行会社かによって法令の規定が異なっています。契約書の作成前に、必ずチェックしましょう。
3.表明及び保証
表明保証とは、譲渡する株式について、一定の事項を列挙し、その内容が真実かつ正確であることを、他方当事者に対して表明し、これを保証することをいいます。
売主と買主で別々の記載とする場合が多く見受けられます。
売主の主な記載内容
・株式譲渡契約を締結する権限、権能を有しており、制約などがないこと
・法令などに違反する事由のないこと
・対象の株式が記載通りの内容であること
・資産・負債の状況について良好な状態に維持し重要な変更を加えていないこと
・法令を遵守していること
・反社会的勢力との関係がないこと
買主の主な記載内容
・株式譲渡契約を締結する権限、権能があること
・法令違反などがないこと
・反社会的勢力との関係がないこと
などがあります。