わかりやすい! 売買契約書の書き方の実務
売買契約書とは
商品やサービス等を有償で取引する際の様々な約束事を記載した書面のことです。民法に売買の定義として、
「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」(民法555条)
と記されています。
口頭のみでも売買契約は成立しますが、書面に残すことで内容が明確になり、後のトラブルの発生防止につながるでしょう。売買契約書に記載する内容は、主に取引の目的物、代金、数量、支払方法、納期、商品検査、契約の解除などについてです。
また、売買契約書を作成する際には、一度の取引で終了する場合と、複数回の取引が予定されている場合で、異なる形式を使うこともあります。一度の取引で終了する場合には、1つの契約書にすべてを記載することがほとんどですが、複数回の取引が予定されているような場合は、あらかじめ、各取引に共通する項目を「売買取引基本契約書」に定め、個別の取引ごとに変わる可能性のある商品名称や数量、代金、納期などについては、取引ごとの個別契約や注文書などに定める方法が取られることが多くあります。
契約書への記載事項について
1.目的物
売買契約において、目的物と代金は核となる部分です。何を取引の目的物とするのか、しっかりと特定する必要があります。製品名や製造番号などを記載し、当事者間での認識を一致させておきましょう。また、代金も有償である必要があります。無償の場合は贈与となります。
2.代金、数量等
代金は具体的な金額を明記するようにしましょう。また、その金額が目的物1つ当たりの代金なのか、1セットの代金なのかなども、明確に記載しておきましょう。
支払方法についても、振込先や振込手数料の負担は折半か、どちらかが全額負担するかなどできる限りの範囲で明確に定めておくとよいでしょう。
3.引き渡し期日・方法
商品等を買主に引き渡す期日、引き渡し場所についても明確にしておきましょう。また、引き渡しに係る費用(引き渡し場所までの運送費や保管費用等)を買主、売主のどちらが負担するのかについても記載しておくとトラブルの防止になるでしょう。
4.所有権の移転時期
所有権は、当事者間で売買の合意がなされた時点で移転するのが原則です(民法176条)。例えば、売主が「本棚を〇〇〇円で売ります。」と言ったことに対し、買主が合意すれば、その時点で本棚の所有権は売主から買主に移ります。
この原則どおりで問題がない場合には、契約書に所有権の移転時期を明記する必要はありません。すなわち、契約書に書かれていなければ、原則のとおり、合意の時点で所有権が移転することになります。
しかし、売買契約を締結する多くの場合において、この原則が採用されては不都合なことがあるでしょう。所有権だけ先に移転してしまっても、本当に買主が代金を支払ってくれるかは分からないからです。そのリスクをなくすためには、契約書に所有権の移転時期を明記するとよいでしょう。
移転時期は、「代金支払い時」や「目的物の引き渡し時」などがありますが、「代金支払い時」と設定することが多く見受けられます。
5.商品の検査、契約不適合責任
会社間など、ビジネスでの売買取引の場合には、商法の適用があり、目的物の検査については買主にその義務が課されています。
買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければなりません。また、商品の欠陥等をすぐに発見することが難しい場合でも、買主は商品の引渡を受けてから6か月以内に通知しなければ損害賠償の請求や契約の解除をすることができない、と定められています(商法526条)。
そのため、別の規定を設ける場合には、契約書に記載しておく必要があります。記載がなければ、会社間等での取引の場合には上記の商法が適用となります。
これに対し、
個人間などの取引で商法が適用されない場合、目的物の「種類又は品質」に欠陥等が存在した場合には、買主は、その事実を知ったときから1年以内に通知しなければ、損害賠償の請求などをすることができない(民法566条)
と規定されています。
この場合で気を付けなければいけないのは、「種類又は品質」についての規定であり、「数量や権利」について不適合があった場合にはこの期間は適用されない点です。数量等にも期間制限を設ける場合は、契約書に明記する必要があります。