商標の審査期間は短くできる?
商品を実際に市場で販売する際に、その商品のネーミングについてすでに商標登録ができていれば安心して事業を継続することができるわけですが、そうするには、どのくらい前に商標出願をする必要があるのでしょうか。
商標登録をするためには、特許庁に出願書類を提出して、特許庁審査官による「審査」を受ける必要があります。その結果、特に問題なしとされれば、登録料を納付していざ商標登録となります。
では、この「審査」には一体どのくらい時間がかかるものなのでしょうか?
そこでこの記事では、商標出願の審査の期間はどのくらいなのか、分かりやすく解説していきます。
1.商標出願の審査にかかる一般的な期間
通常の商標出願の審査期間は約10ヵ月となっており、少しずつ延びている傾向にあります。
下記は、特許庁で審査がなされ、その結果の通知(FA:ファーストアクション)がなされるまでの期間について、ここ5年間の推移を示しています。
2016年の審査期間は、平均4.9ヶ月となっていますから、ここ5年間の間に、2倍以上の時間がかかることになってしまっていることが分かります。
この原因としては、商標出願件数の増加と、コロナ禍での審査効率・速度の低下があると思われます。
特に、特許庁に出願される件数のここ10年の推移を見ると、ここ2,3年は漸減漸増を繰り返していますが、2011年の件数と比べると1.8倍となっています。
以前は、4~5ヵ月程度であった審査期間が、現在、10ヵ月程度にまで延びてしまっている状況にありますが、今後、出願件数が増加し、加えて在宅勤務による審査のさらなる停滞が進めば、現在の審査待ち期間がもっともっと延びていくことも十分に考えられます。
これに対し、特許庁は、このように審査期間が長くなっていることに対する対応の一つとして、一定の条件を満たす場合に例外的に審査期間を短くする制度を設けています。
それが、これからご説明する「ファストトラック」と「早期審査」です。
2.ファストトラック
ファストトラックとは、一定の条件を満たす場合に商標の審査期間を短縮することが認められる制度です。
条件を満たせば、審査期間は出願から約6ヶ月になります。
商標出願する際に、一定の条件を満たすような願書の記載とすることで、特別な手続きをすることなく、自動的に適用されることになります。ファストトラック適用を受けるための追加費用などもかかりません。
その条件とは、商標登録の出願願書に記載する「指定商品(指定役務)」を、最初から、あらかじめ特許庁が指定した表示と一致するものだけを記載することです。
「最初から」なので、出願してしまった後にその内容を補正しても、ファストトラックの対象としては認められないので注意が必要です。
「あらかじめ特許庁が指定した表示」とは、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のことです。
この点、「類似商品・役務審査基準」などに掲載されているかどうかは、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で確認することができます。
審査期間を短くすることだけを考えれば、この「あらかじめ特許庁が指定した表示」のみを使って商品・役務を記載するのがベストということになります。
しかしながら、最近の新しいサービスや、新規に開発された商品といったものは、この「あらかじめ特許庁が指定した表示」の中にそのまま該当するものが無いことということもあります。
このような場合は、商標登録を取りたい商品・役務の内容を正しく記載するために「あらかじめ特許庁が指定した表示」以外の表現を採用する必要がある場合もあるため、このファストトラックの適用を諦めざるを得ないケースもあります。
3.早期審査
早期審査は、所定の要件を満たした場合に認められ、ファストトラックよりもさらに審査期間が短くなり、早期審査の申請(「早期審査に関する事情説明書」の提出)をしてから約2ヶ月となります。ただし、その満たすべき要件や手続きはより複雑になります。
(1)要件について
その要件については、3つのパターンがあります。
- 【パターン1】
出願人(又は使用許諾を得ている者)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、権利化について緊急性を要する案件
ここで「緊急性を要する」とは、次のいずれかをいいます。
- a)第三者が出願商標を無断で使用(使用準備)している
- b)出願商標の使用(使用準備)について第三者から警告を受けている
- c)出願商標について第三者から使用許諾を求められている
- d)出願商標について日本以外にも出願中である
- e)早期審査の申出に係る出願をマドプロ出願の基礎出願とする予定がある
例えば、第25類の商品「被服」について出願した商標「XYZ」について、これと同じ商標を第三者が「被服」に使用してすでに販売開始をしているような場合です。
- 【パターン2】
出願人(又は使用許諾を得ている者)が、出願商標を既に使用している商品・役務(又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務)「のみ」を指定している案件
例えば、「被服」について、出願商標「XYZ」を実際に使用しているという場合、その願書には第25類の「被服」以外の商品・役務を記載していないということです。
仮に、まだ実際には使用を開始していない「履物」についても、将来的にはその商標「XYZ」を使用して販売する予定があるということで、願書に記載している場合、基本的には早期審査の要件を満たさないということになります。但し、この場合、事後的に「履物」を手続補正書で削除することで、当該要件を具備することになります。
- 【パターン3】
出願人(又は使用許諾を得ている者)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、「あらかじめ特許庁が指定した表示」のみを指定している案件
ここで、「あらかじめ特許庁が指定した表示」とは、ファストトラックの場合と同様、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のことです。
例えば、出願商標が「XYZ」、指定商品が第25類「被服、履物、ズボンつり,バンド,ベルト」としたのに対し、実際に「XYZ」という商標を使用して販売を行っているのは「被服」のみであるという場合、まだ「履物」などの商品について商標の使用を開始していない状況でも、このパターン3の要件を満たすことになります。
なぜなら、「履物、ズボンつり,バンド,ベルト」はいずれも「類似商品・役務審査基準」に記載れている商品であり、「あらかじめ特許庁が指定した表示」であるからです。
(2)手続について
特許庁に対し、「早期審査に関する事情説明書」を提出する必要があります。この事情説明書には、要件を満たすことが分かる必要な証拠書類を添付して提出することが必要です。
例えば、出願商標の「XYZ」が、第25類の指定商品「被服」について使用していることを証明する際には、「XYZ」ブランドのコートが店頭で販売されている写真や、商品カタログ、あるいは、EC販売されているという場合にはそのウェブサイトの写しなどを証拠書類として提出することになります。
なお、これらの証拠を書面で提出する場合には注意が必要です。書面で提出された資料の特許庁内での電子化処理のために、早期審査の要件審査の着手が遅れるため、オンラインで提出する場合と比較すると、長い場合には1ヶ月程度遅れてしまうからです。
そのため、より早急な審査を希望する場合には、それらの証拠資料を電子化してオンラインで提出すべきです。
4.まとめ
商標のファストトラックや早期審査は、通常10ヶ月かかる審査期間が約6ヶ月、約2ヶ月に短縮されることで、早期に商品のネーミングを確定できたり、他社に対する牽制武器を調達できるなど、メリットが多い制度です。ぜひ、活用してみてはいかがでしょうか。